第21話 想い
「……そうですわね。泣き言を言っている暇など、一秒もありませんわ!」
エレナが凛とした声で応じ、腰の細剣を抜き放つ。ゴールドバルト家の誇りを示す金の装飾が、赤黒い術式の光を撥ね退けた。
「……当然よ! あんたが何者だろうが関係ない。レオン、あんたをあんな寂しい場所に一人で行かせやしないわ!」
クラリスも力強く頷き、愛用の杖を防御術式の起点へと構える。その瞳には迷いなど微塵もなかった。
「……だからこそ、三人でこの壁を破るわよ!」
クラリスの叫びに、ルシフェリアが二人を振り返る。かつては孤独な暗殺者だった少女が、今は「仲間」としての絆をその双眸に宿し、静かに、しかし深く頷いた。
「ルシフェリアさん、クラリスさん……合わせますわよ!」
エレナが細剣に魔力を注ぎ込み、極限まで圧縮された『聖魔法・光の矢』を生成する。放たれた無数の光の矢。だが、それは敵を射るためではなく、一点にエネルギーを凝縮するための「芯」となる。
そこへ、ルシフェリアが《透明魔法》の応用術式を重ねた。
「屈折率固定……全エネルギーを、一点へ!」
光の屈折を極限まで操作し、エレナの光を逃さぬよう、目に見えない「レンズ」の檻で包み込む。拡散しようとする魔力が、ルシフェリアの精密な制御によって、凄まじい密度へと圧縮されていく。
一点に凝縮され、眩いレーザーと化した光の指向性。そこへ、クラリスが全力の魔力を叩きつける。
「いっけえぇぇ!! 白炎火球!!」
光の軸に、殺傷能力の極致である『白炎』がエネルギーを取り込む。聖なる光、透明、そして白炎。三人の魔力波長が、キャロルの想定を超えた次元で一つに溶け合った。
「「「おおぉぉぉ!!」」」
三人の咆哮と共に放たれた合体術式は、キャロルが展開した幾何学的な魔方陣を、内側から食い破るように貫いた。
パリン
と空間が割れるような乾いた音が響く。
絶対不可侵のはずだったS級魔術師の障壁に、巨大な亀裂が走った。
「…………っ」
キャロルは驚きに少しだけ目を見開いた。だが、その驚きはすぐに、どこか満足げな、全てを予見していたような深い微笑へと変わる。
その唇は微かに弧を描いている。まるで、この光景を待ち望んでいたかのような、あるいは自分の教え子たちが「運命」という術式を乗り越えていく姿を、誇らしく思っているような
「……ふふ。いいじゃない。理屈じゃない力……『魔術』を超えた執着か。……それこそが、僕が長年かけて見たかった景色だよ」
キャロルの姿が霧のように薄れ、地下へと続く道が開かれる。
「……さあ、行きなさい。彼を『兵器』の運命から引き摺り戻せるのは、もう僕じゃない。……君たちだ」
三人は止まることなく、レオンの背中を追って闇の底へと駆け出した。




