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小さき蹄、大きな約束  作者: sakura540
第1章 転生の蹄音
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1話目 競走馬に転生

限りなく設定は現実世界に近いですが暦と馬名はぼかしてます。

よろしくお願いします。

目を覚ました瞬間、強い風の音と、どこか懐かしい青草の匂いに包まれた。


視界に広がるのは、青く高い空と、果てしない牧草地。


「……なんだこれ?」



声を出したつもりだったが、口から漏れたのは小さな鼻息だけだった。


動かそうとした手も、すでに自分の知るそれではない。


むき出しの地面に突き立つ、短い脚。


か細いが確かに力のこもった、まだ頼りない蹄。



自分が、馬の体になっていることを、すぐに理解した。


記憶はまだぼんやりしていた。


確か自分は、地方競馬――笠松競馬場で騎手として生きていた。


誇れる成績ではなかったが、仲間もいて、愛する家族もいた。


娘は自分に憧れて、同じ騎手の道を目指すのを夢見ていた。



そんなある日、落馬事故に遭った。


ゴール板まであとわずかというところで、突然脚を取られ、馬ごと転倒した。


――そこで、終わったはずだった。



だが、目の前に広がるこの世界は、死後ではない。


生まれ変わり。しかも、馬として。



「コロー! こっちだよー!」



牧場の方から声が聞こえる。


幼い子供たちが、白い柵の向こうで手を振っていた。



どうやら、自分には「コロ」という呼び名が与えられているらしい。


小柄な体格から付けられたものだろう。


悪い気はしない。が、元騎手のプライドとしては少し複雑だった。



栗毛の柔らかい毛並みをなびかせながら、俺――コロは、よろよろと立ち上がった。


周囲には同じ年頃の仔馬たちが、無邪気に駆け回っている。



馬になった俺は身体に染みついている”走ること”への本能だけは、確かにあった。


走りたい。風を切りたい。誰よりも速く。



その衝動に突き動かされるように、俺は牧場の広い空間に向かって、初めて蹄を蹴った。


ふらつきながらも、前へ、前へ。


小さな身体に力を込め、短い脚で必死に大地を叩く。



――そうだ。


俺は、もう一度走るために生まれ変わったんだ。



そして、いずれは……前世で果たせなかった夢を、


今はまだ、小さな”コロ”に過ぎないかもしれないが


中央競馬の大舞台で、世界のどこかで、叶えてみせる。



心のどこかで、そう強く誓いながら、俺は再び蹄を進めた。

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