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『世界は魔術でつくられる 〜術式を消去する左手を持つ少年、最強の師匠に拾われて理を書き換える〜』  作者: 三ノ宮 櫻


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第31話 来訪

 アステリア魔術学校の静かな朝を、地響きのような軍靴の音が切り裂きました。

 校門から現れたのは、真紅の外套を翻し、威風堂々とした体躯に重厚な魔導鎧を纏った大男。北部騎士団長、ヴォルカニカス・シルバーフレイム。


「がーっはっはっは! ここが娘の通う学び舎か! なかなか良い空気ではないか!」


 その咆哮のような声に、校舎の窓から生徒たちが何事かと顔を出し、騒然となります。

中庭で特訓を始めようとしていた一行の元に、ヴォルカニカスが爆風のような勢いで歩み寄ります。


「クラリス! 我が愛しの白き炎よ! 元気にしていたか!」


「げぇっ……お父様!? な、なんでここに、っていうかその格好、目立ちすぎよ!」


 クラリスは顔を真っ赤にして、持っていた杖で顔を隠すように叫びました。自由奔放な彼女が、これほどまでに「年相応の娘」として狼狽える姿は、レオンたちにとっても新鮮な光景でした。


「がはは、冷たいことを言うな! オーリエルでの活躍は、騎士団の報告書で読んだぞ。実に見事だ! 報告ついでに、つい足が向いてしまったわ!」


 ヴォルカニカスは豪快に笑いながらも、その鋭い眼光をクラリスの仲間たちに向けました。


「ほう……。エレナ・ゴールドバルト様とお見受けする。ゴールドバルト家の聖女、その光の防壁は北部にも届いておりますぞ。アステリアの至宝、今後とも娘をよろしく頼みます」


「ご丁寧な挨拶、痛み入りますわ。ヴォルカニカス様。クラリスさんの炎には、わたくしたちも幾度となく救われております」


 エレナが優雅に一礼する一方で、ヴォルカニカスの視線は、レオンの背後に控えるルシフェリアへと移りました。


「……ふむ。そこのメイド、良い肉体を持っているな。重心の置き方、筋肉の引き締まり方……並の騎士では相手にならん。相当な修羅場を潜ってきたと見える」


「……光栄です」


 ルシフェリアは表情を変えず、静かに、しかし警戒を解かずに短く応えます。


 そして最後に、ヴォルカニカスの視線が、左手をポケットに突っ込んで退屈そうに立っているレオンで止まりました。

 空気が一瞬で、焦げ付くような熱を帯びて重く沈みます。


「……そして、貴様がレオン・カスパールか」


 先ほどまでの親バカな笑顔が嘘のように消え、ヴォルカニカスの瞳に、戦場を支配する「武人」の冷徹な光が宿ります。


「娘を何度も危険な目に巻き込み、オーリエルではあろうことか魔族の真っ只中へ連れ回した男。……娘からの手紙では『いい奴』だと聞いていたが、私の目には、災いを引き寄せる不吉な影にしか見えんぞ」


 ヴォルカニカスの一歩が、石畳に微かな亀裂を作ります。特A級魔術師の圧倒的な魔力圧が、挑戦状のようにレオンへと叩きつけられました。


「……おい。勝手なこと言ってんじゃねえよ、親父さん」


 レオンは視線を逸らさず、ぶっきらぼうに言葉を返しました。


「巻き込んだんじゃねえ。……あんたの娘が、勝手についてきただけだ」


 レオンはぶっきらぼうに視線を跳ね返す。一触即発の空気が流れる中、ヴォルカニカスは腰の巨大な大剣の柄に手をかけた。

 ヴォルカニカスが放つ威圧感は、もはや熱波となって肌を焼くほどだった。

彼は背負っていた巨大な魔導大剣を無造作に引き抜き、その先端をレオンの喉元へと突きつける。


「……レオン・カスパール。貴様のその『不吉な影』が本物かどうか、この私が確かめてやろう。案ずるな、一撃だけでいい。死なぬ程度に受けてみせろ!」


「お父様! ちょっと、本気なの!?」


 クラリスの制止も耳に入らない。ヴォルカニカスの全身から、噴火直前の火山のような魔力が溢れ出していた。

対するレオンは、眉一つ動かさずに突きつけられた刃を見つめ、鼻で笑う。


「……勝手にしろよ。あんたの気が済むなら、付き合ってやる」


「がはは! その不遜な態度、嫌いではないぞ! ……ならば、ゆくぞッ!」


 ヴォルカニカスが大剣を振りかざすと同時に、周囲の酸素が奪われる。

放たれたのは、クラリスと同じ、だが密度も熱量も比較にならないほど巨大な「純白の炎」。


「――『白炎爆破』!!」


 轟音と共に、白銀の火柱がレオンを飲み込もうと迫る。

 その瞬間、レオンは静かに左手を前に突き出した。


(……チッ。熱っ苦しい火だ。だが……)


 ジュッ、という短い音と共に、迫り来る爆炎がレオンの手のひらに吸い込まれるように霧散していく。

レオンは眉根を寄せ、心の中で毒づいた。


(……火力だけなら、クラリスより数段上か。さすがは北部隊長、ただの親バカじゃねえってことかよ)


 視界を覆っていた白炎が、何の影響も与えられずに消滅した光景を目の当たりにし、さしものヴォルカニカスも目を見開いた。


「……!? 私の白炎が、跡形もなく消された……だと?」


 沈黙が場を支配する。しかし、次の瞬間。

ヴォルカニカスは腹の底から響くような声で、豪快に笑い飛ばした。


「がーーーーっはっはっは!! 面白い! 実に面白い男だ! 私の術式を、力技ではなく『無』に還したというのか!」


 ヴォルカニカスは大剣を軽々と肩に担ぎ直し、先ほどまでの殺気を霧散させた。


「気に入ったぞ、レオン! クラリスが『いい奴』と言った意味がようやく分かった。貴様、その左手に何を飼っているかは知らんが……その力、正しく娘のために使えよ!」


「……言われなくても、そうしてる」


 レオンは不機嫌そうに左手をポケットに隠したが、その瞳は、特A級の猛攻を真っ向から受け止めたことで、僅かながらヴォルカニカスという武人への敬意を宿していた。

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