タマスの通貨とナナのお買い物 大惨事は回避
家の鍵、財布、ハンカチ、リップクリーム、定期入れ、運転免許証。
マジックバッグに驚いたあと、ナナはサコッシュに入っていたものを1つ1つ確認した。
財布以外の物は、以前のままだった。
財布は、見たことない金属のカードが一枚だけ入っていた。
「これ何だろ?」
ナナは、ロックに金属のカードを差し出す。
「これは、口座カードだな」
「口座カード?」
「ナナ、鑑定」
「そうだった。鑑定」
困った時は『鑑定』だった。
ナナは、ロックから口座カードを受け取り鑑定をかけてみた。
『ナナの口座カード。財布に入っていた現金と町田奈々名義の地球での財産が、タマス国通貨に換金されて入っている』
「ロック!私の貯金!地球の貯金!ここに入ってるって!」
「おお、よかったな!口座カード無くすなよ。今すぐマジックバッグにしまっとけ」
「よかったー、ロック、口座のお金ってどこでおろせるの?」
「町に銀行がある。でも、ほとんどの店で口座カードから直接支払えるぞ」
口座カードがあれば、お店でそのまま買い物ができるらしい。
「ロック、私買い物行きたい。着替え位は欲しい」
ナナは、必要なものを色々買いたかった。
無いものが多すぎてお金が心配だけど、下着だけは何としても欲しかった。昨日の下着をつけて寝るのはキツイ。だいぶ切実だ。
あと、町の人と服が違いすぎて少し恥ずかしかったから、タマス風の服が欲しかった。
「わかった、行こう。モモはどうする?」
モモは、片目だけ少し開けて、ソファを尻尾でパシンと叩いて「ここで寝てる」と答えた。
買い物に行きがてら、ロックにタマス国の通貨について確認する。
タマスの通貨は、タマス錫貨・タマス鉄貨・タマス銅貨・タマス銀貨・タマス金貨・タマス大金貨の6種類。
『タマス』国で作った硬貨という事で、タマス〇貨。
錫貨10枚=鉄貨1枚、鉄貨10枚=銅貨1枚、錫貨から大金貨まで順に10倍ずつ価値が上がる。わかりやすい。
銀貨と金貨は他国の硬貨も使えるけれど、それぞれの国で硬貨の重さが違うから、同じ価値では使えないらしい。
例えば、同じ銀貨でも、タマス銀貨よりも軽い銀貨は、重さの割合で価値が下がってしまう。
タマスの硬貨は、他国の硬貨より少し重く、他国でも歓迎されるらしい。それがちょっとだけタマスっ子の自慢なんだとか。
あと、お金が全部金属なので、とにかく持ち運びが重くて大変だし、硬貨の重さでの比較換算も地味に店側の負担になるので、口座カードのシステムができたようだった。
難しい話はさておき、今ナナが知りたいのは、自分の口座カードにいくら入っているかだ。それと、服はともかく下着の値段。
口座カードの残高は、お店でも銀行でもギルドでもわかるそうだ。だから、下着を買えば自動的に口座カードの残高もわかる。
口座カードに入っているお金で下着が変えなかった時は、いろんな意味で大惨事だ。ロックにパンツを買ってもらう事態は、できれば避けたい。
親切に硬貨の説明してくれるロックの横で、心穏やかでいられないナナなのであった。
ナナは、大き目の布袋を抱えて、服飾店から意気揚々と出てきた。
1週間分の下着も、タマス風の服も買えた。
下着はタンクトップのようなものと、紐でウエストを絞る半ズボンのようなものだった。
布地は軽く伸縮性がある、ゴム編みのように編んである布だった。(セーターの袖のような編み方)
口座カードの残高は、思ったよりも多かった。
もしかしたら『町田奈々名義の地球での財産』に、奈々名義の車も含まれていたのかもしれない。
ロックが、ナナ専用の金属製のコップと、木製のお皿と匙、綿のような大きな布を数枚買ってくれた。
布は、切って手ぬぐいにしたり、バスタオル代わりに使うらしい。
モモに、小さなミルク用の木椀も買ってくれた。
ロックは、「他のものは、これから少しずつ揃えればいい」と言ってくれた。
ナナは、ずっと居てもいいと言ってもらったようで、すごくうれしかった。
ナナは、この世界のものを何も持っていなかった。
そして、大切なものは全部地球に置いてきた。
ずっとずっと考えないようにしてきたけど、とても心細かった。
だから、自分の持ち物と居場所を得たことは、とても心強かった。
「良く分からないけど、呼ばれた気がして風車に立ち寄った」それだけの縁なのに、ロックは優しい。
こういう人だから、メッセージの人に選ばれて、ナナの面倒を見る羽目になっているのだろう。
心の中で手を合わせて、ロックを拝むナナ(精神年齢45才)だった。
まだまだちょいちょい45才っぽさが出るナナ14才。