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『世界は魔術でつくられる 〜術式を消去する左手を持つ少年、最強の師匠に拾われて理を書き換える〜』  作者: 三ノ宮 櫻


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第28話 決着

 貯水池の底から這い出した魔族は、核を失った怒りで周囲の魔力を強引に集め、地上へと続くスロープを突き破って逃走する。


「逃がすかよ……! 追うぞ!」


 レオンの声に合わせ、一行は地上へと駆け上がる。王都の美しい石畳の上、魔族は周囲の建物を破壊しながら暴れ狂っていた。


「あそこですわ! これ以上、被害を広げさせるわけにはいきません!」


 エレナが光の防壁を前方に展開し、民間人への被害を食い止める。しかし、実体化した魔族の突進力は凄まじく、光の壁を力任せに押し通ろうとした。


「……私の、魔術なら……!術式結合!――水+土! 高圧泥流操作!!」


 カリンが腰のベルトから茶の瓶を装填し、右腕を地面に叩きつける。瞬時に石畳の間から大量の泥が噴き出し、魔族の足元を底なしの沼へと変えた。


「グガァァッ!? 足が……術式が重い……!」


「今です! 動きを止めました!」


 カリンが必死に泥の粘性を維持し、魔族の突進を殺す。だが、魔族は自らの魔力を爆発させ、強引に泥を吹き飛ばして再び跳躍した。その巨体が、カリンを目掛けて振り下ろされる。


「――いいえ。……隙だらけですよ」


 冷徹な声が、何もない虚空から響いた。

 次の瞬間、魔族の目の前に、忽然と二人の影が浮かび上がる。

 透明魔法で姿を消していたルシフェリア。そして、彼女に抱えられ、共に不可視化されていたクラリスだ。


「……っ、ビックリした! 本当に姿が消えるなんてね!」


 ルシフェリアの腕の中で、クラリスが不敵に笑いながら杖を掲げる。魔族は、目の前に現れた「空白」からの急襲に、反応することすらできなかった。


「近距離なら外さないわよ! 最大出力――白炎火球!!」


 ルシフェリアがクラリスを支えたまま、至近距離で透明化を解除。同時に放たれた純白の火球が、魔族の顔面に直撃した。


ドォォォォォォン!!


 凄まじい爆炎が魔族を包み込み、その巨体を地面へと叩き伏せる。


「……ナイスだ、ルシフェリア、クラリス」


 レオンが爆煙を切り裂いて飛び出す。

 ルシフェリアの隠密性と、クラリスの破壊力。そしてカリンが作った一瞬の足止め。


「……これでおしまいだ」


 レオンの左拳が、白炎で焼き焦げた魔族の心臓部へ、最後の一撃を突き立てた。


バキィィィィィィィィン!!


 術式の根源を破壊された魔族は、断末魔を上げる暇もなく霧散し、王都に静寂が戻った。


「……はぁ。……透明化して抱えられるなんて、変な感じだったわ」


 クラリスがルシフェリアの腕から降り、ふらつきながらも親指を立てる。

 ルシフェリアは静かに一礼し、レオンの隣へと戻った。


「カリン様の泥流が、魔族の術式回路を鈍らせてくれました。……おかげで、隠密の精度が上がりましたよ」


「……あ、ありがとうございます……。皆さんの連携、本当に凄いです……」


 カリンは空になった瓶を見つめ、少し震える手で魔道具を撫でた。一人では勝てなかった敵も、この仲間たちとなら戦える。その確信が、彼女の胸に深く刻まれていた。

 魔族が霧散し、王都に静寂が戻ったのも束の間。石畳を叩く規則正しい足音が響き渡り、銀色の甲冑に身を包んだオーリエル王国の近衛騎士団が現場を包囲した。


「動くな! なんの騒ぎだ!」


 先頭に立つ騎士隊長が、抜き放った長剣をレオンたちに向ける。その鋭い視線は、ボロボロになった黒革の手袋をはめるレオンや、正体不明のメイド服を纏ったルシフェリア、そして異国の杖を構えたままのクラリスへと注がれた。


「……チッ。面倒そうなのが来やがった」


 レオンが不機嫌そうに吐き捨てる。一触即発の空気が流れる中、一歩前へ出たのはカリンだった。

 彼女は乱れた水色の髪を整え、汚れの付いたローブの裾を正すと、近衛騎士たちを真っ向から見据えて頭を下げた。


「おやめなさい! 剣を収めてください、騎士隊長殿!」


「カリン殿……!? なぜ貴女がこのような場所に。それに、その異国の者たちは一体……」


 カリンは怯むことなく、凛とした声で言葉を継いだ。


「この方たちは、アステリア王国から我が国へ派遣された交換留学生です。私が汚染術式の調査中に独断で協力を仰ぎ、危険な戦闘に巻き込んでしまいました。すべては私の責任です。……申し訳ございませんでした」


 その毅然とした態度に、エレナも一歩隣に並び、ゴールドバルト家の家紋が刻まれたネックレスを指先で示した。


「……左様ですわ。わたくしたちはカリンさんの依頼を受け、友人として力を貸したまで。怪しい者ではございません」


 騎士隊長は疑念の眼差しを崩さなかったが、ふと周囲の異変に気づき、目を見開いた。


「……待て。街を侵食していたあの黒い氷が……消えているのか?」


「はい。彼らの協力のおかげで、汚染の核となっていた魔族を完全に排除できました。見てください、水路の水も本来の清らかさを取り戻しています」


 カリンが指し示した先には、澄んだ水が穏やかに流れていた。騎士たちが次々と周囲を確認し、長年国を苦しめてきた「術式汚染」が完全に消滅したことを報告する。


「……失礼した。カリン殿の仰る通りだ。この未曾有の危機を救ってくれた方々に対し、無礼な真似を」


 騎士隊長は剣を鞘に収め、レオンたちに向き直ると、深々と頭を下げた。


「アステリアの若き魔術師たちよ。我が国の窮地を救ってくれたこと、オーリエル王国近衛騎士団を代表して感謝申し上げる。先ほどの非礼、どうか許していただきたい」


「…………別に。……俺は頼まれたから殴っただけだ。礼ならカリンに言えよ」


 レオンは顔を背けてぶっきらぼうに答えたが、その横でルシフェリアが満足げに頷き、クラリスは「分かればいいのよ、分かれば!」と得意げに笑った。

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