独り
国のおえらいさんが贅沢をしている一方、戦場の状況は悪化していく。
最悪な労働環境、最悪な衣食住。
まるで生きた心地がしなかった。
そんなときは首にかけてあるペンダットを見る。
そこには昔の幼馴染の写真が貼ってあって、こんなところでも幸せを感じることができる。
あと何日生きれるだろうか。塹壕戦に加え来るはずの無い豪雨が襲っているこの戦場で。
俺宛の文通が送られてきた。
送り主はペンダットにも写っている彼女だった。
【極上の青が輝く丘の上にて待つ】
極上の青、というのはヤグルマギクのことだ。
とある季節になるとヤグルマギクが咲き誇り、あたり一面が極上の青になる丘がある。
そこは俺と彼女だけの秘密の場所で、嫌なことがあったときも良いことがあったときもそこで二人きりで話していた。
「全軍、突撃ー!!」
だがそんな思い出に浸れるほどここも優しくはなかった。
俺は手紙を胸ポケットに入れて、塹壕から顔を出した。
仲間と言える仲間は全員死んだ。今となっては右も左も知らない顔ばっかだ。
○○○○
戦争が終わった。俺達は負けた。
だが生きのびた。これほど幸福なことはないだろう。
国に帰ると予想通り石やゴミが俺達兵士を歓迎してくれた。
だが俺はそんなことも気にせず一つの場所へ向かった。
あの日、彼女が手紙で伝えてくれたあの場所だ。
彼女はいなかった。
極上の青が輝く丘に、俺は一人取り残された。
帰ろう、そう思って丘に背中を向けたとき、背中に激痛が走った。
立てない。その場で倒れ込む。
俺は結局、彼女に会えないまま死んでしまった。
次に目を開けると、俺は宙に浮いていた。
そこは極上の青が輝く丘のまさに上だった
あたりを見回す。もしかしたら、もしかしたらここに彼女がいるかもしれない。
探そう。彼女を見つけるまで。
探そう。彼女にあの日の言葉を返せるまで。
死者
クリス・アルテッド 二十二歳
死因 肺炎による急死
チャールド・カリトフ 二十三歳
死因 敵の領地に侵入し撃たれ、そのまま出血死