9話:新たな目的地
そりまちさんには悪いけどこの勝負、俺の勝ちだ。
「【見・羅 針 雷】」
体内の魔力を使う人間族とは違い、俺ら雷人は基本、自然に漂う魔素を使って魔法を使行する。
人魔の森に円形に散らばる雷の魔素が、生物の居場所を、その魔力を俺に教えてくれる。
「地中に巣食う魔物は⋯⋯おお、結構いるな」
近場から当たってみるか。
巣穴さえ特定すれば、あとはそこに目印のピンをたてるように魔素の針を立てるだけだ。
そうすれば、「【移・飛 雷 針】」紫電と化した俺が森を行く。
ビンゴ。
ジゴクアリの巣穴、見ぃつけたっ――!
***
「六対六! 勝負は引き分けだねーっ!」
泉のほとり、サリアが、ワシとライガー少年の手を持ち上げるんだがよ。
「まじかよ! ライガーお前、ソウルマジックなしでよく捕まえたな!」
「はっ、俺にかかれば朝飯前だぜっ」
悔しい。これは悔しいぞ。反則まがいに有利な立場だったから、正直余裕ぶっこいどったのにぃッ。
すごい、すごいわ、きゅうう!と皆がライガーを褒め称えるため、ワシはそっぽをむく。
「朝飯前ってももう夕暮れだよな。 まっ、ワシは日が落ち始める前には捕獲して戻ってきてたけどっ」
「子供かよ」「それはダサいよそりまちさん」「ダサまちさんね」『きゅぅぅ』
「お前ら」
いつのまにそんな仲良くなったんだよ、ワシ嬉し悲しいッ。
「ところで痛くないの? それ」
「雷の膜はってかっらな、肌に触れてるわけじゃねんだ」
ライガーはうっとうしそうに全身を見る。痛々しそう。
頭に一体、両腕両足にそれぞれ一体、残る一体はお尻にかぶりついているのか、股の間からぶらついたクワガタの足のようなものが見えとる。
巨チンにも見えるな。
「これでも気絶させてんだよ、いまもだぜ? こいつら、俺をかじるのをやめねんだよ」
『きゅぅぅ』「そりまちさん」
「おう。 【流魂反転】」
ワシは魔物たちの魂に触れ順に正気に戻していく。ジゴクアリたちがライガーの体からぼとぼとと落ちた。
「気絶もままならんとは」
魔王の呪縛。じつに腹立たしい。
「おーーさんきゅっ。軽くなったわ。 それでおっさんはこいつら集めてなにしてんだ? 魔王軍に反乱をおこすのか?」
「むっ?」
地面に転がるジゴクアリたちを、ワシが捕獲してきたジゴクアリたちが巣穴まで運んで行くのを見守っていると、ライガーがニヤッと頬をつりあげた。
反乱か。それもありかもしれん。と思うほどには頭に血が昇っとるな。
気を紛らわすように、ワシは広大な地下通路を利用して世界を旅する計画を話す。影間をワープできるサリアの魔法もふくめて。
「ワープってこんな感じか? 【移・飛 雷 針】」
するとライガーの姿が消えた。
「「「へっ?」」」『きゅぅぅ!?』
「こっちこっち!」
泉の向こう側だ。ワシらは全員、唖然として顔を向けた。
バチっ、と紫電がほとばしる。泉の向こう側から手を振るライガーが、次の瞬間には目前に立つ。
「それ、俺の魔法でできるかも」ニヤッと笑うライガー。
「まじで?」目をぱちくりするしかないワシ。
「うんまあ、魔素をコントロールする時間さえくれりゃ結構な距離飛べるぜ?」
「そうなんだ?」
そうなんだ⋯⋯。
⋯⋯どーすんのよ地下通路計画ぅッ。
「ま、まあよかったじゃないそりまちさん。 手間ははぶけたじゃないの」
「そうじゃないんだよミルフィーネ、ロマンが、男の夢が⋯⋯ッ」
「あーーー、なんか俺わりいことしちまった?」
「いいのいいの、そりまちさんね、地下牢で青春を費やしたからロマンに飢えてるんだよぉっ」
ぺろぺろぺろ、四つん這いで嗚咽するワシの顔を丸っこが舐めてくれる。ううう、自分でもわかっとる、サリアのいうとおりだ。年甲斐もないが、それでも大人のように振る舞い続けるのはもう疲れたんだ。
貴族の責務もなくなったいま、ワシは感情に素直に生きたい。
「あっそだそりまちさん! 待ってるあいだミルフィーネとおもしろいこと思いついたんだけどいい?」
「おもしろいこと?」
空気を変えようとしてくれたんだろう、サリアがぱんっと手を打った。ワシは四つん這いのまま顔をあげた。
「そりまちさんのソウルマジックでね、ミルフィーネの魂をお人形とかに移せないかなって?
それなら持ち歩き可能じゃん?」
「サリア、私は魂は移しても魂は売らないわよ?」
人形扱いするなといいたいのだろうが、
「その発想はなかったな」
おもしろい。確かにおもしろいぞ。可否はともかく、魂を肉体とは別の器にはめこむのか。
「やってみるか?」直刀をぬくワシ。
「お人形がないでしょうが」軽くあしらうミルフィーネ。
むっ、貝ではいかんのか?
「人魚族の歌声には魔法の力があるのよ。 お人形なら口があるでしょ? うまくいけば発声できるかもしれないじゃない」
「なるほど。 というかよくわかったな、ワシの考えてること」
「そりまちさん、結構思考が口から漏れてるよっ?」
そうなのサリア?根っこに染みたクセとはなかなか直らんな。
「さっきからなんの話してんだ? 魂? おっさんの魔法かなんかか?」
「そんなもんだ。 ソウルマジックといってワシの固有魔法なんだがこれがまだ未知の力を秘めてそうで」
なっ、と首をかしげるライガーに答えながらも、ワシの目にライガーの魂が、その紫電ほとばしる魔力がうつったとき、
「魂を移す? 待て、それなら魔力のみを移すことができれば」
「そりまちさん?」
『きゅぅぅ?』
サリアと丸っこを筆頭にみながワシの顔をのぞきこんでくるが、ひらめきを止めるわけにはいかない。おそらくいまワシの口は、そのすべてを倍速でもらしているだろう。
「ミルフィーネ、人形はいつ用意できる?」
「? 明日でも持ってこれるわよ?」
「ライガー、お前がこの森に来た事情は知らんが、もう少しだけ手を貸してくれるか?」
「ん? いいぜ、俺も雲の地に戻る手段を探さなきゃだし、あんたについてったほうがうまく行く気がするしな」
「ありがとう。サリアよ、
もしかすれば、その肉体を復元できるかもしれん」
「ほんと!?」
ああ、まだ可能性、だが賭けてみる価値はあるぞ。
「巣穴に戻るぞ。 ワシとライガーはミルフィーネの用意した食料を持ってジゴクアリを捕獲しにいく、サリアはオウゴンオニと協力して、人魔の森を北上するように掘り進める指揮を取ってくれ」
「わかった! だけど、どこに行くの?」
「精霊人族の国⋯⋯精霊たちの園だ」
彼女たちの協力を得れれば、サリアを元の姿に戻してやることができるかもしれん!
【後書き】
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