表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『世界は魔術でつくられる 〜術式を消去する左手を持つ少年、最強の師匠に拾われて理を書き換える〜』  作者: 三ノ宮 櫻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/49

第2話 仮面の劣等生

 あの日、雨の中で怪物キャロルに拾われてから、数年。

 俺の日常は、復讐という名の「過酷な修行」に書き換えられた。


「……ご主人様。レオン様、起きてください。登校の時間です」

 

 鼓膜を揺らす、鈴を転がすような、けれどどこか温度の低い声。

 まどろみの中で目を開けると、そこには完璧にアイロンが掛けられたメイド服を纏った少女――ルシフェリアが立っていた。

 かつて泥にまみれ、俺を背負って逃げた少女の面影は、その洗練された立ち振る舞いによって、今や「完璧な従者」という仮面に隠されている。


「……ルシフェリア。学校ではその呼び方はよせと言っただろ。目立つ」


「……善処いたします。ですが、私の魂が貴方様を『主』と定義している以上、他の呼び方は術式に拒絶反応を起こすのです」

 

 大真面目な顔で嘘を吐く彼女に、俺は溜息をついた。

 場所はアステリア魔術学校。キャロルの強引すぎる推薦により、俺たちはこの学び舎に放り込まれた。

 教室へ向かう廊下。

 周囲からは、隠す気のない陰口が突き刺さる。


「おい、あれが例の『推薦枠』か?」


「魔力量は並のBランク。属性は『無』。そのくせ、専属メイドを連れ歩いて『ご主人様』なんて呼ばせてるらしいぞ。とんだ放蕩息子だな」

 

 そんな雑音を無視して歩く俺の視界には、彼らとは違うものが見えている。

 彼らが誇らしげに身に付けている魔道具や、無意識に展開している防護術式。その「設計図コード」が、俺の脳内には欠陥だらけの落書きのように透けて見えていた。

 不意に、前方から熱い魔力のうねりが押し寄せる。


 「ちょっと、そこのあんた! どきなさい!」

 燃えるような赤髪をポニーテールに結んだ少女――クラリス・シルバーフレイムが、実技演習用の杖を振り回しながらこちらへ突っ込んできた。

 彼女の杖の先端では、制御を失いかけた白炎が膨れ上がっている。


「……危ない、ご主人様!」

 

 ルシフェリアが瞬時に俺の前に出ようとしたが、俺はそれを手で制した。

 

(……術式構成、右側面に歪み。熱膨張の計算が甘い)

 

 俺は白手袋をはめた左手を、すれ違いざまにその炎へ向けて、ほんの数センチだけ「かざした」。


 

――無音。

 

 

 暴発寸前だった白炎が、俺の横を通り過ぎた瞬間、霧が晴れるように消滅した。

 クラリスは勢い余ってつんのめり、目を白黒させて立ち止まる。


「え……? あたしの火球、消えた……? なんで!?」


「……さあな。湿気でも溜まってたんじゃないか、火の粉さん」


「なっ、火の粉……!? ちょっと待ちなさい!」

 

 怒鳴る彼女を背に、俺は歩き続ける。

 キャロルとの約束だ。この力は、魔族を消し去るその時まで隠し通す。

 だが、その一部始終を、校舎のバルコニーから見下ろす冷徹な視線があった。

 金髪を姫カットに切り揃えた「聖女」、エレナ・ゴールドバルト。

 彼女は、手元の監視対象リスト――その最上段にある「レオン・カスパール」の名前を、ペンで強く囲んだ。



 「……不自然ですわね。魔力の相殺ではなく、術式そのものが消えたように見えましたわ……」

 

 アステリア王国の平穏。その水面下で、レオンの持つ《虚無》というバグが、静かに波紋を広げ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ