模倣
放課後、学校にチャイムが鳴り響く。誰もが一度は耳にするあの合図は、放課後開館をしている図書館にも届いていた。
「今日の図書館開放は17時までです」司書の先生の言葉が、図書館にこだまする。14歳の反町宙。宙は、何も変わらない日常に飽き飽きしている。特段に良くも悪くもないからこそ。(図書委員って割と大変なのかな……)そんな事をぼんやり考えながら、本棚から一冊の本を取り出した。なんとなくとったその本は、持ち運びやすい文庫本サイズ。宙は、既に机に座って本のページを開いていた。体は、見たくてたまらないのを隠せない。表紙を見る前に、ページをめくった。一瞬、ページが白紙に見えた。
「疲れてたのかな……」そう言いながら、本を読み始めた。
翌日、宙はいつもより早めに家を出た。本に書いてあった「登校」という話を読み、それを参考に生活を始めた。「おはよう!」クラスメートに声をかけた。クラスメートは一瞬目を見張ったが、「おはよう」と、小さく笑った。
学校では率先して授業に参加し、給食の時間にはふざけたりする。放課後は、図書館で勉強をする。家に帰ってからは本を読む。
「今日はなんだかいつもよりいい日だった気がする………」高揚した気分で、夜道を歩いた。
宙は気づいていなかったが、クラスメートからの評判はとてもよかった。「話しやすい」「明るい」「生徒会になれると思う」と。宙に好意を抱くものもおり、バレるはずのアピールをしていた。それさえも宙は何も感じずにいた事から、「冷静沈着」「清楚系」などの評価もあった。
ある日、宙に相談をするものが現れる。
「反町!お願いなんだ!」
「どうしたの?」声を震わせて、高めの甘い口調で優しく問いかける。
「俺のノートが……あいつに……」
「わかった。一旦落ち着いて話してくれる?」低めの声に優しさを込めて、甘く問いかける。
全てのセリフも出来事も、宙の読んだ本の話「騒動」と合致していた。
図書館は閉まっていた。鍵もかかっていて、誰もいるはずがない。「裏口があるんだよ」彼は歯を食いしばりながら言った。宙は少し不安も覚えていた。図書館に入る事ができた2人はとある光景を目にした。司書の先生と彼のいう「あいつ」が楽しそうに話していた。その「あいつ」の手には、彼のノートが握られていた。
「このノート。中身が大人ぶってるというか、こうすれば好かれるとかいう、手本みたいになってる」彼のいう「あいつ」は冷たい声色で言う。
「で、それが私と何の関係があるのですか?」司書の先生はいつもよりはっきりとした声で言う。
「そういった本が、この図書館にある。そういった本を導入しているのはあなたですよね?そういった本の影響で、偉そうにしてる人が本当に許せない」彼のいう「あいつ」はノートを破った。
「あいつ……!俺のノートを!」彼は、「あいつ」に飛びかかった。
宙は動揺せず、落ち着いた様子で図書館から出た。
「これも、あの本の通り。ここは変に手は出さないで、近くの先生を呼ぼう」
宙の行動により、大きな怪我をする人はいなかった。
雪の季節となり、クリスマスシーズンとなり、皆が浮かれ始めていた。先輩や後輩と、デートする人もクラスに数名いた。
図書館での出来事以来、宙は様々な相談をされるようになっていた。(おかしい……。ほとんどの事は本と同じなのに、恋愛に関しては何も分からない)
いつしか、どこに行くときも本を片手に過ごすようになっていた。
学校で、今年一年の出来事を振り返る授業があった。
「シャチのいる水族館が増えたよね」
「そうそう!後は、ホワイトタイガーが上野の方の動物園に来たとか!」
「電車の横転や、本の読みすぎで狂った人とか、アルコール検査の突破やら………」
「悪い事件も割と多かったよね………」
「宙はどう思う?」宙は突然当てられて驚いたものの、体には出ていなかった。
「ま、まぁ………いいニュースも悪いニュースもどの年でもあるよね」
「私は、先輩と付き合えた事がビックニュースだけどね」彼女はドヤ顔で言う。
「はいはい」宙は淡々と言った。
その夜、宙に電話がかかってきた。
「もしもし?」電話越しに話しかける。
「日郷記念史料館です。そちらに、間違いで史料を送ってしまいました。詫びとして多数の金額を献上するので、回収させてください。そちらに従業員を向かわせたいので、住所と電話番号、親のカード番号を………」宙は電話を切った。
「分かりやすい詐欺………」宙は、なんとなく詐欺だと感じて、電話を切った。
クリスマス当日。冬休みが早くも始まり、宙はカラオケに誘われる。冬休みということもあり、宙はそれを受け入れた。
「宙の歌楽しみ!」
「いい歌声聴かせてくれよ!」
「選曲は何にする?」みんなワイワイとしている。
「選曲は……ランダムで出たやつにする」
「よっ!ソプラノもバスもお手のものってやつだな!」
宙はそのまま歌い始めた。
同じ頃、そのカラオケのあるモールで異変が起きていた。乾燥による火事だった。火事が起きていたのは、カラオケ客の荷物置き場で、荷物がどんどんと燃やされていく。まだ、誰も気付いていなかった。
宙は歌の途中に時計を見て、そのままどこかに行ってしまう。
「反町どうしたんだ?歌を中断して」
「トイレかな?」
「なんか用事が出来たんだろ。あいつ、時間に細かいし」そんな呑気な事を、みんなは言う。
宙はそのまま火事の起きてる荷物置き場に行き、本を取り出した。宙は本を持ったまま、モールの外に出る。火事の事はガン無視して。
(このまま火事を無視すれば、これから自分を虐める奴らを部屋にいたまま燃やす事ができる。自分は本を参考にしていれば、ずっと幸せでいられる)
宙はそんなことを考えながらモールから離れていた。
1人が不安になる。「反町遅くないか?」
「私、ちょっと見に行ってくる!」1人が言う。
「俺も!」連なってもう1人も言う。
「みんなで探しに行こう!」別の1人も、また言う。
宙は通りすがりに消防車を見かける。(もう来たのか……)宙は道端に落ちてる小石を拾い、消防車のタイヤの近くに狙いを定める。投げる。運転席の窓ガラスから小石が入る。消防車の到着が遅れる。
「反町!そこにいたのか!」
宙は気付いて逃げようとする。
「どうしたの?逃げようとして」
宙はそのままモールの方に戻り始める。
「おい反町!そっちは火事が起きてる!」
宙は一言はっする。「人間万事塞翁が馬」そう言って、本を炎の方向に投げ捨てた。本は炎に焼かれ、灰となっていく。宙は、その様子を見守っていた。本が完全に燃え尽きるまで………
冬休みが明け、学校が始まる。宙は以前の生活の影響か、あの本なしでは人とまともに話すことさえできなかった。宙は、完全にクラスから孤立した存在となった。




