親父の罵声
ここ数日行方が分からず、明日にでも警察に捜索願いを出そうかと妻と相談していた親父が帰って来た。
頭の天辺から足の先まで泥まみれ土まみれの親父が、警察官と共に帰って来た。
玄関先で警察官が、泥まみれ土まみれの親父の姿に驚いている妻に、俺が在宅しているか尋ねているのが聞こえる。
息子が呼びに来た。
「お父さん、なんかお爺ちゃんとお巡りさんがお父さんに用があるみたいで呼んでるよ」
「あぁ、分かった」
震える足を叱咤しながら玄関に向かう。
そして俺は親殺しの罪で逮捕された。
俺の妻は施設出身で親兄弟がいない、だから俺と離婚したら頼れる者は皆無。
それを良いことに、俺は妻に足腰が弱った親父の世話を押し付けて浮気していた。
それが親父にバレ、親父に妻と子供たちを置いて家から出ていけと通告される。
親父の溜め込んでいる金で生活し、浮気を楽しんでいた俺には容認できない通告。
だから親父の首を絞めて殺し、蘇っても穴から這い出て来れないように、裏山に掘った3メートル程の深さの穴に手足を雁字搦めに縛って埋め、穴の上に大きな岩を重しとして乗せた。
そこまでしたのに穴から這い出てくるなんて……。
蘇った人の力を過小評価したのが悪かったんだろうな。
裁判長の前に立たされていた俺は、自身の手で絞殺した親父の罵声を背中に受けながら、殺人それも親殺しっていう重罪で無期懲役にされ刑務所に収監された。
蘇った人は息をしていない為に声を出すことができないので、親父さんの罵声はスマホ越しになります。