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第5話「村へ」

レジンベアを倒したイツキに、リョカは驚きと感謝の表情を見せる。

二人は村へ向かい、ヌーベル村に到着。

AIという概念すら存在しないこの世界の隔絶ぶりに困惑する。

オレは、水を打ったように静かになったレジンベアを見つめていた。


リョカは少し離れた茂みの中で、目の前で起こった出来事をうまく消化できないのか動かなかった。


オレは、ふっとレジンベアから視線をはずすと、スピアを縮め背中に戻しながらリョカの傍まで歩く。


「ケガはないか?あれが魔物ってやつか」


するとリョカはゆっくり顔をこちらに向けた。


「‥‥‥なぜ、ここにレジンベアが?この周辺で今まで現れたことなんかなかったのに」


オレはリョカを見つめ肩に触れた。


「もう大丈夫だ。危険は去った」


あたりはふっと息を取り戻し、光が満ち、やわらかな風が音もなく通り過ぎた。


もうリョカ落ち着きを取り戻したように見えた。


「ありがとう。あなた、とても強いのね‥‥‥恰好はちょっと変だけど」


少し笑ってリョカは言った。

それにつられてオレも少し笑った――


「でも、私だって結構優秀な神官と言われてるのよ。一応、テオプエラ候補—上位神官—なの」


リョカは、少し悔しそうな表情を見せる。


「テオプエラ?聞いたことがないな」


「イツキって本当に何も知らないのね」


リョカは顔を振り、深いため息をついた。


オレとリョカは、再び歩み始める。

レジンベアと遭遇した場所からほどなく歩くと、視界が開け、そこに「ヌーベル」と思しき村があった。


「ここが私の村、"ヌーベル"よ。ようこそ!」


リョカは大げさに両手を広げ、にっこり笑った。


「ああ、ありがとう」


オレは、村を見たまま無表情で答えた。

リョカの表情がやや曇ったが、オレは臆することなく、村の門に近づきながら、村の中を観察する。


村は、先端をペン先のように鋭く削った丸太を外へわずかに傾けて密に立てたパリサードで囲われていた。

かなり太い柵で頑丈に作られているのは、さっきのような魔物と言われる大型獣対策といったところだろう。


門の両端には、若い門番が二人立っている。

片方は麦色の髪で、擦り切れた革の胸当ての上から槍を軽く抱える。

もう片方は黒髪を短くまとめ、門柱にもたれた姿勢から足元の小石を靴先で転がしている。


門の先には、背の低い家並みが続き、板葺きや藁葺きの屋根から、細い煙がまっすぐ空へ伸びていた。

干し草と木の匂いが漂い、中央には井戸と小さな広場、木箱の上に野菜が並び、子どもが犬を追いかけていた。

柵沿いには細い小川が流れていた。


――にしてもだ、この時代において、ここまで近代化から取り残された場所が存在したのか?


AIによる支配が始まってから、世界で監視されていない場所など存在しなくなったはず。

敢えて、監視対象外地域を保存している?何のために?


「カーティ、どう思う?この村の状況」


『うん、ここはね監視の死角かもしれないよ。仮説は4つね(キリッ)。1つめ!まず地形のせい。森と起伏と湿った土で、電波や赤外が通りにくい。いわゆるS/Nが低いってやつ。だから"そもそも見えない"(カモ?)2つめ!偽装のせい。何者かが熱‥電波‥動きを"ならして"何もない場所に見せてる(ズルい!)。3つめ!保存区のせい。AIが手を出さない実験エリアにしてる可能性。強い発信は呼び鈴になるから禁止ね(ダメ‥ゼッタイ!)。4つめ!それ以外で、例えば何らかの理由によりそもそもAIが存在しない。これは、可能性として上の3つより低いけど、起こりうる可能性がある。(チョットだけ?)これぐらいかな?』


「なるほど、確かに地理的要因などはあるかもしれない。もしAIがこの地区のみ特別扱いをしている場合は、いったい何が目的なんだ?」


「ちょっと、さっきから何を独り言いってるの‥‥‥?」


リョカが不気味な生物でも見るような目でオレを見ていた。


「リョカさんおかえり。そのお連れの方は?」


少し警戒心を見せながら、門番はリョカに聞いた。


「大丈夫よ。この人はイツキという人で、さっき森で魔物に襲われたときに助けてくれたの」


リョカは二人の門番を諭すように言った。


「魔物!そうだったんですね。こ、これはイツキさん失礼した。リョカさんを助けてくれてありがとう。どうぞ、お通りください!」


門番は慣れた動きで門から後ずさった。


リョカが村に入ると、自然と子供たちが集まってきた。


「リョカねぇちゃんお帰り!どこにいってたの?一緒に遊んでよ」


子供たちはリョカの腕を引っ張ったり、抱きついたりしてせがんでいた。

リョカはそんな子供達の頭を優しく撫でていた。


「お姉ちゃんはこれから神語者としての仕事があるから、終わってから遊ぼうねー」


「えーつまんなーい。今すぐあそぼうよ」


子供たちはリョカと遊ぼうと必死だ。


そのとき一人の男の子がオレに気づいた。


「このお兄ちゃんだれー?」


無邪気さと退屈さからできている子供たちは、すぐにオレに群がっていった。


「お兄ちゃんの服へんー。なにこれー」


子供たちは、オレの服を物珍しそうに物色する。


「ちょっと、ダメよ。お兄さんの名前はイツキっていうのよ。さっき村の近くの森で、レジンベアってこわーい魔物が出たときに、おねえちゃんを助けてくれたんだよー。つよいんだよー」


「えー、魔物倒したんだー。でも僕もたおせるんだよー。この前やっつけたんだもん。見てて、こんな感じだよ」


男の子が、勢いよく短い足を前に突き出した。


「すごーい!強そうなキックだね。じゃあ、村が魔物に襲われたら、そのキックで守ってね!」


「うん、まもるよ!やー!」


リョカは、完全に子供たちに溶け込んでいた。


リリは――あんな風に輪に入ることも、笑顔を見せることもなかったな。いつも、孤独と過去の痛みに耐えていた。


暖かな光景を前に、オレは置き去りにされてしまった感覚を覚える。

そして同時にオレは胸に大きな穴を感じていた。

それは決して埋まることがないんじゃないかと思うほどの――


そんな様子に気づいたリョカが声をかける。


「私はこれから神語者としての準備があるの。村に今は使われていない空き家があるから、今日はそこで休んで。私から村の長には話をしておくから。さあ、行きましょう」


子供たちは相変わらずリョカの腕にぶら下がったりしていたが、リョカが遊んでくれないとわかると、他で遊ぶことを見つけてどこかへ行ってしまった。


その時、子供たちが走り去っていった方に、一人の戦士風の若者がこちらを見ていた。

彼は鈍銀の胸甲に赤い帯を斜めに巻き、右腰の剣は抜きやすく傾けて吊っていた。

陽に赤味を帯びる髪が揺れ、褐色の瞳に迷いはなく強い意志を感じさせた。

見るからに鍛えられた体からは自信があふれていた。


リョカがその若者に軽く手を振ると、その若者もうなずく。


「あそこにいる彼はなかなか強そうだな。名前は何ていうんだ?」


「とてもね。彼はオルグといって私の幼馴染よ。さあ、行きましょう」


――リョカがそう言った瞬間、オレの視界の端で何かが動いた。

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