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第4話 結局あれは何だったのか?

 最近このサイトの小説を読んでいますが、面白くて勉強になりますね。

 春に入って数週間ほど経つと思われるが、まだ朝は寒かった。電車の中は暖房で温められており、座席にはヒーターがついていた。ドアが開くたび、蛇のように冷気が体を取り巻いた。男子は手をポッケに入れながら肩をいからせている。また冬同様制服の中にベストを着ている生徒もまだ見られ、女子にいたっては半数以上がそのように厚く着込んでいる状況だった。雲の漂う春の晴天に、冬の冷気がまだ残っていた。

 

 駅を出ると、昨日と打って変わって風が強く吹きすさび、それが桜の花を豪快にまき散らしていた。コンクリの地面は踏み鳴らされ、泥濘に濡れた桜で畳まれていた。


 藤城はこの汚い桜の道をよけながら、気持ち乾いたコンクリの地面だけを歩くようにしていた。




 ――種籾は、千葉北西部にある比較的閑静な町である。建物は戸建てと低層の集合住宅が中心で、田畑も多く見られる。西に行くと海沿いに開発した計画都市があり、ここの喧騒とは離れた落ち着いた風景が広がっている。「特徴は?」「名産品は?」「有名人は?」...そういう質問には一切答えられないが、いいところか?と訊かれれば半数以上はいいところだと住民が答えるような、いわばどこにでもあるような普通の平穏な町。


 そんな種籾にあるここ種籾高等学校は、立地的に少し低い場所にあった。そのため、通学にはちょっとした坂を上り下りする必要がある。しかし校舎自体は低地に構えた土台の上に建てられているため、校内でもまた坂を上り下りする場合があった。


 坂を下るとすぐ左手に校門がある。

 校門には教師が一人立っており、流れ行く生徒の服装や歩きスマホを検閲していた。


 藤城は何も言われずそこを通り過ぎると、教師へ向けていた侮蔑の目を正面に戻す。


 正面には、周りよりも一段高い中央棟が屹立しており、その塔屋に備え付けられた時計と、その上に円の中を「種籾」と縦に刻まれた校章が飾り付けられている。


 種籾という名前はこの町の名前にちなんでつけられたのだが、元々はそうではなかった。創立時においては市の名前からとろうとしていたのだが、「この土地にちなんだ名前をつけたい」との町の住民の要望があり今の学校名となった。どうして私立校の命名で町の住民の声を採ったのかはわからないが、インターネットや創立の歴史をしたためた史料にはそう明記されていた。


 靴を履き替え、階段に向かう。3年生の教室は3階にある。進級するごとに階数も上がるのだ。藤城は1、2年生の頃を懐かしく思いながら、3階までの階段を朝のなけなしの体力を振り絞って上った。


 目的の階に着くと、教室へ向かう。進級して1ヶ月も経たない。藤城にとってこの廊下はまだ新鮮に感じられた。


 3-2。扉を開ける。教室に入ると、暖房が効いている。藤城はそそくさと自席に着くと、スマホを取り出してSNSを開いた。


 トレンドは、、、ゲームの新作、、、アイドルの結成、、、地震、、、政治、、、。。。


 検索をかける。




 検索:[空飛ぶ人間     ×]




 今日だけで何回検索したろう。


 結果は...UMAに、映像技術に、、、。 ないか。


 画面をスクロールし、更新を促す。


 、、、 ない。


 更新。


 、、、    ない。


 更新。・・・。更新。・・・。更新。


 、、、。


 ほかにもそれに類する言葉を、、、




 検索:[UFO        ×] 




 検索:[UFO 千葉     ×]




 検索:[空 人 千葉    ×] 




 検索:[ドローン 千葉   ×] 




 検索:[パラシュート 千葉 ×]




 ・・・。


 千葉じゃなくて種籾なら、、、


 ・・・。




 藤城は大きくため息をついた。背もたれに体重を預けると、確認でもう一回だけ更新してみる。――相変わらずそこには藤城の欲しい答えを与えてくれるコメントはなかった。






 ・・・昨夜22時頃、藤城は帰り道、高速道路下の立体交差の前の道路で、人間が宙に浮かんでいるのを見た。自分と存在の距離にして5メートル程度。地面から足までの距離は3~4メートルくらいだろうか。

 空中で直立不動で静止しており、顔はこちらを向いていた。顔は詳細にはわからないがおおまかに視認できた。老婆だった。表情は無く、じっとこちらを見てくる感じだった。様相は頭に手拭いを巻き、もんぺを着ていた。そしてひたすら押し黙ったままだった。


 何をしてるんですか?

 とは訊けなかった。あまりに突拍子なく、あまりに非現実的だったため、なにから自分の思考を始めていけばいいのかわからなかった。結局どれくらいその場にいたのだろうか。とにかく、とにかく考えを、心を整理したい。その一心でその場を去った。


 帰宅すると藤城はベッドに横たわってしばらく動けなかった。1時間、2時間。恐怖と驚愕と感動と知的好奇心とがごっちゃになって、いつもは自然に眠気が来る時間に彼の目はマラソン後のように覚醒していた。3時間ほどたったところで、すぐさま今朝と同じようにインターネットで能う限り自分の目で見たものを調べ始めた。そうして一晩中寝ずに彼なりに仮説を立てた。




 仮説1

  @工事作業員


 仮説2

  @自然現象


 仮説3

  @心理的要因


 仮説4

  @吊るされた人形


 仮説5

  @映像


 仮説6

  @錯覚・視覚トリック、またはそれを活用したマジックの類


 


 色々列挙してみたが、正直どれもリアリティに欠ける仮説だった。ほとんどが合理的には可能性のある話だが、あの時間、あの閑静な住宅街付近でという条件を踏まえると、どうにも現実的ではない。なぜあの時間に工事をしているのか?(仮説1)、なぜあの場所に人形が吊るされているのか?(仮説2)。いったいなぜこんな条件下で?...この条件が、あらゆる仮説の信憑性を浮薄にする。しかし、よくよく考えてみれば、藤城が確実に自分の目で見た存在(もの)と比べれば、仮説はすこぶる現実的に思えた。


 まず大前提として到底ありえないものが僕の目の前に現れたんだ。仮説が多少現実味を帯びていなくても看過すべきなのだ。


 とにかく見てないということはない。


 現実か錯覚か定かでないが、確実にこの目で()()のだ。


 今はひたすら自分の当時の感覚を精細に思い起こし、それを信頼することだ。




 ・・・まずは、調べていく中で仮説1がほぼほぼ可能性が0だと考えられた。夜中に工事をしている可能性の話は置いておいて、理由として挙げられるのが、「作業着ではなかった」、「周囲に作業コーンや注意書きがない」、「他の作業員の姿がない」、「人を高い場所に移動させる作業車がない」、「夜中に作業する際の照明などの光がなかった」など、挙げたら切りがないほどその場は工事をしている雰囲気が一切なかった。あの夜、藤城は存在に5メートルほどの距離になってようやく気付いた。もし仮に工事で作業をしているのであれば、藤城が5メートルほど近付かなければならないほどまでに音と光を抑えることは不可能に近い。それに作業車で高所にいたのであれば、さすがにその作業車に気付くだろう。


 次に、仮説2もまた可能性としては薄いと思われた。物体が宙に浮いているように見える自然現象として最も有名なのが蜃気楼である。蜃気楼とは、光の屈折によって遠くの景色や物体が移動・変形して見える現象のことだ。光は温度によって屈折率が異なる。これを前提とし、特に海などにおいて、海面の温度と空気中の温度の差によって光が直進ではなく屈折しながら進み、私たちの目に届くことで、遠くにある山や建造物、船などが浮いて見えたり、上下逆様、ぐにゃぐにゃして見えたりすることがある。しかし、この現象によって昨夜の状況のようなことが起こりうるとは到底思えない。理由としては、蜃気楼を見ることができる条件である、空気の温度差と距離に無理があることだ。蜃気楼を見るには空気の温度差が必要だが、あの時あの空間において、地面と空気間には大した温度差があったとは思えない。夏の真っ只中であれば、地面の温度と空気中の温度の差によって、地面直上の景色が歪んで見えるというのはよく見たことがあるが、あの夜は4月中旬の温暖な春日和である。地面と空気に温度差が生まれやすい環境とは思えない。また一番の問題は距離で、果たして5メートルほど先にある物体が蜃気楼によって3~4メートルも宙に浮かんでいるように見えるかということだ。そのように見えるためには余程光が屈折しなければならないだろうし、仮にそうなっていたとしても、極端な温度差が必要だと思われる。しかしそのような温度差があの夜発生していたとは考えづらい。そのため蜃気楼という自然現象の可能性も信憑性に欠く。その他、物体が宙に浮いているように見える現象を調べたが、どれも蜃気楼による説明の合理性の域を出ないものだった。


 仮説3は...

 自分で仮説を立てておきながら、あまり期待してはいなかった。気が動転していて、事の最中から直後にかけての自分はこの仮説の可能性も疑っていたが、少しして冷静になって、やはりないなと思った。自分が精神的に不安定だと感じたことは今まで一度もないし、それは当夜にいたってもそうだった。自覚症状がない病気もあるだろうが、人に指摘されたこともない。当然薬物の類はやっていない。とはいえ、自分自身が原因だとする可能性は捨てきることはできないため、他人に自分の様子を訊いてみてもいいかもしれない。至極不自然な行為で、それ自体が頭のおかしいやつみたいだが、そんな大胆を発揮するくらいには余りにも不自然で、おかしなものを見たのだ。


「おい!俺最近変なことしたか?」


「へあ?なんだよいきなり...」


「最近俺お前に変なこと言ったりしてないか?昨日親に勉強のし過ぎでおかしなことばっか言ってるとか言われてさ。そんな自覚なかったからお前にも変なこと言ってんじゃないかって」


「なんだよいきなり...」


「何もないならいいんだ」


「まぁ変...気持ち悪いけど今」


 問題は残りの仮説だ。残りの仮説は僕が見た光景を合理的に説明することはできるのかもしれない。しかし現実的に考えて...となるとなかなか納得しづらい。理解はできても、腑に落ちない。

 なぜ問題かと言えば、人為的であるということだ。それもまあまあ手の込んだ人為が加えられているということだ。

 

 仮説4の通り、あれが人形だとするならば、相当精巧に作られたものだと推測できる。わずかな街灯の光に照らされて見えた肌や髪の毛の質感、、、何より瞬きをする人形となれば相当お金のかかる品のはずだ。なんなら商業用とは思えない出来。それとも精巧な人間の形をしたドローンだろうか。現代科学の技術を駆使すればできないことはないのだろうが、、、如何せんリアリティに欠ける。ここまでリアリティに欠けると、幽霊の方が信憑性が出てくるレベルだ。

 そもそも老婆が浮いていた場所は公道のど真ん中だ。天井も何もない場所にものを上から吊るすということ自体不可能に近い。


 仮説5もそうだ。現代の映像技術を使えば、あそこまで精巧に生きた人間が宙に浮いているように見せることは可能なのではないかと思うほど進歩している現代技術だが、なぜそんな高等テクニックをあの時間にあの場所で?


 というわけで今現在藤城の見解は、仮説6に落ち着いている。もちろんすべての仮説の可能性を0とみなし、仮説6を100と断じるわけではない。あくまで消去法で残った、最も合理性とリアリティの間を取っているのは仮説6だった、という話だ。


 仮説6――錯覚・視覚トリック、またはそれを活用したマジックの類。インターネットにおいて、人を宙に浮かせるマジックとして多く取り上げられていたのは、支柱を使ったマジックだ。人間を乗せた支柱を重しに固定し、人間と重しが支柱によって繋がっている部分を隠すことで浮いているかのように見せるタネになっている。支柱は、浮かせたい人間の身体に沿って作成したスプリントのようなものから重しへ続く架け橋の部分によって構成され、この架け橋の部分を服や光の加減、角度などによって隠すことでマジックが成立する。例えば重しが地面そのものだった場合、人間と地面を繋ぐ支柱が隠れていることによって宙に浮いたように見えるというわけだ。


 当然この仮説もリアリティの面からすれば非常に考えづらい。それはさっきも述べた通り、あの時間あの場所でこのマジックを行う理由、マジックの技術、、、支柱や重しといったマジックの道具の用意など...。それらをすべて持った人間がなぜ?…この疑問は解決しない。

 ただこのマジックの用意は、他の人形や映像の技術を駆使するために必要な用意と比べ、小規模に済むのではないかと考えられた。あのレベルの生きた人間のような人形やら映像を用意するよりは、このマジックに使用する支柱やら重しやらの方が幾分か安価で、用意もしやすいのではないか。




 ・・・「なあ。藤城」


 ネットで調べられることは調べ切った。だが藤城は不安を拭えなかった。自分としては一通り考えたつもりだが、その結果たどり着いた最も有力な答えが、やはりリアリティに欠ける。


 ——ダメだ。頭だけでごちゃごちゃ考えても意味がない。


 この不安を解消する方法。


 今朝、藤城はあの道を通らなかった。理由は自分のことながら不分明だった。恐怖か億劫な気持ちか、はたまた...


「おい、藤城。これ知ってるか?」


 ――推し量るに、相手は単なる馬鹿ではない。あれほどの芸をあの場で成し遂げるほどの知識や技術を持った人間。仮にいたずらだとしても安心していいのかわからない。集団の可能性もある。ただ...


 あの辺りの道は、藤城が最寄りの駅へ行くまでのもっとも簡単な経路であり、通学路としてはもちろん都市に出たり東京に行くために最も便利な道だった。この問題を保留にするのは、彼にとって地味に痛い。


「これ。トレンドにあったこれ。これ見たか?」


 ――正直面倒事に巻き込まれるのは嫌だが、このまま机上の空論だけ繰り広げていても、かえって頭を冗長にこの件に費やすことになりそうだ。


 ・・・・・・。


 もっかい行くか。


「おーーーーい」


 ――――――――――――――――――――――――。



「なあ藤城。お前これどう思う?」


「何なんだ。今受験勉強中だけど。お前もそうじゃないのか?」


「いやそうなんだけど、ってお前机の上なんもないけど」


「それで?」


「これ流行ってんの知ってる?」


「知らないな。空飛ぶ人間でも見つかったか?」


「空飛ぶ人間?なんだそれ。ってか見ろよ、これだよこれ」


「だから何だよ」


「言葉で説明するより見た方が早いって」


 藤城は手渡されたスマホに目を落とした。有名動画サイトのUIと、そこに一本の動画が表示されていた。動画の再生回数は10万人程度。動画のタイトルは...


「この音が聞こえたら霊感があるかも・・・って何だこれ?」


「音聞こえる?」


 はあ。再生ボタンをタップする。さっさと終わらせよう。


 動画が再生される。


 1秒、2秒と再生時間が進んでいく。


 ―――――――――――――――――――――――。


「何も聞こえないけど」


「え!?マジで!」


「なんでそんな嬉しそうなんだ...」


「俺聞こえたんだよ!」

ふぅ。


とまあこんなふうにごちゃごちゃ考えるのが藤城君の特徴なんですねー


次回?次次回あたりから本筋に入れたらいいなァ

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