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4話:吸血人サリア

「あたしはサリア! 吸血人族なの!」


 お、お、おっぱ⋯!ワシは視線もそらせずしゃかりきに顔を縦にゆらす。


「あたしね!あのジメジメした夜の世界がイヤで飛び出してきたのよ! 影をもぐってこの森に来たんだけどさっ、日陰が多いし居心地がよくってね! そうなると今度は陽の光が気になるわけじゃん? したら浴びるじゃん! 


 そしたら肉体と迷子になっちゃったのーーーーッ!」


「そ、そうか、事情はわかったから前を隠しなさい」


 サリアと名乗るマッパな吸血人族が顔を近づけてきたから、ワシはその肩をつかんで距離をとりながらいった。いやなんとかいえた。


「えっ? あほんとだ」唯一身につけているマントで裸体を隠すサリアだが、いまの話を聞くにこれは彼女の魂の姿らしい。マントは魔力か、ワシの目にはそれを構成する魔力がうつる。


 しかし目に薬、いや毒、それも地下牢暮らしの長かったワシには猛毒だった。高血圧で頭がズキズキする。まぶたを抑えて深呼吸していると人魚族のミルフィーネが泉のふちから顔をのぞかせてきた。


「ねえそりまちさん、誰と話しているの?」


「ああそうか、【魂を見る目(ソウル・アイ)】。 これで見えたか?」


「――誰!?」


 びっくりするわな。すまん、動揺して事前に説明するのを忘れとった。ミルフィーネ、いまお前はサリアの魂の姿を見とる。


 同じ魔法をかけた丸っこは『きゅいきゅいっ!』と、とても愉快そうにサリアに駆け寄って、その魂の肉体を通過する遊びを覚えたようだ。子供は柔軟。

 

 しかし、


「ワシ、サリアの肉体らしきものを知っとるかも」


 あれだよな?と丸っこを見ると『きゅいっ!』元気な返答がくる。


「ほんと!? どこでどこで?」


「サリア、日光を浴びるさいに岩に登ったろ?」


「のぼった! のぼったかもおっ! いっちゃん心地よさそうな場所で日光を受け止めたの覚えてるかもっ! そしたら視界がブラックアウトして、気づけば大樹にめりこんでたの!」


 めりこむというよりは、すり抜けていたのだろうが、


「やっぱりな。 この丸っこが面白いもんがあると案内してくれたんだよ。その、サリアのガイコツに」


「ガイコツ?」


 やはり、知らなかったか。サリアの動きがピタリ止まった。


「うむ。 キミの肉体は立ったまま骨になっていたな」


「まじか」


 すまん、伝え方がこれ以外にわからん。酷なようだが事実は事実、隠すというのも違うだろうし。


「ということはおじさん、見たのあたしの骨?」


「うむ、綺麗なガイコツだった」ワシの見たままを、伝えるしかない。そう思ったのだが。


「まじかッ」


 もじもじもじ、と赤面しながら、マントで隠した体をくねらすサリア。


「恥ずかしがる角度間違えてないか?」


 問うたワシ。


「う、うるさい! なんか体の奥を覗かれたみたいで背中がくすぐったいんだもん!」


「魂にもあるのか皮膚感覚」


 勉強になる、と脳内でメモをとるワシとモジるサリアに、ミルフィーネがぱしゃっと水をかけた。ワシだけずぼ濡れ。


「そりまちさんもサリアちゃんも落ち着きなさいな、ガイコツっていったいなによ? 吸血人族は陽の光を浴びると死んじゃうんでしょう?


 それならあなたはなんで生きてるのよ?」


「それはあたしにも」頬をかくサリアに言葉を被せるようにして「魂、というものだ」ワシはいった。


「この世界にはまだない概念だが、生物は死ぬと魂という器が肉体を離れる。 もっとも、サリアのような肉体の姿を持つ魂はワシも初めて見るがな」


「「魂?」」


「うむ。 それはだな」ワシが固有魔法である【魂魔法(ソウル・マジック)】と前世の記憶からかじった知識を自前の知識のように鼻高々に披露すると。


「すごいわ。 そりまちさん、あなた天才ね」


「すごい。 あたしはいま魂なんだ。精霊人族になったと思ってた。


  そりまちさんに会わなきゃ絶対に気づかなかったよ!」


 つーーーーー、とワシの頬を一筋のしずくが流れる。

 生まれてシジュウハチ年、美女に褒められたのは初めてだ。たとえそれが偽りの功績だとしても、ワシ、嬉しいッ。地下牢で腐らんと研究しといてよかったッ。


「感無量。 しかもサリアよ、その魂、肉体に戻せるかもワシッ!」


「ほんとに!?  あーーだけど骨なんだよね? あたし、骨で生きるのはイヤかも」


 むっ、配慮に欠けたか、ワシは息を吐いて頭に冷静さを戻す。


 じつをいうとワシは魔物以外の魂は見たことがない。 オルガオルなど、生きとる人間を纏うそれはともかく、死後のものはないんだ。地下牢に入ってからはもちろんのこと、子供時代にも死というものにじかに触れたことはなかった。

 

 ゆえに、サリアのこの魂の姿が吸血人族特有のものか判断することができん。もしも特質なそれだとすれば【流魂反転(ソウル・リバース)】で骨体に押し戻せば肉体も復元する可能性はある。


 しかし不確かなもので、希望を持たすわけにもいかん。


 だが⋯。


「サリア、気持ちは察する。 その煌びやかな美貌を得るために、きっと努力してきたんだろう。


 だが、魂の状態でいつまでもこの世界にとどまれる保証はないんだ」


「そうなの?」


「おう」前世の知識だと、魂とは天に昇るもの。


「そうなんだ。そうか。 じゃあ他に選択肢はないんだ? だけどイヤだなあ、骨になるの」

 

 いうべきか、いうまいか。

 不確かなもので希望を持たすわけにはいかんといったが、希望がなければ生きるのはつらい。それはこれまでの生活で痛いほど身にしみとる。

  


 だから、すまぬサリア。ワシはいう。


「もしも、もしも肉体が復元しなかったら、ワシはそれを取り戻すための魔法を考えようと思う。 

 ソウルマジックは死を否定する魔法だ、それくらいのことは可能かもしれん」


 かもでしかない。確証はない。傲慢な誘惑だ。それでも生き延びて欲しく思う。身勝手な願望だが、ワシは手の届く魂は助けたい。


「ほんと? また、好きなお洋服着れるかな?」


「それは骨でも可能だよ、まずは生き延びよう」


 ワシが誠心誠意をこめてフォローすると、「そういうことじゃないのよ人間」『きゅいっ』と、人魚はともかく丸っこにまで白い目を向けられた。


 なにがまずかったんだろうか。


「あははっ。 わかった! そりまちさん、あたしを骨に戻して!」


「よし! それじゃ岩場に」


「待って! ごめんなさい、乗り掛かった船だもの! わたしもサリアの行く末を見届けたいわ!」


 人魚族に足はない。サリアを連れてあの場所に行くつもりだったが、そうなるとミルフィーネは置いてけぼりになるのか。

 それは確かに、歯がゆいわな。


 サリアもまた心細そうにミルフィーネを見ている。


「わかった、しばし待て」


 ワシは丸っこと、フラフラの眠る皮袋を二人に預けると、急ぎ足で岩に走った。

 その上で、日光を受け止めるサリアの骨体。


「うらわかき乙女の体、傷の一つもつけるわけにはいかんな」

 

 直刀をぬく。近くの木からツタを何本か切り落とす。それから大きな葉と枝をいくつも集め、崩れぬようにそっと巻くと、力の限り慎重に、ワシは早足で泉に戻る。


 そして、それを泉のふちに立てらせツタをほどき、さっとサリアのうしろに回ると。


「【流魂反転(ソウル・リバース)】」


「――きゃっ!」


 ワシは、サリアの魂をにぎって手早く骨体に押し込んだ。なにも、その姿を目の当たりにさせる必要もあるまい。


「――もぉぉぉぉぉ!そりまちさんどこ触ってんのえっちぃーーーっ!」


「えっ?」


「成功は、したのね」


 サリアの魂が肉体に戻った。黒いマントを羽織りギャルギャルした服装のガイコツがいる。しかし、肉体は戻らなかったか。すまぬサリア、ワシは業の深い人間だ。


 そして複雑な顔をするミルフィーネを横目に、ワシは頭をかいた。


「いやだってよ、通常は卵の形のを握って押しこむから。

 つい頭と尻を持ってむぎゅっと持ち上げちまったすまん!」


「いいけど! そのお尻もなくなっちゃったし! 見てこれ骨しかない!」


「う、うむ、そうだな!」


 ショートパンツをずらして陽気にふるまうサリアに笑みを貼り付けてうなずく。

 それと同時、ギャルの肉体でなくてよかった、血管がはち切れるとこだった、と脳の片隅で思ってしまったワシはやはり業の深い人間だ。


「ほ、他になにか、感覚がおかしなところなどないか?」


 丸っことフラフラに続きこれで三度目の魔法。

 不具合があるとよくない。


「んーーー、ないかな? 体はどこも動くし、前と同じ感覚だよ?」


「そうか、よかったよ」


 こんどは自然とまぶたが細くなった。サリアが頭を下げる。


「うん、ありがとうそりまちさん。 この体はどーなるかわかんないけど、助けてくれてありがとうございますっ」


「⋯⋯ワシも頑張ってみるよ」


「うん! 信じてるねっ」


「おう」


 ミルフィーネが乗り掛かった船ならワシは船に乗せた張本人だからな。力の限りを尽くすと誓う。


 話もひと段落したところで、ミルフィーネが心配そうに眉をひそめた。


「それで、これからどうするの? ふたりとも住むお家もないんでしょ?」


「あたしはそりまちさんがいいならついてくっ!」


「それはもちろんだ。 しかしそうだな、水場は確保できたが食料のメドもついてないし、野宿というのもな」


 ワシと丸っこ、それにフラフラだけだったら問題はないが、ガイコツとはいえレディを野で眠らせるのはいかがなもんだろ。


「食べ物ならどーにかできるわ。 人魚国は深海で果樹を育てているから。それに貝類も用意できる。私がこの場所に毎日持ってくるからそれは心配しないでちょーだい」


「いいのか? 助かるがそこまで」


「いいわよっ! あなたたち、これから先大物になる予感がぷんぷんするもの! 恩を売るなら早くからのほうがリターンは大きいでしょ?」


「はははっ、それなら頼む」


 この言葉はおそらく本心、だがその1割程度だろう。優しい人魚だ。ワシは「ありがとうミルフィーユ」ととぼけた顔でいって、「ネ! だからネなのよ!」ミルフィーネがそっぽをむく。


「じゃ、あとは家だよね? それならあたしに任せてっ!」


「? なにを?」


『きゅぅぅ?』


「この大樹の影に潜り込むの【影 空 間(シャドウ・ルーム)】」


 サリアがニヤッと笑ったとき、泉のミルフィーネを残してワシらは影に落ち込んだ。




【後書き】


 おもしろそう、続きが気になると思っていただけましたら、

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 をどうかよろしくお願いします。活力をいただけます。


 何卒、よろしくお願いします。


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