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『不知火』のリッカルドは面倒臭い(2)

翌日ギルドを通して、『不知火』のリッカルドから話し合いの要請が来たが、ロックはすげなく断った。


『不知火』のやらかしで『67』が一斉討伐に出ない事は、リッカルドがナナに付き纏っているという噂と共に、冒険者の間ですぐに広まった。


おまけに『不知火』は、ベン親方に依頼を受けてもらえず王都に戻れない。

武器への特殊効果付加が必要だからわざわざ王都から来たのだ。手ぶらでは帰れない。


翌々日ギルドを通して『不知火』から話し合いの要請が来た。ロックは、それも断った。


そのまた翌日、『不知火』から謝罪の手紙が届いた。ロックは、その手紙をギルドを通して返却した。


そして今日、改めて『不知火』から話し合いの要請が来た。


「どうする?ナナ」


「本当に反省してるなら話しくらい聞いてもいいよっていう上から目線の返事を返してくれる?」


「わかった」ロックは、ニヤリと笑う。


『不知火』からの返事はすぐに届いた。内容は「お願い致します」の一言だった。



▽△▽△▽△▽△▽△



『不知火』のメンバー5人と『67』のロックとナナがギルドの応接室に向かい合って座る。


「不知火リーダーのマリウス、剣士だ」

「不知火のチャック、剣士です」

「不知火のニール、弓士です」

「不知火のロリーナ、魔力付与の魔法使いです」

「不知火のリッカルド、魔法使いだ」


「67リーダーのロック、剣士だ」

「67のナナ、魔法使いです」


「『不知火』はマウンテンマンドリルの群れ80匹、遭遇してから何分くらいで倒します?」

ロックさん、いきなりぶっこみます。


「何分?遭遇してから誘導して、結界で群れを分散させて数匹ずつ倒すから1時間半くらいか」

マリウスさんが答える。単独パーティで討伐できるんだ。実力はあるんだなと、ナナは少し感心する。


「先日の遠征では、俺とナナは最短で20分かからず倒しましたよ。2人で」

小雨の日のアレだ。嘘ではないが、かなり条件がシビアだ。


「にじゅ?!」「20分!しゅごい!」「いや、20分じゃ無理だろ!」

ニールさん、ロリーナさん、リッカルドが目を丸くする。

ロリーナさんかわいい。ナナは、心の中でロリーナたんと呼ぶことにする。


「無理じゃないですよ。条件にもよりますが。ナナに説教するなら、マウンテンマンドリルの群れ80匹討伐、20分切ってからにして下さい」


「説教など」


「する気まんまんでしたよね?開口一番、君にプライドは無いのか!でしたけど。公衆の面前で」


「本っ当に申し訳なかった。リッカルドを止められず、迷惑をかけた」

リーダーのマリウスさんが頭をさげる。気苦労が多そうだ。


「本当ですよ。早朝に訪ねて来てドアをぶっ叩いた時にも、皆さんいらしたんですか?凄く怖かったんですけど」


「ごめんなさいっ!リッカルドが、お前も魔法使いだろとか言って引っ張っていかれて、ぜんぜん止められなくて、ごめんなさい」


「いえ、非力な女性じゃ無理でしたね。気にしないで下さい」

うん、ロリーナたんならしかたない。ナナは、コロッと態度を変える。


「ロリーナた、ロリーナさんは、魔力付与と魔力結界の魔法使いなんですか?」


「そうなんですっ、攻撃魔法は苦手なんですけど、付与と結界は得意ですっ」


「私も付与は得意です!最近、結界も使えるようになったんですよ!ロリーナさんに、色々聞きたいな」


「私でよければっ、えっと今マリンナでお勧めのカフェありますか?そこでスィーツ食べながらでもっ」


「ロック、行ってもいい?」「俺も行く」


「ロリーナさん、後でご連絡しますね!」


「楽しみぃ!」


「俺も行きたいです!ロックさんの身体強化スゲーって聞いたんですよ。話が聞きたい」


「チャックさん、いいですよ。俺に答えられる事だったら」


「俺も!身体強化なら俺も聞きたい!」


「ニール、待て、お前ら自重しろ。俺達は謝りにきてるんだぞ」


「『不知火』からの謝罪は、先ほどマリウスさんとロリーナさんから頂きました」


全員がリッカルドを見る。


「すまなかった」


「それは何に対しての謝罪ですか?」

ロック、顔が怖い。『威圧』も人間に対して発動するんだね。


「ギルドでの件と、自宅を訪問した件だ」


「ナナ、どうしたい?」


「二度としないと約束してくれるなら、謝罪を受け入れます」


「わかった、二度としない。申し訳なかった」


「謝罪を受け入れます」


こうして、この面倒くさい一件は終焉を迎えたのだった。




▽△▽△▽△▽△▽△




ロックとナナは、マリンナ評判のカフェ『スノウホワイト』のテラス席にいた。



「『不知火』フルメンバーじゃないですか」


「ナナさんっ、本っ当にごめんね!」

ロリーナさんが、顔の前で手を合わせる。タマスでも謝る時には手を合わせるのか。ナナは、久しぶりに見る日本の習慣に感慨深い。


「すまん、リッカルドがどうしても行くというので、心配でついてきた」

本当にマリウスさんは気苦労が絶えないようだ。みんなもっと労わってあげて。


「ロックさん、その子供達と猫ちゃんは?」

ニールさん、猫ちゃんって言った。猫好き仲間かも。猫好きに悪い人はいない。


「ウチの荷運びのユーリ、弟子見習のジルとコウだ。こっちはナナの従魔、モモだ」


「「「こんにちは!」」」「にゃー」


「俺、不知火の人が来ると聞いてついてきました!」


「僕、ナナちゃんが仲良くなったロリーナさんに会ってみたくて!」


「俺は、ロックの身体強化の話を聞きたくて!」


「ユーリ、家で聞いてくれたらいつでも答えるぞ」



『不知火』の人達は、話してみると、楽しい普通の人達だった。

不思議に思ったナナは、リッカルドに聞いてみる事にした。



「リッカルドさんは、何をあんなに怒ってたんですか?」


リッカルドは黙り込む。


「ナナさん、リッカルドは、誤解してたんですよ」


「誤解?」


「ナナさんを、剣士にいいように使われる魔法使いだと思ってたんですよ」


「そうなんですか?」


「ロックさんがリッカルドを威嚇して、ナナさんを連れ帰った事で、余計にそう思ったらしくて」


「どう見てもラッブラブだから、絶対違うって私言ったのにっ!」


「ロックは、ナナちゃんにメロメロだよ」


「ロックは、誰よりも何よりもナナちゃんが最優先だよ」


「ロック、ギルドでナナちゃんの番犬って呼ばれてましたよ」


「「「いいように使うなんて、ナイナイ」」」

コウとジルとユーリが全力で否定する。



リッカルドがギルドでナナに「君にプライドは無いのか!」と言った時、リッカルドは、違う会話の展開を想像していた。


「あなたは不知火のリッカルドさん!」


「君は、剣士にいいように使われてるそうだな、魔法使いの誇りを忘れてはいけない!」


「リッカルドさん!」


「私と共に王都に行こう!広い世界を見て魔法使いの誇りを思い出すんだ!」


「はい!」


リッカルドは、こういう会話が展開されると思っていた。


それなのに、思いもよらない会話に動転した。まず、ナナはマリンナの魔法使いなのに、リッカルドを知らなかった。これは地味にショックだった。

話を聞くと炎魔法を使えるのに使わず、氷魔法を足止めに使っている様子。優秀な若い魔法使いが、年上の戦士に丸め込まれていると感じた。

更に、ロックに威嚇され、ナナに口出し無用と言われて、踏み込まれたくない理由があると勘ぐったらしい。




「リッカルドさん、想像力逞しいですね」


リッカルドは、面倒くさい人だけど、悪い人ではないのは分かった。

ナナは、この機会にはっきり言う事にした。


「私、魔法が好きですけど、私にとって魔法は便利な能力、それだけです。生活の中で便利に使いますし、戦闘の時は効率よく戦うためにどう使うかしか考えていません」


リッカルドとロリーナさんが、目を丸くする。


「私にとっての魔法は、生活や戦闘の効率を上げてくれる大切なものという認識です」


「私の魔力付与と魔力結界もそんな感じですっ!結界で魔物を仕分けたりしますっ」

ロリーナさん、こっち側の人だった。好き。


「それから誤解があるようなんですが、私はマリンナを拠点にしてるんで、戦闘場所が森なんです。森で炎魔法は極力使いません。森林火災が怖いんで」


「それが、炎魔法を使わない理由か?」


「そうです」


「そうか、なんだ、そうだったのか。誤解して失礼な事を言って、申し訳なかった」


リッカルドは、深く深く頭を下げた。




▽△▽△▽△▽△▽△




人気カフェ『スノウホワイト』でのロリーナさんとの楽しい女子会改め『67』と『不知火』の交流会は、意外にも楽しかった。


ロックは、”ロックからナナを引き離す”という目的の基に行動していたリッカルドを激しく警戒していたが、話し合いで誤解が解けた事で警戒を解いた。


リッカルドはともかく、ロリーナさんやニールさんの事が好きになってしまったナナは、『不知火』の武器への特殊効果付加を引き受けても良いと思いなおして、ベン親方にそれを伝えた。


ベン親方の工房で持主専用の特殊効果付加をつけているのがナナだと知ったリッカルドには、もう1度丁寧な謝罪をされたが、ナナはもう謝罪は不要だと伝えた。



1か月後、無事全員の武器に持主専用の特殊効果をつけて、『不知火』は王都に帰って行った。



この『不知火』と『67』との騒動のおかげで、少しだけ良い事があった。

ナナの魔法を、稀代の魔法使い『不知火のリッカルド』が認めたという話が、冒険者の間で広まった事だ。


今までナナを遠巻きにしていた魔法使い達が、ナナに気安く接してくれるようになった。

ナナは、このマリンナでロックと一緒に生きていくのだ。親しい人は多いほうがいい。


少しずつ認められて、ナナがマリンナの町に馴染んでいく。この町の人間になっていく。


今日もロックとナナは、ユーリとモモと一緒に討伐依頼を受けにギルドに急ぐ。

マリンナの冒険者として、この町で生きていくために。

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