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目覚めた先に

ゆっくりと瞼を持ち上げる。薄暗い部屋の天井に両目の焦点を合うよりも早く、そこが自室でないことに気がつく。


「ようやくお目覚めかい。あんたもよく寝るねぇ。」


左に置いてある椅子に1人の女性が腰をかけてた。

太もも程まであろう赤い長い髪は頭の後方で一つに束ねられており、前髪は左右に分けられていた。きりっと真っ直ぐ伸びる眉毛はその女性が気が強いことを物語っているようだった。


「そのままにしてな。みんなを呼んで来るから。」


そのまま彼女を見送ってしまうところでふと疑問が頭をよぎる。


「ちょっと!待ってください。ここはどこなんですか!?」


女性は振り向くことなく、後でねとだけ口にしてその場を去った。

自分の部屋じゃないならここはどこなんだ。

床は藍色のカーペットで動物の毛の様に柔らかかった。影は薄い白で塗装されており、傷、汚れ一つなかった。

となりにもう一つベッドがあるがもう起きたのか、布団が起こされていた。

すると、先ほど女性が出て行ったと同じ音をたて、ドアが開いた。先ほどの女性が数人別の人を連れてきていた。その中の男性がとなりの椅子に座った。

細く厳しい眼光をこちらにあてている。状況が掴めずにそわそわしている俺に、やっと話しかけてきてくれた。


「君が、桐崎真聡君だね。」


何故自分の名前を知っているのか知らないが、俺は反射的にはいと答えた。


「急に拉致の様なことをしてすまない。こちらも急いでいるのでね。封筒を送ったはずだが、見たかね?」


「あの真っ赤な封筒のことですか?」


「そうだ。今日迎えに行くと書いて置いたはずだが。まぁいい。」

いいと言いながら不機嫌そうなその男性は一度小さく息を吐いてから続けた。


「私は絛恩寺玄道(じゅうおんじげんどう)と言う。よろしく。」


「.......よろしくお願いします。」


よろしくと言われても.....。

戸惑っている間に次の人が話しかけてきた。


「私は佐々霧明日香(ささぎりあすか)。アスカでいいよ。あんたの寝顔なかなか可愛いかったわよ。」


そうだ。この女性は俺が寝ている間となりに座っていた女性だ。初対面の人に寝顔を見られるとは......。ニヤニヤ笑うアスカをどけて、次の人がきた。


「私は白鷺真里亜(しらさぎまりあ)。よろしくねん。」


少し背が低く、肩に少しかかったパープルブラックの髪。肌白く、大きな赤い瞳が幼さを感じさせた。多分俺より三つ、四つ年下だ。


佐田本竜二(さだもとりゅうじ)だ。俺の方が年上だから、口の利き方に気をつけろよ!」


力強く怒鳴る竜二は見た目二十代前半と言ったところだろうか。

とげとげ尖った髪が印象的で、言動とは裏腹にどこか優しさの篭った目。

しばしその目を見ていたら、何ジロジロ見てんだよ!と頭をべしっと叩かれた。


「僕の名前は岸本礼矢(きしもとれいや)。よろしく。」


長方形の眼鏡をかけ、短めの黒い髪。イメージ的には何処かの大学の優等生といったところだろうか。

全員 の紹介が済んだところで今度は俺が自己紹介をすることになった。


「名前は桐崎真聡です。中学生3年生。よろしくお願いします.......。」


少し緊張が残っているようだがなんとか言い切った。何をしているんだと思いながらも言ってしまった。


「あと一人紹介したい人物がいる。君も知っていると思うが....入ってきてくれ。」


玄道の声に反応し、そとではいっとぎこちない返事が聞こえた。

きいと相変わらずの音をたてて、ドアが開いた。そこには一人の少女が立っていた。

腰まで伸びているだろう艶やかな茶のストレートヘヤー。誰と見間違えようその美貌。間違いない。そこには結城楓の姿があった。

いつもと変わらない制服、ヘアピン、靴、表情。何故そこまで平然としていられるのか理解できない。これからどんなことをされるかも分からない連中だぞ。


「何で楓がいるんだ......。」


無意識の内に出た言葉にいち早く反応してくれたのは玄道だった。


「彼女はもうスパルトイの一員だ。」


「なっ.....。まずスパルトイってのは何なんだ!?」

さっきまで敬語を使っていた相手に使う言葉使いではないが、そんなのは気にしていられない。こんな連中と楓が仲間だと!?


「まぁ簡単に言えば、人類の為に悪と戦うヒーローってとこだな。」


竜二が平然と答えるが 、俺も同じように答える余裕はなかった。


「何と戦うって言うんだ!この世界にそんな漫画みたいな話、あるわけ....。」


「あるよ。」


俺の怒鳴り声を抑えたのは、か弱く、しかしハッキリと楓が言った言葉だった。


「楓まで何を言ってるんだ!お前だって今日ここに来たばかりだろ!なんでそんなことを言える!?」


「何時間早く楓が起きてると思ってんのよ....」


「けど....。」


するとすっと前に出てきたのが真里亜だった。


「論より証拠。あなたの様な方には見せた方が早いですねぇ。明日香さん。」


はいよと明日香が一歩前に出てきた。そして右手を前に出して少しすると明日香の右手が炎に包まれて言った。

何の手品かと思いきや、その炎が風に吹き飛ばされた様に消え去った。

明日香の右手には傷一つなくその代わり黒くて大きな金属の塊があった。L字に歪み、先端に穴の空いた黒光りするそれはどう見ても「拳銃」だった。口元を少しゆがませて


「どう?ちゃんと見れた?」


「あぁ....。」


理解が追いつかない。 明日香は続けて話し出した。


「こいつが私の能力(スキル)。ブライト・スピリッツ。要するに銃さ。勿論本物。撃てば血が出るし、痛みも伴う。」


すると明日香が俺のベッドに寝かせたままの右手に銃口を向けた。まさか!


「こんな風にね!」


「待っ!!」


だぁん!

気づくいた時には遅かった。右手に激痛が走る!

右手の甲に小さな穴が空き、中から真っ赤な血がどばどばと出てきた。

奥歯を噛み砕くくらいに食いしばったが、それでも痛みはわずかも緩まない。

チラリと横目を向けると、誰も助けようともしない!俺を殺すつもりなのか!

すると視界に青く輝く両手を祈るような構えをし、何やら小声で話している真里亜が入った。

まさにシスターと呼ぶべき少女はその輝く両手がそっと俺の右手に触れた。

その手のぬくもりは最高に心地よく、自然と痛みも消えていた。真里亞の両手が俺の右手から離れ、傷のあるべきところへと目を向けると、


「えっ.....。」


ない。傷がない。まさか。


「そう。私の能力(スキル)は回復。名前はリザ・レクシオン。」


頭をパンクしそうなほど回転させるが、理解が追いつかない。

確かに右手の甲に穴が空いた。激痛がした。しかし、ふさがった。

これじゃ、本当に魔法があるとしか言いようがないじゃないか。


「信じて貰えたかね?」


玄道の急な問いかけに、体がびくっと震えた。


「これが我々の能力だ。個々に効果は違うが皆持っている。」


「こんな人間が一人、二人じゃないってのか!?」


「ああ。そこでだ。本題に入ろう。真聡君。君にもこの能力を習得し、ともに戦場で戦って欲しいのだ。」


え!?


「ええぇえっ!!!??」


「君の力を借りたい。」



「む、無理に決まってんだろ!確かにあんたらの能力ってやつを見た!あるってことは信じる!けど俺にそんな力も才能もありゃしないんだ!」


息が切れる程叫んだ俺は、荒い呼吸を整えようと息を吸う。


「君はまだわからないのかね?」


玄道の感に触る言い方に俺はついムキになった。


「わかってないのはあんたらだ!俺はただの中学生で、何もみんなと変わらない!」


ふーとひと呼吸置いてから玄道が呆れるように言った。


「そんなただの使えない人間をここに連れてくると思うかね?先程も言ったはずだ。ここの全員が能力を持っている、とな。」


確かに皆持っているとは言った。まさか俺も含まれていたのか!?


「どんな能力を持っているかは知らないが、君が能力を持っているとこは確かにだ。」


「何も証拠があって言ってるんだ。」


お手上げというようなポーズを取りながら玄道をとった。


「まさか.....知らないのか?」


「誰を連れてくるという人選は我々が行っているのではない。それはそれで他の組織がある。そいつらが君が能力者であることをこちらに伝え、我々はそれに従って行っただけだ。」


すると玄道が椅子から立ち上がった。


「長い話はまた今度だ。さて、次だ。真聡君。立てるかな?」


当たり前すぎる質問に答えもせず、俺も無言で立ち上がった。

ついて来いと言わんばかりにこちらを見下ろしてからくるりと後ろを向き、そのまま歩き出した。 そのままついて行き、廊下に出た。

左右に広がる長い廊下は薄暗く、頼りないロウソクの光が床を照らしているだけだった。

すると玄道はある部屋に入って行った。

中はやや広く、中も廊下と同じくロウソクが照らしているだけだった。壁沿いにぽつんと一つのタンスが置いてあった。玄道が何やら手探りで探し始めた。


「手伝おうか?」


「いや、大丈夫だ。君はあの円の中心にいてくれ。」


玄道が指差すそこには円の中に星やらなんやらわけのわからない文字やらが書いてあった。魔法陣の様なものに見えた。


「腕を出しなさい。」


見つけものを探し終えたらしい。玄道がこちらに歩きながら言った。

しかし玄道が持ってきたものは長さ15cmくらいのサバイバルナイフのようなもので、そのナイフにも奇妙な文字が書いてあった。


「何するつもりだよ!?」


「すぐに終わる。さぁ、腕を出しなさい。」


逃げようと後ろを向くと、目の前に楓がいた。あまりに近くにいたため、こんな時にも緊張してしまう。


「大丈夫。痛くないよ。あのナイフにはそういう魔法がかけてあるから。」


楓があまりにも、優しい顔をするから面を食らってしまった。


「痛くないにしても、俺の腕を切ろうとしているのは確かだろ!何故そんなことするんだ!?」


「すぐにわかるから。ね?」


なんでそんな顔をするんだ。俺に信じとと言うのか。

そんなふざけたことを。

何故物事を行う前に腕を切る必要があんだ!信じられない!信じたくない!なのに...楓の顔に嘘をついているとは思えない。楓を信じていいのか?けど....。


「楓はもうやったのか?これを....。」


「やったよ。」

綺麗に澄んだ声でいう楓の口元には、かすかな笑みがあった。」


「なんでこいつらを信じたんだ!何れるか分かったもんじゃない!」


「....居場所が...私がいられる場所が欲しかったの。」


咄嗟に言葉がでない。俺が答えに困っていると、楓は続けた。


「学校だとね、何故かチヤホヤしてくれる人がいて嬉しい。けどね、どこか嫌気がさしてきたの。本当は私をどう思っているの?ってね....。」


悲しげに俯く楓はどこか儚く見えた。


「そしたらね、この人たちにここに呼ばれて、いろいろ話を聞いたの。私と真聡君が必要なんだって。必要としてくれてるって。だから私、スパルトイに入ったの。

私を必要としてくれてる人の為に。」


あれだけ人気ものの楓がこうも悩んでいたなんて...。考えのしなかった。

呆然と立ち尽くす俺に、瞳を向ける。


「だから....真聡君も一緒にスパルトイに入って欲しい。私と一緒に戦って欲しいの。」


思うように言葉が出ない。例えようもないもどかしさが胸の奥に詰まっている。輝く瞳が俺の視線を捉えた。このか弱そうな少女が戦う?そんなことがあっていいのか。しかし、既に覚悟を決めた楓を説得するのは難しい。なら...。


「.....わかった。やるよ。」


自分でも何故こう思えたのかわからなかった。

しかし、楓の目を見ると体が勝手に動いたというか....。ホッとしたように楓が息を漏らした。

魔法陣の中心に立ち、右腕の服を捲った。


「ごめん。余計な手前をかけて。ちょっとテンパっただけだ。」


「それが当然の反応だ。では、始めよう。」


右腕にナイフを突きつけられ、俺の心臓は爆発寸前だった。身体中にまわる血液の流れがわかるくらいに。

すると、躊躇いもなく玄道がナイフを俺の掌に差し込んだ。

痛みはなかった。だが、体に金属が入り込む不快感があった。掌からは血液がぽたぽたと床に垂れ落ちた。

すると一滴垂れるごとに魔法陣が光出した。徐々に血の量が多くなって行き、魔法陣が常に輝くほどになる。

すると玄道がナイフを引き抜き、一歩後ろに下がった。どうしたらいいかわからず立ち尽くしていた俺を光が包み込んで行った。

そして視界が真っ白になり、音も聞こえなくなった。

どれくらい経っただろう。少しずつ視界が元に戻って行く。

すると正面にはスパルトイのメンバーが立っていた。刺された右の掌を確認しようと腕を動かすと、不自然な重みを感じた。

右手にはロウソクの光が反射し、美しい程の輝きを放つ漆黒のロングソードが握られていた。

そして左手にも雪にも勝る純白の刃の長刀。

どちらの剣にも血を思わせる赤のラインがあった。

何がどうなっているのか....。光に包まれたと思ったら、今度は突如現れた二本の剣。


「二刀流か。珍しいな。」


「とてもお似合いですよぉ。」


「けど服装が.....。」


明日香、真里亜、礼矢が次々に感想、文句などそれそれ言って行く。

服に関しては仕方が無い。なんせ寝ている時には連れてこられたのだから。


「それが君のブラッティ・ウエポンだよ。」


「血の.....武器。」


けど.....。


「何故こんなことが、と思っているのだろう?」


玄道のあまりにも的を射抜く発言にびくっと体が震えた。


「それはとても簡単なことだ。これがもともと君に備わっている力だからだ。私はそれを引き出すことを手伝ったにすぎん。」


「俺にあった.....。」


そうだ、と玄道は首を縦に降った。


「そしてこの力を持った時、我々はある義務を負うことになる。勿論君にもだ。それが自らの命を犠牲にしてでも、人類を守ることなのだ。」


今なら分かる。彼らの言っていたとこが。楓や彼らは戦う。

俺は同じ能力(ちから)がありながら、逃げるのか?

楓がこちらを見つめていた。それは覚悟をした目。死を恐れず、戦う勇気にみなぎっているその瞳に、俺はまた背中を押された。


「......わかった。」


すーと域を吸い込み、叫びと共に吐き出す!


「俺をスパルトイに入れてください!」


一歩前にきて、玄道が右手を差し出した。


「よろしく頼む。」


差し出したその手をしっかり掴む。


「はいっ!」

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