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『世界は魔術でつくられる 〜術式を消去する左手を持つ少年、最強の師匠に拾われて理を書き換える〜』  作者: 三ノ宮 櫻


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第43話 風の魔術式

 夜の荒野に、凄まじい風の咆哮と怒号が響き渡った。

 先頭を切って魔物の群れに突っ込んだのは、他でもないジルヴァだった。彼は一陣の旋風と化し、手にした2対の短剣を振るうたびに、巨大な魔物の肉体が紙細工のように細切れにされていく。


「オラオラァ! どいたどいた! 俺の道を塞ぐんじゃねえぞ、雑魚共がッ!」


 ジルヴァが短剣を交差させて振り抜くと、圧縮された風の刃が放射状に放たれ、前方の魔物数十体を一瞬で挽肉へと変えた。返り血を浴びてもなお、その笑みはどこまでも狂暴で楽しげだ。

 それに続く西部騎士団の兵士たちも、規律正しい進軍など目もくれない。個々が獲物を狙う獣のように散らばり、しかし互いの背中を預け合いながら、泥臭く、執拗に魔物を屠っていく。


「……っ、凄まじい突破力ですわ……!」


 遅れて戦場に踏み込んだエレナが、光の矢を放ちながら息を呑む。目の前で繰り広げられているのは、洗練された魔術戦ではない。剥き出しの生命力と闘争心がぶつかり合う、文字通りの「喧嘩」だった。


「もたもたしてらんないわね! 燃え尽きなさいッ!」


 クラリスが杖を掲げ、白炎の火球を戦場に叩きつける。炎が魔物の群れを焼き払い、視界が開けたその先で、レオンは左手を構えて地を蹴った。


「……ふん。あんな無茶苦茶な戦い方、よく兵士がついてくるもんだ」


 レオンは眼前に迫る巨大な魔物の頭部に左手で触れる。

瞬間、魔物の巨体を構成していた強固な術式が《虚無》によって霧散し、その体は維持できなくなって砂のように崩れ落ちた。


「かっかっか! いいじゃねえか、黒髪のガキ! 派手に消しやがるなァ!」


 走りながら隣を並走するジルヴァが、血飛沫の中で白い歯を見せて笑う。


「おい野郎共! 学生にいいとこ持っていかれてんじゃねえぞ! 根性見せやがれッ!!」


 その一言で、兵士たちの士気がさらに一段跳ね上がった。

 戦場に静寂が戻る。立ち上る魔力の残滓と、消滅していく魔物たちの塵が夜風に舞っていた。


「団長! 敵軍、一匹残らず全滅を確認しました!」


 一人の兵士が血のついた剣を収め、晴れやかな顔で報告する。


「あァ? もう終わりかよ。まだ指先が冷えてんだ、少しは手応えのある野郎が出てきてもよかったんだがなァ」


 ジルヴァは短剣の血を振り払い、不満げに首を鳴らした。


「……信じられない。あんなバラバラな戦い方で、この大群を……」


 クラリスが呆然と呟き、エレナも激しく上下する肩を落ち着かせながら、荒々しくも強固な「西部の絆」を目の当たりにして圧倒されていた。


 だが、レオンだけは違った。彼は戦いの最中、ジルヴァが放っていた風の「揺らぎ」に、ある既視感を覚えていた。


「……おい、ジルヴァ。あんたの術式、少し読ませてくれ」


 レオンが静かに近づき、左手を差し出す。

「あァ? 術式を読ませろだと? ……減るもんじゃねぇし別にいいけどよ。変なことすんじゃねぇぞ」


 ジルヴァは不思議そうにしながらも、愛用の短剣を一本レオンに差し出した。


 レオンがその冷たい鋼に触れ、左手から《虚無》を流し込む。術式を破壊するのではなく、その「構造」を深く読み取っていく。

 ……数秒後、レオンの瞳が鋭く細められた。


「……やはりな。この風の指向性、そして加速の術式パターン……北部で戦った魔族と、一致する箇所がある」


「なんだと!? 冗談抜かせ、どういうことだぁ!」


 ジルヴァが思わず声を荒らげる。レオンは短剣から手を離し、冷徹に分析を続けた。


「北部の魔族も風を操っていた。……しかも、あんたよりも遥かに高密度で、洗練された術式だった」


「……っ、ふざけんな。なんで俺の術式が魔族と同じなんだよ。俺は人間だぜ、魔族の親戚になった覚えはねえぞ!」


「あんたが魔族なんじゃない。……おそらく、あんたの術式を誰かが精密に解析し、それを元にして『風の魔族』という個体を、人工的に作り上げたんだ」


 レオンの言葉に、その場にいた全員が凍りついた。魔術師の固有の術式は、指紋と同じように唯一無二のものだ。それが模倣され、より強力な殺人兵器の「設計図」として使われている。


「……西部の隊長であるあんたの術式を、そこまで深く知れる人間は限られている。……そして、その術式を魔族に組み込めるだけの技術と資金力を持つ者が、この国にいるってことだ」


 レオンの脳裏に、この平和な西部の裏で蠢く「真の裏切り者」の影が、より鮮明に浮かび上がっていた。

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