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天使の流星群  作者: ジェネリクス
第1章 宗教法人編
7/12

第6話 見えざる手

 ギャルゲー。











 それは神の所業。暇と鬱憤を募らせたユーザーが、その甘いロマンスと残酷なグロテスクのギャップにときめき、繰り返す現実から涅槃するためのひとときのオアシス。ロマンスが甘ければ甘いほど、グロテスクは残虐になり、グロテスクが残虐であればあるほど、ロマンスは甘く感じる。




 ――ギャルゲーには、翼の生えた少女が現れることがある。生え方は、腕と一体している場合もあるが、基本的には白い鳥類の翼が少女の背中から生えている。その設定は主にヒロインに割り当てられ、属性としては天使や異人、死者などさまざまある。




 その多くで少女は不幸な運命にある。




 長く美しい髪の毛の隙間からたちのぼるような純白の翼を負ったいたいけな少女は、主人公との絵に描いたような幸福と尊厳を過酷に引き裂かれる。主に主人公との訣別。ヴィランによる強襲と死。または病死。そして死者として天国へ旅立つ場合もある。主人公との訣別に少女の顔は歪み、落ち着き、最後は切なさに顔を困らせる。そんな悲劇のヒロイン。


 そんな美しい少女に訪れる悲劇は、より残虐でグロテスクに見える。簡単な話、美女と醜女が同じ悲劇に見舞われていてとしても、醜女よりも美女の方が尊くて、切なさを感じられる心理。それと同様に、翼を持った少女というどこか普通の人間よりも崇高で儚い存在は、悲劇をより切なくさせるのだ。それこそが真髄。約束された悲劇によって翼をもがれた少女は、克服し得ない輝かしい運命を世にも崇高で堅牢精緻な因果に背中を押されて、その上を辷る。残虐でありながら美しい。不幸ゆえに尊い。彼女の存在が神聖だとすれば、彼女の運命は涜聖。晴天に兆す暗雲。平和にたちこめる戦争の影。一つの存在に双極的なシンボルが混淆している。言わば、2次元美少女キャラは酸いも甘いも味わってこそ、本物のキャラクターであり、それを愛することができる者こそ本物のオタクと言えるだろう。




 ・・・一方で、昨今の似非オタクはそれとは正反対だ。


 作品を全部見たことがある。用語を知っている。キャラの名前を知っている。背景を知っている。強さランキングを知っている。声優を知っている。作者を知っている。主題歌を知っている。opを知っている。edを知っている。制作会社を知っている。裏設定を知っている。このギャルゲープロジェクトに関わる、ありとあらゆる名称を知っている。


 ・・・以上、彼らが素人とは異なっている部分だ。非常に申し分ない。


 そんな君たちに問いたい。






「まともに夢も見れないのか」


 藤城は四方を無機質な壁に囲まれた窮屈な部屋に、PCを前に座っていた。心地よい閉塞感。弱く暖房が効いて、空気は乾燥していた。少し埃っぽい。


 ネカフェの中は、人が過ごしやすいようによく整えられていた。藤城の眼鏡はPCの光を反映し、画面の移ろいのままにレンズの色も彩られた。


 PCの画面には、一人の少女が映っていた。夏の夜空を背景に、透き通るような白い髪と肌、そして爛々とかがやく紅い瞳がユーザーに語りかけてくる。




===============================

「……私、もうまともに夢も見れないのかな」

===============================




 メッセージウィンドウには彼女の露わな告白が綴られている。自身を取り巻く環境や心情の変化によって、夢や目標を持つことができなくなった。少女の表情は失意と希望に葛藤し、私たちに自分の進むべき(ルート)を問いかける。




▶「冷静に諭して現実を見させる」

▷「現実からも夢からも全てから一緒に逃げ出す」

▷「もう一度夢を目指す」




 迷いなく「もう一度夢を目指す」を選択する。上の二つのルートはもう見たのだ。


 物語最後で出てくるこの三つの選択肢は、主人公とこのヒロインの未来を左右する重要なものとなっている。言うなれば、このゲームのエンディングをTRUEにするかBADにするか、もしくはNORMALにするかが問われているのだ。


 藤城はこの3番目のルートを楽しみにしていた。なぜなら、上の二つはどちらもNORMALENDだったのだ。初めの選択肢では、主人公とヒロインは現実と向き合い夢を諦めたが、そのうえで夢とは異なる現実を受け入れ、それなりに豊かな人生を過ごすというような結末となった。次の選択肢では、二人は夢を諦め、現実を見ることも拒んだ結果、遠く離れた町で二人静かな生活をするところで終わる。ともに極端に喜劇的でも悲劇的でもない。なんなら現実においても起こりうるがゆえの悲哀と虚無感、そしてかすかな慰安が訪れるような終わり。


 最終選択肢が3つしかないにもかかわらず、そのうちの二つがNORMALということになれば、残りの一つはどのような終わり方になるのか気になっていたのだ。TRUEENDなのか、またはBADENDなのか、はたまたこのルートにだけ新たに分岐ルートが存在するのか。ただ、進行度を示す回想シーンのコレクションにはあと1つしか空欄がないため、この後に大規模な物語展開が訪れることがないだろうというのはわかる。


 果たしてこの少女はいかなる結末を迎えるのか。結ばれるのか。結ばれないのか。生きるのか。死ぬのか。期待を裏切るのか。裏切らないのか。逆を張るのか。張らないのか。喜劇か悲劇か。藤城はなんとしても彼女の行く末を見届けようと望んでいた。


 覚悟はできている。カーソルを選択肢に当てる。そしてクリッ


 ーーーー。


 スマホが鳴った。メッセージの通知らしい。・・・。まあ一通りの事を済ましてからでもいいだろう。


 スマホを開く。送信者は、、、


「ああ隣の席の」


 3年で初めて同じクラスになったやつ。確か幽霊の声が聞こえる動画かなんか見せてきた、、、一体何の用だ。通知をタップしてメッセージを開く。


 ――4/26にマジックショー見に行かない?


 藤城は少し考えて、マジックショーなんざ人生で一度も行ったことがなかったことに気づいた。なぜ行ったことがなかったのか。なぜ行こうと頭にのぼらなかったのか。そう訊かれると自分でもよくわからない。テレビでこういう類のエンタメは少なくない程度には見てきたはずだった。しかしそこでマジックショーを見に行きたいとはなぜかならなかった。そういう微妙なラインがマジックショーとかいうエンタメだった。


 ただ今回人からマジックショーに行くきっかけをもらって、藤城はもしかすれば今後マジックショーに行く機会はそうそうないような気がした。そう考えると、興味があるうちにどんなものか見物してもいいかと思われる。ただ問題は、


 ――マジックショー行ったことないからめっちゃ行ってみたい!でも最近パーっと使って金なくて、、、マジックショーって結構高いんだろ?


 ――通常料金が1人5000円なんだけど、今回キャンペーンで友人を誘うと2人で7500円になるから、1人

3750円。正直マジックショーなんて行く機会滅多にないからさ一緒に行こうぜ。割引の期間ってのも4月中でそれ以降は通常料金になっちまうらしいんだよ。


 なるほど、そう言われるともったいないような気もする。マジックショーの相場をググる。だいたい5000円くらいか。だとすれば今回3750円でマジックショーを観覧することができるのは、人生経験的にも値段的にもコスパはよさげに思える。それに3750円なら。


 ――おけ。行くわ。日時は明日のいつ頃?


 ――マジで!ありがとうございます(´;ω;`)

日時は明日の14:00に小中台のバス停に集合。会場はバス停から10分くらいの所。


 ――了解。ホームページとかある?


 ――https://example.com/files/7f3a0a8e-9d4c-4e7f-97b2-4bb192ae82d5.html


 なんだか、いい加減なURLだと藤城は思った。


 とりあえず送られてきたURLをタップする。タイトルは、、、




 Miss.Mrs(ミス・ミセス)の見えざる手。

 

 …何だ見えざる手って。マジックのタネのこと言ってんのか。それにミス・ミセスって、未婚なのか既婚なのか訳がわからない。単なる言葉遊びか。ただ少なくとも、女ではあるんだろう。察するに複数のマジシャンがそれぞれ異なるマジックをするというより、このミス・ミセスがマジックショーの主体となって一人で演目を進めるのだろう。


 下にスクロールしていくと、演目の概要、会場と日時などの説明がつらつらと記されている。


 ・・・・・・。


 藤城はホームページを瞥然(ざっ)と見て、妙な違和感を覚えた。違和感ーーそれは何かこのホームページが致命的なことを書いていないという違和感。ホームページの役割は、そのイベントの概要を伝えること。イベントの内容、会場、日時、料金などを載せることで顧客がスムーズにイベントに参加できるよう案内しなければならない。それができていないような気がする。自分は今、一種のバイアスの上に物を見ているような気がしてならない。


 だが実際、客としての自分の立場から見て、このホームページはイベントの内容と会場と日時と料金と、なんの欠陥もなく情報を発信しているように見える。


 不足はない。そう考えていい。はず。




 気にし過ぎか。


 藤城は明日の約束を承諾すると、またPCに顔を向け直し、一人の少女との対話に入った。

ようやく物語が進行します。



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