気の触れた根性
1940年
剣持はとある軍の基地にある運動場で竹刀を片手で振り上げ振り下ろす動作を繰り返していた。
今日は「赤紙」から徴兵される若手兵卒を6名ほど個別指導するように中尉から言われていた。
”日本は間もなく米国と全面戦争になる”
仲間内や上官が常々話しているが実感は正直湧いていない。
でも日本男児として生まれた以上「お国のために」命を捧げる覚悟はできていた。
もちろん徴兵されるのは6人だけではない。
今回自分がこの6名を担当することになったのは「彼らの根性をたたき直すため」だった。
他の支部での「問題行動」が原因でこの師団に送り込まれた問題児6人。
上官が言うには、
「腕立て伏せ50回で音を上げた。」
「体温が38度程度で訓練を休もうとした。」
「1日1、2回上司への敬礼を忘れてしまう。」
などというものだった。
(信じられない…)
剣持はこの話を聞いたとき開いた口がふさがらなかった。
開いた口が塞がらないというのは言葉の綾だと思っていたがこの日初めて剣持は本当に開いた口がふさがらなかった。国家の存亡が懸かったこのときに何故そんなふざけたことが出来るのかと。
(私が指導官になったからにはその「ふざけた性根」をたたき直してやる。)
剣持が武者震いすると時刻はいつの間にか集合時間の9:00を10分過ぎていた。
「やはり噂通りのクズか。出会い頭に竹刀でひっぱたいてやる。」
剣持は竹刀を両手持ちに変え、本格的に素振りを始めた。
そんな剣持に一人の軍服を着た若者が近づいてきた。剣持は
(あいつか…第一号は)
そう毒づきわざとらしく足をドスンドスンさせて近づいた。
若者は帽子を取り深くお辞儀をして、
「初めまして。私退役代行会社”白旗”の代表取締役 潮時退と申します。」
…タイエキダイコウ?トリシマリヤク?
いきなり訳の分からない言葉の羅列を言った若者に対して剣持は竹刀でぶっ叩くのを忘れていた。