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『世界は魔術でつくられる 〜術式を消去する左手を持つ少年、最強の師匠に拾われて理を書き換える〜』  作者: 三ノ宮 櫻


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第45話 工場

 西部の乾いた風を背に、レオンたちの乗った馬車は再び王都へと走り出した。

 出発の際、ジルヴァは不器用ながらも力強い足取りで歩み寄り、レオンに右手を差し出した。


「……ま、せいぜい死ぬんじゃねえぞ、ガキ共。王都で何かありゃあ、俺が風を吹かせて力を貸してやる。いつでも呼びな」


「……ああ、そうさせてもらう」


 レオンはその手をしっかりと握り返す。その掌からは、仲間や孤児たちを守り抜いてきた戦士の、熱く硬い質感が伝わってきた。

 馬車の車輪が轍を刻む音だけが響く中、レオンは窓の外を眺めながら低く呟いた。


「……これで、術式流出に関わっている可能性が高いのは3人か。ガルドス、アルガス、そして……フェリス」


 南部隊長、東部隊長、そして総団長。王国の重鎮たちの名が並ぶ。その重苦しい空気を破るように、エレナが前を見据えて口を開いた。


「わたくし……王都に着いたら、直接お父様アルガスにお聞きしますわ。ゴールドバルトの名にかけて、真実を隠すようなことはさせません」


 その声は震えていたが、瞳には強い決意が宿っていた。 クラリスが隣に座るエレナの肩を、励ますようにぽんと叩く。


「大丈夫よ、エレナさん。一人で背負う必要なんてないわ。あたしたち、仲間じゃない。あんたのお父様がもし何か隠してても、一緒に暴いてあげるから!」


「……クラリスさん。ありがとうございます」


「左様です、エレナ様。私たちは常に共にあります」


 ルシフェリアも静かに頷き、その言葉を肯定する。レオンは一行の顔ぶれを確認し、優先順位を口にした。


「……まずはブロンズゲートの工場だ。物的証拠を掴むのが先決だ。その後……アルガスの元へ向かう。いいな?」


「ええ!」「分かりましたわ」


 こうして、一行の目的は明確になった。

 術式の盗用、人工魔族の製造、そして王国を揺るがす裏切りの連鎖。その核心へ向けて、馬車は加速していく。

 王都の北東にそびえ立つ、巨大な鉄格子の門。煙突から黒い煙が吐き出され、重々しい金属音が響く「ブロンズゲート魔導鋳造工場」の前に、レオンたちは立っていた。


「……立ち入り禁止か。門兵が二人。まともに頼んでも追い返されるだけね」


 クラリスが物陰から様子を伺いながら、焦れったそうに呟く。エレナも沈痛な面持ちでそれに続いた。


「ええ。学生の身分では、どれだけ正当な理由を並べても、ここから先へは通してくれませんわ……」


 レオンが《虚無》で壁の術式結界を解析し、潜入経路を探ろうと視線を巡らせた、その時だった。


「……おや、こんな場所で何をされているのです?」


 背後から響いたのは、驚くほど穏やかで、それでいて芯の通った低い声。振り返ったエレナが、息を呑んでその名を呼ぶ。


「……ガルドス、様……!? なぜ、南部にいらっしゃるはずでは……」


 そこに立っていたのは、重厚な鎧を纏い、巨大な杖を携えた男――南部隊長、ガルドス・ブロンズゲートだった。彼は柔らかな、非の打ち所のない笑顔を浮かべ、優雅に一礼する。


「これはこれは、ゴールドバルト家の聖女、エレナ様ではありませんか。お隣にいらっしゃるのは、シルバーフレイム家のクラリス様ですね」


「……っ」


 クラリスは本能的な圧迫感を感じたのか、エレナの背後に隠れるようにしてその服をぎゅっと掴んだ。ガルドスの視線が、次にレオンとルシフェリアへと向けられる。


「……して、そちらのお二人は……」


「え、ええ。実は、その……この工場の高度な技術をぜひ見学したくて、皆で参りましたの」


 エレナが懸命に声を絞り出すと、ガルドスは「ほう」と目を細めた。


「……もちろん、構いませんよ。次代の聖女たるエレナ様のお頼みとあれば、断る理由などありません」


 ガルドスは入り口の兵士たちに向き直り、朗々とした声で告げた。


「未来の王国を担う学生諸君の見学だ。通して差し上げなさい」


 兵士たちが直立不動で敬礼し、重い鉄門がゆっくりと開いていく。ガルドスはレオンたちの横を通り過ぎる際、一瞬だけ、その穏やかな笑みの裏に昏い悦びを孕んだ不敵な笑みを浮かべた。


「……さあ、どうぞ。我がブロンズゲートが誇る『再誕』の現場を、存分にご覧なさい」


 招き入れられたその先、工場の奥底からは、今まで感じたことのない異質な術式の脈動がレオンの左手に伝わってきた。

 金属の重々しい音が響く工場の廊下を、ガルドスは悠然とした足取りで進んでいく。


「皆さんの活躍は、ここ王都にも届いていますよ。オーリエル王国で魔族の脅威から人々を救ったとか……実に素晴らしい」


「……光栄ですわ、ガルドス様。わたくしたち、精一杯努めただけですもの」


 エレナはガルドスの斜め後ろで、一礼しながら言葉を返す。その表情は礼儀正しいが、どこか緊張で強張っていた。

 一方、その後ろを歩くクラリスは、依然としてエレナの服の裾をぎゅっと掴んだままだ。その様子に気づいたルシフェリアが、音もなく歩み寄って小声で尋ねる。


「……どうなさいました、クラリス様。顔色が優れませんが」


 クラリスは震える視線をレオンとルシフェリアに向け、消え入るような声で囁いた。


「……嫌な感じがするのよ。この男からも、この建物全体からも。心臓がずっとザワザワして……何か、得体の知れない『不純な魔力』が混じってる気がする」


「……クラリスの直感か。」

 

 レオンは低く応じ、左手のグローブ越しに感じる大気の微かな術式振動を読み取ろうとする。


「さぁ、着きましたよ。ここが我らブロンズゲートが誇る第一作業場です」


 ガルドスが重厚な金属製の扉を、杖を突く音と共に開け放つ。

 中に入ると、凄まじい熱気と火花の匂いが一行を襲う。巨大な炉の中で真っ赤に熱せられた鉄が、機械的な魔道具の腕によって型へと流し込まれていく。整然としたラインの上で、王国兵士が手にする剣、盾、鎧といった兵装が次々と形作られていく光景が広がっていた。

 一見すれば、国を守るための神聖な鋳造場。ですが、レオンはその「鉄」が放つ魔力の指向性に、微かな違和感を覚えた。

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