出会いと人生の分かれ目 遠征(5)
フォックスさん達と別れた後、ロックとナナは集合場所の時計台広場に向かう。
弟子ブラザーズはまだ戻って来ていなかった。ロックとナナは、ベンチにすわってのんびり町を眺める。
遠くから「ロック!ナナちゃん!」と呼ぶ声が近づいて来た。
横一列にならんで、ソワソワモゾモゾする彼らに、ナナは違和感を覚える。
「なんか、いいものあった?」とナナが聞いても、みんな目が泳いでいる。
「あれ?コウはどうした?」確かに、コウがいない。
ミランの後ろから、コウがヒョッコリ顔を出す。
セドが、コウを前にそっと押し出す。
「えへへ」
コウの腕には、キジトラの仔猫が抱かれていた。
「コウ、その子どうしたの?」
「レストランの前で、お腹をすかせてウロウロしてたんだ」
「ごはんあげたの?」
「少しだけ」ミランが目をそらす。こりゃ少しじゃないな。
「ロック、ナナちゃん!お願いだよ、この子を連れて帰りたい!一緒にくらしたい!」
「コウ、周りに親猫はいなかったのか?」
「ロック、1時間ほど様子を見たけど、親はいなかった」
「通りに出ちゃいそうで、危なかったんだよ。ここに放って置いたら、きっと死んじまう」
「どうしても、コウから離れないんだ」
みんな、目が必死だ。お願い!って顔に書いてある。
「その子コウの従魔だよ(小声)」
「「「「えっ?」」」」
「モモちゃん、それほんと?(小声)」「本当か?(小声)」
「うん、ほんと(小声)」
「ほんと(小声)」
キジトラちゃんも喋れた。本当みたい。
「わかった、連れて帰ろう。モモ、色々教えてやってくれ」
「まかせて(小声)」
「コウ、コテージに帰ったら名前をつけてあげなよ。それで完全にファミリアになるから」
「うん!」
『67』一行は、慌ててコテージへと戻ったのだった。
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リビングでゴロゴロしながら、みんなで子猫の名前に悩む。
こんな幸せな悩みが他にあるだろうか。ナナとロックの頬がゆるむ。
「キジトラだからキジ!」
「ユーリ、1秒も考えずに提案するな、安直すぎる」
「子猫だからチビ!」
「ジル、すぐ大人になるぞ、大人になってもチビだぞ」
「セド、じゃあ、なんかいい名前あるの?」
「んんっ。フェザントとかどうだ」
「堅苦しい」
「いかつい」
「2人とも辛口ですね」
「コウは、つけたい名前はないの?」
「君は、男の子?女の子?」
「おとこ」
「じゃあ、トラ」
子猫の体がふわっと光る。トラに決定したみたい。
「ぼく、トラ?」
「うん。トラ、おいで!」
コウは、トラをやさしく抱き上げて、キュッと抱きしめた。
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ロックとナナは、ベッドに横になりながら今日の出来事を思い出す。
「トラが従魔って事は、コウは魔法使い?」
「本人が魔法も使える剣士だって言ってるんだから剣士だ」
「まあ、本人次第だよね」
「何でもいいさ、なりたいものになればいい」
「フォックスさん達、マリンナに来るって言ってたね」
「そうだな。賑やかになるな」
「セドとミランは、あとちょっとで王都に帰るのかな」
「いや、あれは帰らないぞ。おそらく全く帰る気がない」
「そうなの?そう言ってた?」
「絶対に1年じゃ習得できない事を次々に教えろと言ってくる」
「ふふっ、帰る気ないのか」
「ナナ、うれしそうだな」
「ずっといるなら、セドの氷魔法、絶対使えるようにしてあげよう」
「ユーリも、独立と言わなくなった。おそらく今の所は外に出る気はないな」
「夢だったんじゃないの?パーティ立ち上げたいのかと思ってた」
「いや、バッソに追い出される前提だったから、それしか無いと思ってたんだろう」
「じゃあ、『67』を気に入ってくれたのかな?」
「そうだといいな」
「コウとジル、お兄さんたちに懐いてるから、しばらく居てくれるのならよかった」
弟子ブラザーズは、しばらく安泰だ。
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『今回のクレイロックドラゴン討伐は無事終了しました。ご協力ありがとうございました』
4日目の朝『67』が討伐の受付に行くと、ギルドから通達が出ていた。
ナナ達が町で遊んでる間に、他のパーティががんばって数を減らしたらしい。
「大量発生の原因は分かったんですか?」
「まだ調査中なのですが、おそらく昨年のイワネズミの大量発生と三年前のヤマガミリュウの絶滅が原因です。ヤマガミリュウはクレイロックドラゴンの天敵でした」
「なるほど、天敵がいなくなり食料が増えたから、あんなにクレイロックドラゴンが増えたのか」
「ヤマガミリュウは、完全に絶滅したんですか?」
「それも調査中です。今の所、存在は確認できていません」
「そうですか。情報ありがとうございました」
「『67』さん、明日の高速馬車の予約は、どういたしますか?」
「お願いします」
「はい、承りました。明日の朝6時出発です。時間厳守でお願いします」
「わかった」
ロックと弟子ブラザースは、今日は稽古三昧するそうだ。
ナナとモモとトラは、ラグでダラダラと過ごす予定だ。
今回の討伐で『67』の皆は、色々な出会いや変化があった。
高速馬車で仲良くなったマリンナの古参パーティ。
これから会う機会が増えるであろう『竜山の頂』の人達。
コウは、トラという相棒を得た。
ジルは、パーティで役立ちたいという思いが強くなった。
ユーリは、独立せずに『67』に腰を据える選択をした。
セドとミランも、慌てて王都で独立するのではなく、ロックの元でじっくり学ぶ事に決めた。
今回の遠征は、『67』を取り巻く色々な人の人生に変化をもたらした。
この出会いと変化が、また次の大きな騒動に繋がるのだけど、それはまた別の話。




