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王子様と私(1)

討伐完了の報告をしにギルドに寄ったロックとナナとユーリとモモは、ギルドから伝言を渡された。


『セドリック第8王子殿下の剣に、持ち主専用の付加を付けて欲しい。近日中にベン彫金工房へ依頼を出す』


不知火のリッカルドからの伝言だった。ロックとナナは顔を見合わせて「大変だ・・・」と呟いた。


ロックとナナは、ユーリとモモに孤児院へコウとジルを迎えに行ってもらい、先に帰って欲しいと告げて、慌ててベン彫金工房に向かう。


「ベン親方!大変です!」「ベン親方、ギルドからこんな伝言が」


「ああ、知ってる。ワシにもマリウスから伝言が来てた」


「私、嫌です!王都なんて行きたくないです!」

ナナは、えげつない手を使う王都の大手工房の話を思い出す。


「王都には行かねぇよ。王子殿下がマリンナに来るそうだ」


「え?向こうが来るんですか?王子なのに?」


「来るらしい。第8王子は、冒険者になるんだと」


「私、王子様への礼儀とか、自信ないんですけど」


「あっちだって、職人に礼儀なんて期待してねぇよ」


「親方、第8王子って事は、王位継承権は10番目くらいか?」


「いや、王太子が子沢山だからな、15番目くらいじゃねぇか?」


「王族なんだから騎士団にでも入ればいいのに、なんで冒険者なんだ」


「知らねぇよ、王族の考える事なんて分かるかよ」


「えっと、結局、私は断れないって事?」


「そうなるな」「そうだな」


「王都に帰った不知火の武器を見て、お気に召したんじゃないか」


「もー!いーやーだー!リッカルドの奴めーっ!」


「いや、ナナ、リッカルドのせいではないだろ」


「そうだけどっ!」


「嬢ちゃん、依頼はベン彫金工房が受けるんだ。失敗しても責任取るのはワシだ」


「なにそれ余計プレッシャーかかるぅ!」


「ナナ、落ち着け。王都に行かなくて良くなっただけでもマシだ」


「やだよー、王子様の依頼なんて受けたくなぁーい」


「嬢ちゃん、職人なんだから諦めろ。ベン彫金工房は国からも一目置かれる工房だって言ったろ」


「そうだった、そういえばそうだった」


「ナナ、いつもと同じだ。客と話して希望を聞いて、それを剣に付加するだけだ」


「そうか、そうだよね。王子様だからって、特別な事するわけじゃないもんね」


「不知火が護衛で来るそうだから、嬢ちゃんの知り合いが向こう側にいる分、いくらかマシだろ」


「うう、ロリーナさんに会えるのがせめてもの救いだわ」


「ナナ、王都に行かなくて済んだし、今日は帰ろう。親方、お騒がせしました」


「おう、ロック、嬢ちゃん、またな!」


「親方、トムさんも、またねー」


ナナは、力なく手を振って、ロックと共にとぼとぼと家路につくのだった。




▽△▽△▽△▽△▽△




セドリック第8王子殿下(15才)がマリンナに着いたのは、8月の半ばの事だった。



セドリックは王族だが、側妃ですらない元平民の愛妾の2番目の子供で、第8王子だが上に王女が4人いるので第12子だ。


タマスの王位継承権は、王の子供でさえあれば与えられるが、フレデリック兄上(王太子)の子が6人いるので、セドリックは18番目。普通に考えて王位を継ぐことはあり得ない。


騎士団のポストも第3王子、第5王子、第6王子がそれぞれ第一騎士団、第二騎士団、第三騎士団の騎士団長に就いているので、セドリックには回ってこない。


親が元平民の愛妾なので、もちろん重要な政略結婚もないから当然婚約者もいない。


このまま、フレデリック兄上(王太子)が即位したら、名ばかりの爵位をもらってド田舎のどうでもいい王家管轄地の領地経営をするか、どうでもいい外国に婿に出されるか、とにかく碌な未来は無い。


それなら、王位継承権をとっとと放棄して、冒険者をやりたいと思った。国中を旅して、自由に生きようと。


王族は、王位継承権を放棄して王籍を抜ける時に、結構な額の支度金が出る。


セドリックは、その支度金で装備を整えるつもりだったが、従者のミランが「冒険者で成功しなかった時の為に、支度金はそのまま取っておきましょう」と言ったので、そうする事にした。


では装備の購入はどうするのかとミランに相談したら「セドリック様がまだ王子殿下のうちに、王族の予算で可能な限り装備を整えましょう」と言われた。


可能な限りと言っても、何しろ第12子の第8王子だ。大した予算は割り当てられていない。今すぐ用意できる金はせいぜい金貨100枚程度だ。


そこで、先日パーティで知り合った『不知火』のメンバーに相談してアドバイスをもらい、紹介されたのがベン彫金工房だった。


ベン彫金工房なら、既存の剣に飾りを足して金属魔法で特殊効果を付加できるらしい。それなら、王城の宝物庫に眠っている剣が山ほどある。父(現王)に言えば、あまり価値のない剣を1剣くらい譲ってくれるだろう。


問題は、工房の場所だ。トッタラッタ領マリンナは王都から遠い。職人を王都に呼んでいたら時間も金もかかる。


工房から職人を呼んで登城するまでにマリンナから15日かかるとして、王城での打ち合わせに3日、職人が作業のためマリンナの工房に戻るのに15日、制作期間を1か月(30日)として、また王都へ15日かけて届けに来て、15日かけてマリンナに戻る。


ベン彫金工房が何人職人を抱えているのか知らないが、あちらは大迷惑だろう。冒険者として長い付き合いになる工房だ、できれば良い関係を保ちたい。


更に、職人の旅費も宿泊費もセドリック持ちだ。長期間拘束するのだから、それなりの支度金だっているだろう。それだけで予算が大幅に跳ね上がる。職人を城に呼ぶのは双方デメリットしかない。


そこでセドリックは、自分でベン彫金工房へ依頼しに行くことにした。たいして公務の無いセドリックは、時間だけならたっぷりある。それなら、護衛と自分の往復の旅費と滞在費だけになるから、かなりの金額を抑えられる。


それに、せっかく旅費を出すなら、セドリック自身が旅に出たいという気持ちも少しあった。


という事で、現在セドリック第8王子殿下は、マリンナの町に向かっていた。


マリンナまで従者のミランと共に護衛の『不知火』の持ち馬車に乗せてもらい、『不知火』の定宿と各地にある『不知火』の拠点に泊めてもらったので、護衛の費用は支払うものの旅費は格安だ。

マリンナでも、『不知火』の拠点に滞在させてもらう。彼らには世話になりっぱなしだ。


父(現王)からもらった剣を腰に差し、セドリック第8王子殿下は意気揚々とベン彫金工房に向かうのだった。


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