禁断の恋
最初は好きなんかじゃなかった。
心臓の病によって倒れた彼女は余命3ヶ月と申告され、そのことを知った彼女は日に日にその明るさが消えていくのが目にわかった。
だが彼女は諦めなかった。
自分が死ぬという運命に抗い、いつでも笑顔でいた。
自分もそれに答えようと笑ってみようとしたが、彼女がいつか死んでしまうと思うと、完全にその笑顔を返せなかった。
そして今日は彼女が死ぬと言われる一つ前の日。
今までに、彼女に笑顔を見せれた日はない。
病室に突っ立ってるだけの自分は、彼女にどんな言葉をかければ良いかわからず、沈黙だけが夕焼けを包んだ。
「ねえ」
その沈黙を破ったのはやはり彼女だった。
「私たちが初めて出会った日、覚えてる?」
もちろん覚えている。
桜の木が並ぶあの道で、今日みたいな夕焼けが輝いていた『あの日』だ。
あの日を自分は忘れることは無い。
「君のせいなんだよ?こんなにこの世界が恋しくなったことなんて、もう無いと思ってた」
自分もそうだ。『あの日』が来るまではこの世界なんてどうでもいいと思ってた。
けど今は違う。
彼女ともっと話したい。彼女が生きている世界に入り浸っていたい。
けどそんなことはできない。彼女の笑顔は、明日になれば消えてしまうのだ。
「消えないよ」
彼女は自分の心を透かして見たように言った。
「私の笑顔は確かに消える。明日には君に笑顔を向けられなくなる。けど、君が覚えている。私の笑顔も、なんだって覚えている。そうでしょ?」
彼女が言い切ったすぐ後に、病院のチャイムが鳴った。
自分はもう帰らなければいけない。
会話にピリオドがつかないまま、自分は出口のドアへ向かった。
「じゃあね」
彼女は最後まで自分に話しかけた。
「愛してるよ。知里」
そう。
私は知里。
生粋の女の子だ。
その瞬間、目にためていた涙が溢れ出てきた。
それと同時に、私は初めて彼女に言葉と笑顔を返すことができた。
「私もだよ。紗来」
そう。
彼女は紗来。
生粋の、女の子だ。
禁断の恋には、ピリオドがお似合いだ。