第1話 ギャルゲーが1番!
どーもジェネリクスと申します。
小説を書きました。
ギャルゲー。
それは男の夢と希望と破壊衝動を詰め込んだまさにハッピーセット。
この世界の、とろけるように甘美なロマンスから、吐き出したくなるようなグロテスクな悲劇まであまねく踏破した妄想の代物。
女の容姿は酷く美しく、また不快に描かれる。目は大きく、鼻は蕾のように小さい。人中は省かれ、唇は色をなくし、線の細い顎がまとまっている。そして頭からは重みのない髪の毛がそのキャラの個性を形作る。—―なぜなら、顔の作画は作品を通して一貫性を持ち、その代わりに髪色や髪型で個性を出さなくてはならないからだ。
また、体躯は全体的に華奢で、首は腕のように細く、ウエストは過酷に引き締まっている。かと思えば、豊満なバストが制服のネクタイを押し上げていたりする。
その全てがティーンエイジャーの暴力的な情欲を駆り立てる。
・・・一方で、現実の女はそれとは正反対だ。
特別美しくもなく醜くもない。ロマンスや悲劇もあるにはあるが、ギャルゲーのそれとは比べ物にならないほど退屈だ。見ているだけであくびが出てくる。
感動も何もなく、そこには退屈な立体空間を凡庸な肉体が占めている、なんとも関心をそそられない代物だ。
・・・ただ一つ。
勘違いしてほしくないのは、僕は決して、昨今の生ぬるい二次元から得た自虐的な孤独をアイデンティティにしているくせして、人一倍人の目を気にする哀れな陰キャのように、ロマンスや悲劇の主人公になり切れない恨みつらみを三次元の女に対して厭世的に愚痴っているわけではないということだ。
彼らには悪いが、僕は君たちとは違って結構普通に人生を謳歌させてもらっている。普通の幸せっていうのかな。君らより雰囲気が明るくて、男女分け隔てなく話せるうえ、前髪も長くないし、周りがワイワイしているのを横目に、、、なんてことは一切ないし、何より声もキモくないし、、、
――そう。だからさ。なんていうのかな。今こうして友達がいない君とペアを組んで準備体操してあげてるのはさ、僕から君に送る精一杯の慈愛の心からなんだよ。
「はい終わり」
藤城は繕った慈しみの声音で、前屈をしていた陰キャの背中を押す手を離した。
「じゃあ次は俺のよろしくね」
「・・・・・・。」
無視かよ。
自分の慈愛を反故にされた。藤城は心で死ねと思うだけにとどめ、そのまま陰キャに前屈を手伝ってもらう。
・・・普通に失礼だとか思わないのかこいつ。これだからコミュ障ってのは嫌なんだよ。アニメーションのよくあるコミュ障鈍感顔だけ原石野郎とは違って、現実じゃあ見た目とか雰囲気に如実にコミュ障を醸し出してるから、普通に近くで見るとグロいんだよな。で、ペア組んでくれる奴がいないから仕方なく僕が組んでやってるのに、どうして気遣いを享受している側がこんな偉そうなんだよ。こいつもしかして僕を自分と同じ境遇の人間だと思っているのか?違う違う。僕はたまたま仲良い奴等が他の友達と既にペア組んでたからさ、仕方なく君とこうして一緒に準備体操しているんだよ。君みたいにはなから余ったやつとペア組むなんて選択肢はこちらにはないから。
え?僕がコイツとペア組むのが初めてじゃないって!?それは仕方ないだろ。今日は友達にペアを申し込んだらたまたま空いてる人がいなくて、「ごめん、俺もう組んでる」って言われたらさ、「あ、ごめんごめん」って返す以外にないだろ。分かるかな。あくまで同じカーストではないこと、同じ選択肢の狭さではないこと、把握よろしく。
――たまたまとは言うが、彼がこの陰キャと準備体操するのは決して珍しいことではなかった。
高校三年生の春。彼ら三年生にとって、春風は始まりと終わりの意味を切なく伝える。三年生の始まりと高校生活の終わり。
光り輝くような純粋な若さを誇りにしていた若者達は、18歳という現代日本における成人年齢に近づくことのほのかな絶望をふと思い起こしていたりした。
ここ私立種籾高等学校では、進級するごとにクラス替えが行われる。600を優に超える生徒を抱えるこの学校が、他の高校のようにクラス替えを高校生活で一回程度にせず、なぜこのような面倒を講じるかは定かではない。効果もまた定かではない。
とはいえ生徒からしてみれば、1、2年生の時に知り合った人間もまばらにいる編成のため、クラスに馴染むのに時間は要らないのだった。
この学校に通う藤城もまたその例に漏れず、人並みに友達をつくり、人並みに遊び、人並みに恋愛をしてきたと言える。
彼が今ペアを組んでいた人間のように群れず話さず人を寄せ付けないということはなく、逆に、下を向かず、暗くなく、言葉に詰まらず、不潔でなく、当たり障りのない、人に普通の印象を与える存在。人を安心させ、人並みに人を寄せつける人間のはずなのだ。
「はずなんだがなぁ」
藤城は退屈な体育の授業を終えると、教室に戻りそそくさと制服に着替えていた。
「放課後遊び行かない?」
いつもの聞き慣れた声が僕の耳朶を打つ。心がため息を吐く。
「他にも色々誘ってんだけど・・・」
もちろん、見慣れた顔が目に映る。
「放課後空いてる?」
にこやかに笑うと彼女は不思議そうに僕を見つめた。
――彼女は幼馴染の紫乃宮星愛。最後の授業が終わるといつもこうして僕のところに来る。性格は天真爛漫で、ちょっぴりおっちょこちょい。背丈は小柄で、全体的に華奢だ。目は大きく、鼻は小さく、さらに小さな唇は目と一緒にいつも目一杯笑っている。いわゆる美人の部類なのだろうが、僕にはよくわからない。なんせ小さい時から一緒にいるから正直これが当たり前で言ってしまえば唯一無二の友達みたいなやつなんだけど僕だけが知ってるたまに見せるふとした寂しげな顔が夏の夕方に吹く風のように切なくて、、、
なんてことはなく
彼女はクラスメイトの野島という女。最後の授業が終わるといつもこうして放課後に遊ぶ人員を補欠しに来る。性格はギャルで、ちょっぴり性格が悪い⭐︎。背丈は女特有の小さい肩とでっかい尻。男子高校生より太い脚。全体的にチーバくんだ。目は大きく (メイク)、鼻は小さく (メイク)、大きな唇 (メイク)は飛び出た八重歯 (ノーメイク)と一緒にいつも目一杯嘲笑っている (メインクーン)。いわゆるブサイクの部類なのだろうが、僕にはわからない。なんせコイツの周りも似たような感じなのだ。正直これが通常運転で言ってしまえば取り巻きなんだが、僕だけが知ってるたまにふとした窓からの風がコイツの香水をまとって臭い。
「ねぇ。遊び来るの?来ないの?」
野島はさっさと会話を終わらせたいオーラ満々で矢継ぎ早に問う。これに怯んでたらしょうがない。
「え、、、あー、うん。いいよ。どこ行くの?」
「もしかして用事とかある?だったら全然いいんだけど」
なんで僕にに用事がない前提なんだよ。ってかあったら全然いいのかよ。
「あーいや、大丈夫だよ」
「おっけー」
「で、どこ行くの?」
「カラオケ」
「あはは。よく飽きないなあ。」
「アキナイヨー。じゃ、いつものとこで集合ねー」
――何気ない会話が1番面倒だといつから思うようになったのだろう。少なくとも藤城は、幼稚園、小学校低学年頃にはそんなことは思っていなかった。
そうだ。よく考えたらこんな会話LINEでやればいいだろ。ただでさえ退屈だってのにわざわざ声に出すから余計体力もってかれんだわ。何のためにわざわざお前らのLINEグループ入ったと思ってんだ・・・
「・・・ったく。これだから馬鹿ってのは周りの苦労も知らないで・・・」
学ランのボタンを上から閉めていく。藤城は苛立ちのためか、ボタンをホールに入れる手順に無自覚に怒気がこもっていた。
視力が悪いため、眼鏡をかけている。光を反射する眼鏡が彼の目元を隠し、より近寄りがたい雰囲気を醸し出した。
「いいご身分だ」
藤城はこんな考えをあと何回繰り返せばいいのかと思った。こんな無駄をあと何回繰り返せばいいのだろう。こんなメタ認知をあと何回繰り返せばいいのだろう。あと何回この虚脱感に心を奪われれば、何かが変わるのだろう。
別に、とあるきっかけがあった、とかじゃないはずだった。いつの間にか。段々と。部屋に埃が溜まるように、自転車に錆が生すように。徐々に彼の心には会話というものに対する見えない壁が出来上がっていた。
いや、本当は薄々勘づいていた。気づきながら目を、耳を、常に社会のお荷物になりたくないという意識が本質を避けてきた。
――こんな会話をしなくて良くなった時が、こんな考えをしなくて良くなった時なのだ。
彼は制服に着替え終わった。
その日の放課後、藤城は友人達との用をしっかり果たした。
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