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第4話「初陣」

レジンベアがリョカに襲いかかる。

イツキは咄嗟にリョカを庇い、魔物との戦闘に突入する。

カーティの分析を頼りに、硬い装甲を持つレジンベアの弱点を突いていく。

異世界での初めての実戦が始まった。

その魔物は、オレ達を視界に捉えると、躊躇なくリョカがいる方向へ突進してきた。

瞬時にカーティがオレの神経モデム経由で網膜へ情報を表示させる。


〖優先:リョカ保護/対象:右前方18m→突進軌道/到達 1.6s(秒)〔回避路:左後方1.6m=開け帯(低草‥段差なし/視界確保◎)〕付記:衝突動圧 高。巻き込み危険〗


次の瞬間、オレは右足で地面を強く蹴り、素早くリョカの方へ走る。


一瞬リョカに重なるようにリリの残像が浮かぶ――オレは振り払うように首を振る。

残像は消えリョカだけが残った。


驚いたことに、リョカは杖をレジンベアに向け、何か言いかけていた。


(まさか、戦う気か!?)


構わずリョカの背に素早く手を回すと、一気に跳ねるように横に飛び退く。


「え!?ちょっと待って!」

慌てるリョカの声。


刹那、レジンベアの体当たりは空を切り、背後の樹木に鈍い破断音を残した。

幹はまるで紙切れのように簡単に折れ、衝突の破壊力を物語っていた。


レジンベアのつんざくような咆哮。

自分の攻撃を避けられたという事実に目を赤くし怒りを露わにしているようだった。


リョカは予期しない襲撃による驚きのせいなのか、オレの腕の中で身を固くしていた。


オレはそっと彼女を下ろし、立ち上がる。リョカの前に立ち、レジンベアにスピアの切っ先を向けた。


「カーティ、奴はレジンベアとかいう魔物らしい。分析を」


カーティが敵情報についてオレの網膜に投影する。


〖分類:(新規)レジンベア(高装甲熊型‥魔物)?行動想定:突進→前脚爪‥噛みつき/知能:低〜中低 脆弱部推定:膝腱/眼/関節部/喉 脆化条件推定:熱/同一点への反復打撃〗


「原情報がないのか?」


『うん、未登録生体。でも、運動系トルク効率と外皮の比強度が生体材料の範囲を逸脱してて、まじヤバイ。(プルプル)油断厳禁だよ、お兄ちゃん♪』


「カーティ、一ついいか」


オレは、真剣な表情のまま言った。


『なぁに?お兄ちゃん』


「何言っているかさっぱりわからない。あと、しゃべり方と内容が全然合ってない」


『お兄ちゃん、ギャップ萌え設定を褒めてくれたのね♡あ、それから敵の装甲はぶあっついけど、関節可動域付近はどうしても脆弱になるから、そこを攻‥め‥て(キャッ!)』


オレは絶望とともにスピアを構え、前方に滑るように歩みを進める。


レジンベアの赤い目が、"盾"として立ちはだかるオレを凝視する。

次の瞬間雄たけびとともに、前足をもちあげオレの前に悠然と立ち上がった。

その大きさはオレの倍はあろうかという巨体だった。


そして、レジンベアは前に出ると同時に、右前脚でするどい爪撃を放つ。

オレは、寸前で右にかわすと同時に爪が空気を裂く音が耳に刺さり、素早く前に進みその返す刃でレジンベアの喉元にスピアを突き刺す。


その瞬間、金属を弾く高音が響き、スピアがはじかれると同時に後ろに飛びずさる。

オレが立っていた場所に爪が叩き付けられ、土柱が立つ。


(硬い。カーティの情報通り、あのレジンベアとかいうやつの皮膚は鋼鉄のように固い。通常の刺突では倒すことは不可能だ。――であれば、通常でない攻撃で仕留めるだけだ)


オレの心は落ち着いていた。

予測の範囲内だったからだ。

すべては予想の範囲内にいる限りにおいて、冷静さが保たれる。


オレは意識をスピアに集中させる。

スピアは、いくつかのモード切り替えが可能で、頭の中で「切り替える」と強く意識した瞬間に終わる。だから、引き金もスイッチもいらない。

オレの脳に埋め込まれた多機能チップがスピアとリンクしているからだ。


するとスピアの刃の一つひとつの不可視の分子が高速で振動し始めた。

空気がぴんと張り詰め、胸骨の奥でわずかに感じるほどの圧迫感が生じる。


〖振動出力 68%/刃温上昇 低 推奨:膝外→浅角→肩関節部(装甲薄)〗


レジンベアが再び右後脚で地面をえぐるほど踏み切り、半身を捻って突進してきた。


〖到達 0.9s/右前脚→払撃〗


オレは半歩だけ左へ――突進の軸を外した。

爪が空を裂く音と同時に、刃を膝の外側へ浅く滑らせる。

硬質の皮膚がキィンと鳴き、表面に亀裂が走る。


〖共鳴捕捉 微細破断〗


レジンベアは苦痛に膝が折れ、体勢を崩す。

激しい怒号が辺りに響く。

体勢を立て直す前に、オレは一歩詰める。

肩の装甲が薄い肩関節部へ斜め下から打ち上げる角度で刃を入れる。


刃が装甲の内側からほどくように動き、ぱきんと乾いた音が弾けた。

装甲片がはじけ飛び、下の生身が薄く露出する。


オレは息を整える間もなく、左前から刃先をレジンベアの喉へ刺突。

その瞬間、レジンベアは上体をのけ反らせて距離を作り、左前脚を差し込んで刃が喉に届くのを防ぐ。

前脚からは鮮血が迸る。


〖右爪攻 要注意 !〗


左前脚で防がれ、右前脚が動くの確認後、オレは半歩右にステップ移動し、浅く後退。

レジンベアが右後脚を地面に踏み込み、右前脚の爪をオレに向ける。

しかし、その攻撃は空しく空を切る。

レジンベアは右前脚を半歩前に置き直し、同時に腰を左へ切って重心を前方に落とす——正面から押し潰して噛む体勢だ。


〖注意:反撃=噛みつき→左回り維持〗


オレは左へ身を捻って噛みつきをかわすと同時にバックステップで距離をとる。


足元が深く沈み込み、低く音を立てる。

レジンベアはなおも前脚を振り下ろそうとするが、膝の亀裂がそれを許さない。

オレは間を詰めず、一歩だけ外へ。

刃の振動出力を上げ、露出した肩へ刃先をもう一度突き立てる。

肩先から鮮血が吹き、赤い目が泳いだ。


肩を斬られた痛みでレジンベアの重心が後ろにかかり、首がわずかに持ち上がる。


(――次で終わらせる)

意識を集中。振動出力を72%へ。

顎下の喉にするどく刃先を差し込む——今度は喉に到達する。

呼吸と同時に押し通す。

分子振動が肉の抵抗をほどき、芯まで届いた感触が手に返る。

レジンベアは大きく仰け反り、その場に膝をついた。


レジンベアの巨体が片膝をつき、赤い目が一度だけ大きく揺れた。

喉に深く刺さった刃先が、脈動に合わせて微かに震える。


〖生体反応:急減/12% → 0%〗


それまでの喧騒が嘘のように終わりを告げ、沈黙が訪れる。

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