12.夜鳴きそば
「ーーそれで、結局チョコは何個もらえたの?」
最近なんだか日課になりつつあるショウとのLINE。仕事終わりになんの気もなく連絡すれば返事はすぐに飛んでくる。
最初は鬱陶しかったのに、いつの間にかこのレスポンスの良さにも慣れて、今じゃむしろ心地よくなってたりする。
「5個!!最初はそんなになかったんだけど、美咲さんのチョコの袋、あれ有名なやつでしょ?お客さんに見せたら、次の日良いの買ってきてくれたんだよね〜」
なっ、お前もか!!
あれってホストの常套手段なわけ?
流生同様に私のチョコがダシに使われたと知り、私は渋い顔で打ち込む。
「なんか、ショウもホストっぽくなってきたね」
(指先にキスしたり)
ふっと、あの時の感覚が蘇る。
まさかあんなことをされるとは思ってなかったから、とても驚いた。
……ほんと、心臓に悪いことしないでほしい。
じわっと感触が残る指先を眺めていると、通知が鳴った。
「だってホストだもん」
あっけらかんとした返事が返ってくる。
そこに他意は一つも感じられなくて、癪なようなホッとしたような気持ちになる。
(まあ、そりゃそうだよね。ああいうのも、仕事のうちだよね)
思い返してみれば、流生も手を触ったり甘い言葉を囁いたりしていた。私の前では見せないだけで、ショウも案外そういったことをホイホイやっているのかもしれない。
「他の人にも同じことするの?」
興味本位で聞いてみた。
そうだよと返ってくるのなら、ショウもホストとして成長してるんだねーなんて、返そうと思っていたのに、今回は既読がついただけで返事がなかなか返ってこない。
(……なんか、変だったかな?)
スマホの画面をつけたり消したりしていると、ピコンとスマホの通知が鳴った。
連絡は、ジュノからだった。
「美咲さん、前、複数人の血を飲むと酔うって話してましたよね?ーーもしかしたら、解決する方法を見つけたかもしれません」
スマホの上部に現れたそれを目にした私は、すぐにジュノとのトーク画面を開いた。
◆◆
「はい、じゃあ次は50cc行ってみましょう」
「あれ、さっきより多くない?ジュノ倒れちゃわない?」
「かもしれないですね。でも、だからこそ一緒にこっちに来たんですよ。Spiceで倒れたら美咲さん、びっくりして実験辞めちゃいそうだから。でもここなら、たとえ俺が倒れても実験は続けられるでしょう?それに今日はこれで最後ですから少し多めに吸ってもらって構いません」
「え、最後なの?……なんか、残念」
しゅんとなって唇を尖らせれば、ジュノが嬉しそうに微笑み、私の頬を軽く撫でる。
「残念ですか……それは、どうして?」
「だって、ジュノの血美味しいから」
「俺の味、好きですか?」
「うん、好き」
辛ラーメン味のジュノの血は唐辛子が効いていて刺激的で美味しい。正直にそういえばジュノは満足げに微笑んだ。
私はジュノの腕に招かれるまま近づくと、彼のシャツの襟を少し捲った。そこには、さっき吸った跡が残って赤い血が滲んでいる。
あぁ、なんていい香りなんだろう。
辛いのに止まらなくなるこの中毒性、さすがは辛ラーメン!
なんだかジュノの血を吸うたびに、どんどん夢中になってる気がするんだけど、気のせいかな?
私は鼻をくすぐる香りを胸いっぱいに吸い込んで大きく口を開けた、その時ーー。
「ちょ、ちょちょちょ、まって、美咲さん、何してるの!?!?」
ーーClub GOURMETの一卓で、実験を進めようとしてた私たちの前にダークグレーのスーツに身を包んだショウがやってきた。
今まさにジュノの首元にかぶりつこうとしている私を見て、ショウは慌ててジュノを守るように腕を広げた。
私は邪魔されたことを少し不満に思いながらショウの質問に答える。
「えっ、見てわかんない?吸血してんの」
「だろうね!?でも美咲さんマジで勘違いしてるみたいだけど、ここホストクラブだから!血じゃなくてお酒飲むところ!!……それに、担当俺だからね!?担当来る前に勝手に変なこと始めないでくれるっ!?」
「いや、確かに指名したけど場内だから担当名乗るのは早いんじゃない?」
本指名じゃないしな。とショウの言い分を訂正したら、そう言うことじゃない!!と叱られた。えぇ……。
ペイっと私をジュノから引き剥がしたショウは、二人の間に陣取り、ジュノを指差す。
「というか、この人ホストだよね!?」
「あれ、知ってるの?」
「知ってるよ!系列店だし……って待った。ねえ、美咲さんSpiceのほうも行ってるわけ?」
「行ってるよ?」
The Spice とClub GOURMET が系列店だなんて知らなかったけれど、言われてみれば、確かに店内の作りが似ているかもしれない。背の高いソファやブースになってる卓が多くて、吸血を嗜む私としては大変有り難い。
ショウの言葉に頷けば、ショウはありえないものを見るような目を私に向け、諭すように続けた。
「美咲さん、あのね、ホストクラブっていうのは基本永久指名制で…」
「いやだからまだ本指名してないじゃん?」
「そーだけどおぉぉ!!」
本指名だったらなんかまずそうだけど、そうじゃないもんね!
へへっと誤魔化すように笑えばショウが頭を抱えてため息をついた。
「二人とも仲がいいですね。俺、嫉妬しちゃいますよ」
そんな私たちの様子を見て、ジュノが楽しそうに笑う。ショウは不満げにジュノを見やった。
「……というか、あなたもよく来れましたね」
「美咲さんのためですから」
さらりと言ってのけるジュノに悪い気はしない。というか……ちょっと嬉しいかも??
私はジュノに、にこにこと笑って見せた。
ついでに、こっちをジト目で見てくるショウにも笑いかけておく。
はい、にこにこ〜
「……」
……うん、だめだ。
ショウが眉を寄せたのを見て、私は手を打って空気を変えることにした。
「あ!ほら、人も揃ったし早速実験進めよ!」
そう、今日の目的はこれなのだ。
ショウも席に着いたのだからサクッとやっちゃおう。
「なに、実験って」
怪訝な顔で尋ねるショウに、私は得意げに答える。
「いやね、私、複数の血を飲むと、吸血衝動が抑えられなくなっちゃって情緒とかもおかしい感じになっちゃうんだけど、ひとつベースの血を決めてそれを一番多く飲めば大丈夫だってことが分かったの!!ジュノが発見したの!すごくない!?」
要は二日酔いにならない方法と一緒だ。お酒よりも水を多く飲めば、酔いが抑えられる。それと同じで血も酔わないように取り込むバランスをうまく考えればいい。ジュノからそんな仮説の連絡が来た時はまさかと思ったけれど、実際に試してみたら、これがどうして、うまくいったんだよ!私は思わず身を乗り出して熱弁した。
「……もしかして、Spice でそれ試してたわけ?」
「大当たり〜!ジュノの血をベースに色々吸ってみたけど、このとおり、全然普通でしょ?」
前のシオンの時みたいな吸血衝動もないし、頭がぼーっとする感じもなくって情緒も安定してる。
どうだ!と胸を張る私をショウはじっと見つめ、首を捻った。
「いや、なんか変だよ。美咲さん」
「え?どこがよ」
「それは……」
ショウは言いかけて、口をつぐんだ。ジュノと私を交互に見て、なんだか言いにくそうに目をそらす。
(なにその反応…?)
ショウなら『え、そうなの!?』って驚きながらも実験に協力してくれると思っていたけど、予想してた反応と違った。
私はちょっと困って助けを求めるようにジュノを見た。
「とにかく、一旦やってみましょう。それで、何かあれば教えてください」
ジュノが私に手招きする。
ショウはまだ何かを考えているようで、私は少しだけ気になりながらも、呼ばれるままにジュノの横に移動した。
「さあ、美咲さん俺の血を吸ってください。そしたらその後にショウさんの血を10ccほど」
「うん、わかった」
ジュノの提案に素直に頷けば、何かを考えていたショウがハッと顔を上げ、慌ててそれを拒む。
「え、何で、もうSpiceで実験してきたんでしょ!?俺吸われる意味ある!?!?」
ショウのいうとおりSpiceで少し試してきた。けど、それじゃ不十分なのだ。
私はちょっと口ごもりながら答える。
「…だって、ショウの血で上手くいかないと困るじゃん」
他でうまく行っても、ショウの血で上手くいかなきゃ意味がない。
(……最近、なんか気づいたらショウのことばっか考えてるし。私多分、ショウの血を結構気に入ってるみたいだから……危ないんだよ)
そもそも吸血をやめるのが一番なのかもしれないけれど、この味を知ってしまった以上、耐えられる自信がない。
もし、血の二日酔いで理性が飛んで、欲望のままショウの血を吸ってしまったら……?
最悪、ショウを失血死させるかもしれない。
それだけは絶対にダメだ。だから、ジュノの提案にのってこんな実験をしてるというのにーー。
「ショウの血が美味しくなかったらこんなことになってないのに」
ぼそっと呟くと、ショウはムッとした顔でこちらをみた。
「あっそう。結局、俺の”血”だけが目当てなわけね!?」
「ちがっ…」
「良いじゃないですか、美咲さんに求められるなんて羨ましい」
声を荒らげるショウをジュノが諌める。
そして、誤解を解こうと慌てる私を落ち着かせるように、頭を優しく撫でた。
髪をすく指先が心地いい。私はその手に委ねるように隣にいるジュノに頭を寄せた。
「……やっぱり変だよ」
ショウの低い声にハッとして顔を上げると、鋭い視線が向けられていた。
「美咲さん、そういうの嫌がるタイプなのに。なに無抵抗で撫でられてんの?」
(あれ……確かに)
ショウの言葉に納得する。
私は普段こういうのは好きじゃないはずなのに、今日はあまり気にならない。
(ジュノがスマートすぎるから……とか?)
「俺の血を飲むのはいいけど、そいつの前に俺のを飲んでよ。別にいいでしょ?飲む量さえ気をつければ基準は変わらないはずだ」
「……」
そう言ってショウがジュノをまっすぐに見据える。
「それともーー順番が変わると何か問題が?」
詰問するような口調にジュノが少し苦い顔をした。しばらく2人は見つめ合ってやがてジュノが肩を落とした。
「さあ、どうでしょう。俺も確信なんてないんですよ」
ジュノは名残惜しそうに私を撫でた。
ジュノの黒い瞳が私に何かを伝えるように揺らいでいた。
「……やってみましょうか。どうなるか」
静かに答えるジュノの瞳は確かに何かを訴えているようだったけれど、それが何なのかは分からない。
ただ、やっぱりジュノに撫でられても悪い気はしないなと思いながら、私はジュノの指示するとおりショウの隣に移動した。
「えっと、じゃあ、吸うね?」
「はい、どーぞ」
ショウは躊躇いなくシャツのボタンを外すと、吸いやすいように首を傾けた。
馴染みのある首筋に私はそっと噛みついた。
ちうううぅ。
程よい塩気の醤油味。
10ccだと言われていたけれど美味しくてついつい多めに吸ってしまう。
じんわりと広がる懐かしい味わいに、心がふっと安らぐ。
——それと同時に。
(……あれ? 私、なんでさっきまであんなにジュノに懐いてたんだ?)
ぼんやり感じていた違和感が、くっきりと輪郭を持ち始める。
なんとも言えない感情の変化を感じてショウの首筋からそっと口を離し、私は呆然と息を吐いた。その頬を、ショウの指が優しく撫でる。
「気分はどう?」
「………ちょっと、撫で回さないでくれる?」
「うん、そう言うと思った」
ショウの指が触れた場所がピリピリする。
その感触が落ち着かなくて手を払うと、ショウは嬉しそうに頷いた。
「でも、私……なんで?」
吸血衝動とかじゃない。シオンのときのとは違う。けれど、確かに私はおかしかった。
まるで、ジュノの血に支配されたような感覚で、決してそんなつもりはなかったのに、いつの間にかジュノの全てを肯定していた。
おいでと呼ばれればついて行き、頭を撫でられれば気持ちよくなる……って、今思い返すと従順すぎてやばすぎないか!?!?
いつもの感覚と一緒に羞恥心も戻ってくる。
(き、気まずい……!!!)
実験だったのだからおかしくなってしまったのは仕方ないとはいえ、あんなに撫で回されてたら流石にどんな顔をすれば良いかわからない!あああ、痛い、自分が痛いアラサーすぎて耐えられないっ!!!
「やっぱり、そうなるんですね」
顔を赤くして目線を泳がせる私を見てジュノが寂しそうに呟いた。
「原因は俺の血なのか、飲み合わせなのか、順番なのか……そこはまだ分からないけど、
少なくとも美咲さんが俺に甘えたのは、血の影響だったみたいですね」
私が明らかにテンパっているせいか、彼は分かりやすく私の変化を『血のせい』だと言ってくれた。
「ジュノ……」
「美咲さんをおかしくさせたいと思ってやったわけじゃないんですよ、本当に。……俺はあなたの無邪気で優しいところが好きなんですから」
私だって自分がこんなふうになることは知らなかったのだから、もちろんジュノがわざとやったなんて思ってない。そんなのジュノの瞳を見ればすぐに分かる。
優しいジュノの気遣いの言葉だけれど、今下手に肯定すると、まだジュノの血に流されてるって思われてしまう。
どんな風に返せば、正しく私の言葉が伝わるかと逡巡していると、ジュノは小さく笑って茶目っけたっぷりに言った。
「まあ、他店のホストの姫を奪うってのをやってみたかったってのもありますけどね」
「美咲さんが姫とかマジ勘弁」
「おい」
反射的に突っ込んでしまった。
いや、だってショウが本当に嫌そうな顔で言うからさ!もちろん私だって自分のこと姫だなんて思ってないよ!?ついね。つい。
あまりにも勢いが良かったからか、これにはジュノも楽しそうに笑っていた。
そして、一呼吸おいてソファから立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ俺は店に戻らないと。美咲さん、また実験したくなったら来てください」
「え、帰っちゃうの?」
「ショウさんの言うとおり、系列店に来るのはあまり良いことじゃないんですよ。それに、もうこれ以上は無理そうですから」
そう言ってジュノはショウをちらっと見た。
……確かに、ホストクラブに疎い私でも、他店のホストが来るなんて道場破りみたいでちょっと良くなさそうだなとは思う。
いけないことと分かっているのに実験のために来てくれたのには感謝しかない。
「ではショウさん、また」
ジュノはショウにも挨拶をする。
軽く頭を下げたジュノに続いて、ショウも小さく頭を下げた。
「また…会うことがあれば」
友好的とは言えないショウの言葉にもジュノは嫌な顔せず微笑んでClub GOURMET を去っていった。
◆◆
「はー、うまー」
染みる。いや、ほんとに染みるわ。
味じゃショウの血には劣るけど、本物のラーメンは血と違って食感があるのが良いよね。
よくある原価安そうなラーメンでも”目覚め”の一杯としては文句ない。
「……うまー、じゃないからね?ちゃんと反省して」
目の前で腕を組むショウの声が、呆れ半分、怒り半分って感じで耳に届く。
「してるってば」
適当に答えながら、レンゲでスープをすする。
あ〜、ほっとする。
「変な実験に巻き込んだことは悪いと思ってるよ?」「だったら何でそんな幸せそうに食べてんの?」
ショウのジト目が突き刺さるけど、私はお構いなしに箸を進める。
「悪いなって思ってるから食べてるんだよ?ちゃんと単価上げに貢献してるでしょ」
そう言って、今食べているラーメンを指差す。Club GOURMET の裏メニューの夜鳴きそばだ。当然専門店のラーメンには劣るけども、海苔がたっぷりでそこそこ美味しい。
だがしかし!!この少量で3000円なのは意味わからんけどね!!普段なら絶対に選ばないけど、ショウに迷惑かけたなとは思っているから、しゃーなし注文だ。
そんなに言うならもう一杯頼もうか、と目の前のスープを飲み干せば、ショウがため息をついた。
「だめだ、ぜんっぜん分かってない……え、なに、自分がおかしくなってたこと気にならないの?普通そんなにすぐ忘れられるもん!?もうなんともないからオールオッケーとかそういう考え!?」
何やら不服そうにぶつぶつ言ってるけれどよく聞き取れない。ただ、雰囲気から察するにどうやら私は、根本的なところで反省ポイントを間違えているらしい。
(……えー、私何か間違った?やっぱりラーメン頼むだけじゃダメだった?ホストクラブってもしかして謝り方にもルールとかある?)
今度調べてみるか、なんて呑気に考えていたらショウが急に真面目な顔でこう言った。
「美咲さん、もう俺の血以外飲むのやめなよ」
「……へっ?」
「よく分からない血飲んでおかしなことになったら困るでしょ。てかなってるし!」
あまりにも突然な話に私は固まる。
ん?なになに、どういうこと?
おかしくなったのは確かにそうだけども…
「いやいや、普段は全然大丈夫だから!!今日のは、実験だからああなっちゃっただけで」
せっかく色んなホストの血の味を覚えてきたところだっていうのに、禁止にされたらたまったもんじゃない。
大丈夫、安心して!私は人畜無害な吸血鬼だから!!
ぶんぶん手を振ってショウの案を却下しようとする私を見て、ショウはもう一個案を放り投げた。
「……じゃなかったら俺のこと本指名して」
な、ぜ、そうなる!!??
(分からない!ホストの考えが!なに、結局は売り上げの話だったってこと!?)
私が吸うとなぜか売り上げが上がるらしいし、ショウとしては本指名客として私を扱いたいのかもしれない。
てか、私ってお客さん枠で良かったの?お金出さないし血吸ってるだけなのに?
ショウがどちらかを選ばせるようにずいっと身を乗り出し圧をかけてくる。
え、何この2択!!
「私って、客……だよね?」
思わず、口をついてでた。
ショウは一瞬険しい顔をして、すぐに頷いた。
「そうだね」
「だ、だよねー」
私は軽く笑ってちょっとショウから目を逸らした。
(……あれ、なんか今、私、嫌だって思った……?)
ショウとは一般的なホストと姫の関係じゃない。吸血鬼と美味しい血の提供者。だから、客の自覚なんてなかったけど、それは私の都合で……ショウから見れば私は、ーーただの客なんだ。
「……美咲さん?」
俯いた私にショウが声をかける。
「分かった。次来る時は指名する」
「……え?」
顔を上げて、スパッと答えれば、想定外だったのかショウが驚いた顔をしていた。
「だめ?」
「いや、良いんだけど……そっち選ぶんだ」
歯切れの悪いショウの態度に、私は首を傾げる。望みどおりにしたはずなのに、うかない顔をしないで欲しい。前々から指名してって言ってたのはそっちなんだから。
それにーー
「ちゃんとお客さんとしてお店を楽しむけど……当然、血も楽しむからね」
ーー血を飲まないという選択、私にはないからね。
にこっと笑って宣言すれば、ショウはなんとも言えない表情で自身の首をさすった。
【本指名】以降ずっと同じホストが担当することになる。指名替えはほぼ不可能。他のホストが客に営業をかけるのも御法度。
【夜鳴きそば】客に到来を知らせるため屋台に風鈴を付けており、それがチリンチリンと鳴ることから「夜鳴きそば」とも呼ばれるようになったのが由来、だとか。