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『世界は魔術でつくられる 〜術式を消去する左手を持つ少年、最強の師匠に拾われて理を書き換える〜』  作者: 三ノ宮 櫻


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第41話 裏

 揺れる馬車の中、ジルヴァは向かいに座るレオンをじろじろと眺めながら、不意に問いを投げかけた。


「……なぁ、さっきのテメェの魔術は何なんだ? 触れただけで俺の風を霧散させやがった。あんな芸当、聞いたこともねえぜ」

 レオンは窓の外を眺めたまま、感情の起伏がない声で短く返す。


「……術式を読み取り、魔術を消す。それだけだ」


「魔術を消す……ねぇ」


 ジルヴァは顎をさすり、少しだけ意味深な目をレオンに向けた。だが、深くは追及せず、「かっかっか! そいつはまた、可愛げのない力だぜ」と笑い飛ばして話を切り上げた。

 やがて馬車は西部騎士団駐屯地近くの活気ある街並みに入り、一軒の古びた、だが清潔感のある食堂の前で止まった。

 中に入ると、香ばしい肉の焼ける匂いが鼻をくすぐる。


「オヤジ! 元気にしてるか!?」


 ジルヴァが土足で踏み込むような勢いで声をかけると、カウンターの奥から恰幅のいい店主が顔を出した。


「おう、ジルヴァ! おかげさんでな、今日も繁盛してるぜ」


 二人のやり取りには、騎士団長と市民という垣根を感じさせない、気安い信頼関係が透けて見えた。適当なテーブル席にどっかと腰を下ろしたジルヴァは、メニューを指差し、レオンたちを見渡した。


「今日は俺の奢りだ。遠慮はいらねえ、好きなもん食え! ここは肉が絶品なんだぜ」


「……随分と景気がいいんだな。騎士団長の給料ってのは、そんなに羽振りがいいのか?」


 レオンが皮肉を込めて尋ねると、ジルヴァは「あァ?」と不敵に笑う。


「まぁ、さっきの『お詫び』さ。ガキ相手にムキになっちまったからな。……それに、美味いもん食わねえと、いい仕事はできねえだろ?」


 そう言って笑うジルヴァだが、キャロルから聞いた「不透明な金の流れ」の話が、レオンの脳裏をよぎる。この店主との親しげな様子や、景気の良さは、果たしてどこまでが「表」の顔なのか。

 食事が終わり、店を出ようとしたところでジルヴァが「先に馬車に戻ってな」とだけ言い残し、路地裏へと消えていった。

 不審に思ったレオンたちが影に潜んで様子を伺うと、そこには食堂の店主と、身なりの貧しい数人の住人たちが集まっていた。ジルヴァは周囲を警戒しながら、懐からずっしりと重みのある袋を差し出し、店主に手渡している。


「……待たせたな。これで足りるか?」


「ああ、助かるよジルヴァ。」


 短いやり取りを終え、戻ってきたジルヴァにレオンが声をかける。


「……裏で何をやってたんだ。随分と熱心な秘密の『取引』に見えたがな」


 ジルヴァは一瞬、眉をぴくりと動かしたが、すぐにいつもの不遜な笑みを浮かべて頭を掻いた。


「あァ? まぁちょっとな……。大人の事情ってやつだ、気にするんじゃねえよ」


 煙に巻くような答えのまま、一行を乗せた馬車は西部騎士団駐屯地へと到着した。

 砦の門を潜ると、そこには訓練に励む騎士たちの活気ある光景が広がっていた。驚いたのは、彼らの反応だ。王宮で聞いた「粗暴な横領犯」という悪評とは裏腹に、兵士たちはジルヴァの姿を見るなり、一斉に親しげな声をかけてくる。


「ジルヴァさん、お疲れ様です! 演習、どうでした?」


「団長、戻ったんなら早く飯行きましょうぜ!」


「るせぇ! テメェら、サボってねえで剣を振りやがれ!」


 口では荒っぽく返しつつも、そのやり取りには確かな信頼関係が根付いていた。エレナはその光景に困惑し、小声でレオンに耳打ちする。


「……おかしいですわ。キャロル様は、ジルヴァ様が横領の疑いで目をつけられていると仰っていましたけれど……。部下の皆さんは、心から彼を慕っているように見えますけど」


「そのようだな……。」


 レオンは、ジルヴァの背中と、彼が住人に手渡していた「何か」の正体を、より深く探る必要性を感じていた。

 ジルヴァに促されるまま、一行は駐屯地の中でも一際奥まった場所にある隊長室へと足を踏み入れた。

 室内は、整理整頓とは無縁の雑多な空間だった。壁には巨大な地図が張り出され、そこには無数のバツ印と、複雑な進軍経路が書き込まれている。ジルヴァは地図の一点を指先で叩いた。


「いいか、西部ってのは他国と接してねぇ代わりに、手つかずの未開拓地域が山ほどある。必然的に魔族や魔物の出現も他より多い……。俺たちが一日サボれば、その分だけあっちの連中が食い荒らされる、そんな場所なんだぜ」


 ジルヴァの言葉には、先ほどまでのふざけた雰囲気はなく、最前線を守る男としての重みがあった。


「今日はもう遅ぇ。適当に部屋を用意させてやるから、泊まっていけ。……変な気は起こすんじゃねえぞ?」


 そう言ってかっかっかと笑い、ジルヴァは部下に命じてレオンたちを客室へと案内させた。

 用意された簡素な部屋に集まると、クラリスが真っ先に口を開いた。


「……ねぇ、どう思う? キャロル様の言っていた『横領の疑い』があるようには、どうしても見えないんだけど」


「ええ。部下の方々の信頼も厚いですし、あの食堂での様子……。それに、地図に書き込まれた膨大な守備範囲。彼は本当に、この地を必死に守っているように見えましたわ」


 エレナが困惑した表情でレオンを見る。レオンは窓の外、夜の闇に沈む駐屯地を眺めながら静かに答えた。


「……だが、金が動いているのは事実だ。あの食堂の裏で渡していた物……。もしジルヴァが本当に白なら、なぜあんなに怪しまれるような真似をしているんだ?」


「ジルヴァ様のあの振る舞いや、不透明な金の動きを許せないのは、疑われて当然の反応だとは思いますけれど……」

 

「……まだ、決定的な何かが足りねえ。ジルヴァが何を守ろうとしているのか……今夜、少し探ってみる価値はありそうだな」


 レオンの左手が、微かに術式の残滓を感じ取って疼いていた。

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