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第6話「村の空き家へ」

オルグがイツキに警戒心を露わにする。

見知らぬイツキへの疑念。

その後リョカに案内され空き家へ向かうイツキ。

この世界との隔たりを痛感しながら、古びた家で休息につく。

振り返ると、オルグが大股でこちらへ向かってきていた。

その足取りに明確な意志を感じる。


「リョカ、ちょっと待ってくれ」


オルグはオレの前で立ち止まると、真っ直ぐオレを見た。


「門兵に聞いたよ。森でレジンベアを倒したそうじゃねえか。リョカを助けてくれたことは感謝するぜ」


オルグの声は、挑発めいたものを含んでいた。

そして、その褐色の瞳はオレを値踏みするように見据えている。


「たまたま一緒だっただけだ」


「ほう、たまたま、ね」


オルグは腕を組み、わずかに顎を引いた。


「レジンベアはな、普通この周辺には現れねえんだよ。まさか、お前が連れて‥‥‥」


「オルグ!」


リョカが声を荒げた。


「何を言っているの。イツキは私を助けてくれたのよ。疑うなんて失礼よ」


「疑ってるわけじゃねえよ」


オルグは視線をオレから外さないまま言った。


「ただ確認してえんだよ」


リョカは何か言い返そうとしたが、オレがそれを制した。


「彼の言うことは正しい。見知らぬ人間が村に来れば警戒するのは当然だ」


オレはオルグを真っ直ぐ見返した。


「オレはリョカに案内されてここに来ただけだ。少し休めばすぐに出ていく」


「‥‥‥そうか」


オルグは少しの間オレを見つめた後、小さく頷いた。


「ならば歓迎する――と言いたいが、この村でちょっとでも変な動きをしたら、俺が相手になるぜ」


そう言うと、オルグは右手を腰の剣の柄に置いた。


「オルグ、それぐらいにして!」


リョカが呆れたように言うと、オルグは背を向け、来た方向へ歩き去っていった。


リョカは大きくため息をついた。


「ごめんね。オルグはああいう性格なの。悪い人じゃないのよ。いつも村のことを考えている」


「構わない。彼は自分の役目を果たしているだけだ」


オレは去っていくオルグの背を見つめた。


「さあ、行きましょう」


リョカの言葉で、オレはようやく本来の目的を思い出す。


オレとリョカは、並んで村の小道に沿って歩き出した。

小川が流れ、水の音が聞こえる。

鳥が水面にゆらゆらと浮かんでいた。

ときおり遠くから子供達のはしゃぐ声が聞こえた。


すれ違う村人たちは、リョカに会釈を送り、オレには好奇の目を向けた。


途中、大きな広場を通りすぎる。

その中央に、石で円形に囲まれた場所があり、その中心には大きな穴が開いていた。


「あの穴はなんだ?」


「え?あれは井戸よ。水をあそこで汲んで使うってまさか‥‥‥これを知らないとか‥‥‥」


リョカがまたしても唖然とした表情を見せる。


「知らない」


オレは事実を正確にはっきりと伝える。


オレが住んでいた場所では、蛇口の前で声をかけるだけで水が出た。

水を自らくみ上げるという概念自体なかった。

まあ、どこかの古い書物で見たことがあったような気がするが。

リョカは慣れてきたのか、呆れているのか、それ以上は突っ込んでこなかった。


ただ、小さく首を振りながら先を歩き続ける。


「イツキって、本当にどこから来たのよ。 井戸も知らないなんて、どうやって生きてきたの‥‥‥」


リョカが独り言のようにつぶやく。


オレは目につく物全てが珍しく、一つ一つを注意深く見ていた。

石を積んだ炉から立ち上る煙、手押しの荷車、木の樽、すべてが人の手によって動かされている。


『お兄ちゃん、この村の技術レベル、東京より1000年以上は遅れてるよ(キョロキョロ)。でもね、エネルギー効率とかの観点から見ると、意外と理にかなってる部分もあるみたいだよ(フムフム)』


「うん、カーティ、その情報いらない」


オレは、躊躇うことなくバッサリ切る。


『えー、せっかく分析したのにー(プンプン)』


村はずれ、低い柵の並ぶ小径の先に、その空き家はあった。

木と石の混ざった小さな家で、苔のついた板屋根がゆるくたわみ、煙突は冷え切っている。


この家の前だけ草がやわらかく伸び、時間がここで足を止めていることを静かに知らせていた。


「さあ、着いたよ。ここが今日あなたが休む場所よ。ま‥‥あ快適な家じゃないかもしれないけど、休むだけなら十分!」


なぜかその言葉には自信が溢れていた。


オレはその不思議な家らしきものに入ろうとしたが、戸口の前で動きが止まる。


「どうしたの?」


リョカは不思議そうな顔をする。


少し間を置いてオレは言った。


「いや、オレがいた国の建物とかなり仕組みが違うみたいで、これどうやって入るんだ?」


「なにそれ、小馬鹿にしてるの?」


少しむくれた表情を見せる。


「いや違うんだ。オレの国では自分でドアを開けるってことはしないんだ。全て自動化されている。だから、開け方がわからないんだ」


オレが振り返って仰ぎ見たリョカの表情はひどく無機質なものに変化していた。


「――しばらく使ってなかったから埃がすごいかもね‥‥‥あとで掃除しにきてあげるから、それまでゆっくりしてて」


リョカはそう言うと、ヒラヒラと手を振って去っていった。


軽くため息をつき戸口を押すと、古い蝶番が短く鳴いた。

ひやりとした空気が頬をなで、木と灰の匂いが混ざって流れ出す。

一歩踏み入れるたび、床板が「ぎし」と低く応え埃が舞った。

小さな窓から差す光が、格子の影を床へ四角く落としていた。


部屋の奥の脇の棚には割れた茶碗と、乾いた薬草の束が吊るされている。

どれも長く手が入っていないのに、不思議と荒れてはいない。

ここは、誰かの暮らしがそのまま時間の上に置かれていた。


オレは窓辺に近づき、指で埃を払う。

そして粗末な寝台に腰掛けた。


そして、少しの間ぼんやりと今日起きたことに思いを巡らせた後、横になって目をつぶる。


暗闇に落ちていく。その先に待っていたのは、懐かしくも儚い夢。廃屋。無機質な壁。AIの監視。そして――リリ。


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