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『世界は魔術でつくられる 〜術式を消去する左手を持つ少年、最強の師匠に拾われて理を書き換える〜』  作者: 三ノ宮 櫻


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第40話 西部の風

 そらよッ、黒髪のガキ! テメェの力、見せてみろ!」

 ジルヴァが短剣を横に薙ぐと、不可視の風の刃がレオンの首筋を狙って飛来した。だが、レオンは動じない。左手を無造作に突き出し、その「刃」に触れる。

 次の瞬間、空気を切り裂いていた風が嘘のように霧散した。


「……あァ? 消しやがった?」


 ジルヴァが僅かに目を見開き、驚きを露わにする。だが、その驚きはすぐに狂気じみた歓喜へと変わった。


「かっかっか! 面白ぇ、魔術そのものを食いやがったか! なら……これならどうだぁ!」


 ジルヴァは地を這うような低空飛行で肉薄し、レオンの頭上から風を纏わせた短剣を全力で振り下ろした。


「くっ……!」


 レオンは即座に左手を伸ばし、短剣に渦巻く風の術式に触れる。強烈な風圧が消滅し、周囲に静寂が戻る。しかし、ジルヴァの口角は吊り上がったままだ。


「甘ぇぜ! お前は魔術は消せるが、鋼の短剣そのものは防げねぇだろ!」


 風というブーストを失ってもなお、ジルヴァの剛腕が振るう短剣の勢いは衰えない。術式を消した直後で体勢を崩したレオンに、鋭い刃が迫る。


――キィィィン!!


 激しい火花が散り、金属音が演習場に響き渡った。


「……ご主人様に、無礼を」


 いつの間にかレオンの前に割り込んでいたルシフェリアが、自身の双短剣でジルヴァの一撃を完璧に受け止めていた。銀髪をなびかせ、冷徹な瞳でジルヴァを射抜く。


「……いい反応だなぁ、メイド! かっかっか、最高だぜテメェら!」


 ジルヴァは短剣を押し返しながら、至近距離でルシフェリアに笑いかけた。その瞳には、もはや学生相手の「試験」ではなく、一人の戦士としての敬意が混じり始めている。


「……ルシフェリア、下がってろ。こいつ、ただのチンピラじゃねえ」


 レオンが低く呟き、左手のグローブを締め直した。ジルヴァは一度距離を取ると、2対の短剣をジャラリと鳴らす。


「……まぁこんなもんだろ」


 ジルヴァは唐突に殺気を霧散させると、2対の短剣を無造作に腰の鞘へと収めた。先ほどまでの狂気じみた笑みは影を潜め、どこかサバサバとした様子で首を鳴らす。


「悪かったなぁ、いきなり。……まぁ、人間相手と魔族相手じゃあ勝手がちげぇしな。テメェらの『実戦の勘』ってやつを肌で感じたかっただけだ」


 レオンは左手の構えを解かぬまま、鋭い視線でジルヴァを射抜く。


「……何が目的だ。わざわざ隊長自ら、学生相手に私闘を演じる理由を言え」


「かっかっか! 決まってんだろ。白炎の旦那――ヴォルカニカスを出し抜いた魔族を、テメェらガキどもが倒したっつーからよ。その力が本物かどうか、俺のこの目で見たかっただけだぜ」


 ジルヴァはズカズカと遠慮なくレオンたちの懐まで近寄ってくると、ガシガシと自分の頭を掻いた。


「気に入ったぜ。テメェら、学生の枠に収まってる器じゃねえ。……どうだ、一度西部クロムウェルのシマに来いよ。美味いもんでも食わせてやるぜ」


 その誘いに、クラリスとエレナは顔を見合わせる。本来なら無礼な襲撃者として撥ね付けるところだが、レオンは微かに目を細めた。


(……こいつの背後にある金の流れ、そしてガルドスとの繋がり。西部の拠点に乗り込めば、何かしらの尻尾が掴めるかもしれねえ)


 レオンは左手の手袋を整え、ぶっきらぼうに答えた。


「……いいだろう。ちょうど、騎士団がどんな『仕事』をしてんのか興味があったところだ」


「物好きですわね、カスパールさんも……。ですが、ジルヴァ様の真意、わたくしも確かめさせていただきますわ」


 エレナも覚悟を決めたように頷く。ジルヴァは「そうこなくっちゃな!」と快活に笑い、レオンの肩を叩く。


「かっかっか、んじゃ、決まりだ。西部の風をたっぷり味わわせてやるぜ、ガキども!」

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