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『不知火』のリッカルドは面倒臭い(1)

タマス国では魔法使いの才能がある者は少ない。少ないと言っても、だいたい人口の1/7くらいはいるので、10人知り合いが居れば1人か2人はいる計算だ。

才能のある者が全て魔法使いになる訳ではないから、1パーティに1人いればよい方で、冒険者の中で魔法使いはわりと貴重だ。


そのせいか、魔法使いには少し自分を特別だと思っているプライドの高い者が多い。

どんなプライドかと言うと『魔法使いたるもの、他の戦闘職では出せないほどの高火力(高威力)で魔物を倒す存在であれ』というプライドだ。


ナナは、高火力(高威力)の魔法を使わない。

マリンナを拠点に冒険者を続けている限り、全く必要性を感じない。理由は、単純に燃費が悪いからだ。


例えば雷ショックで7匹の魔物を昏睡させるために使う魔力を1とすると、魔物を一撃で倒すような高火力の雷魔法は5くらい魔力を使う。そして倒せるのは雨の日でもない限り1匹だ。


氷魔法なんてもっと酷い。足止めに使う魔力が1だとすると、そこそこの魔物を一撃で倒すくらいの高火力の氷魔法は魔力を7くらい使う。氷の大きさに比例して使用する魔力が増えるのだから仕方ない。そしてやはり倒せるのは1匹だ。


全くもって効率が悪すぎる。


ナナは、パーティで戦闘する時に必要なのは、パーティメンバーとの連携だと思っている。いかに全員で効率よく立ち回るかが全てだ。

高火力魔法と近接戦闘職は相性が悪い。魔物と近接して戦っている人のいる所で高火力魔法を使うのは危険だし、近接戦闘職が倒した瞬間に死んでいる魔物に魔法をぶち込んで無駄撃ちになる可能性もある。


だからナナは『魔法使いたるもの、他の戦闘職では出せないほどの高火力(高威力)で魔物を倒す存在であれ』みたいな魔法の使い方を、理解できないと思っていた。



もしかしたら、そういう考え方が、ナナから滲み出ていたのかもしれない。



ナナは、人でいっぱいのギルドで突然「君にプライドは無いのか!」と、鋭い声で指摘された。


「えっと、どちら様?」


「私を知らないのか!不知火のリッカルドだ」


「すみません、存じ上げません」


「マリンナの魔法使いで私を知らないなど、ありえないだろう!」


「魔法使いの知り合いが少ないので」


「王都でも私ほどの炎魔法の使い手はいない。マリンナの魔法使いは皆私のような魔法使いを目指す」


「炎魔法、戦闘にあんまり使わないので何とも・・・」

炎魔法を森で使うのは論外だ。下手すると森林火災になってしまう。


「待て、君は炎魔法を使えるのか?」


「使えますよ」


「氷魔法で足止めをすると聞いたのだが人違いか?」


「氷魔法で足止めしますよ」


「君はいくつだ」


「無礼ですね、女に年を聞きますか?16才です」


「じゅっ・・・」


「うちの妻に何か?」

ロック、顔が怖い。人間相手でも『威嚇』って発動するんだ。


「・・・君がロックか。なぜ王都に出ない。広い世界を見せないから、君の妻は魔法使いのプライドが育たないのだ」


「余計なお世話だ。帰るぞ、ナナ」


「なっ!話している途中だぞ!」


「リッカ・・・ルドさん?でしたっけ?我が家がどこで暮らそうと、無関係なあなたの口出しは無用です。失礼します」


「何だと?!待て!」


ロックはリッカルドを一瞥すると、ナナの肩を抱いてギルドから出て行った。




▽△▽△▽△▽△▽△




ロックは、ナナの肩を抱いたまま歩く。時々、ナナの頭に頬をすりすりする。


「ナナ、あんなのは無視だ。相手にするな」


「だって、公衆の面前で、君にプライドは無いのか!だよ。思わず言い返しちゃったよ」


「話がかみ合わないほど価値感の違う人間には、何を言っても無駄だ」


「全く交流する予定のない赤の他人の人生に口出す人って、何なんだろうね」


「嫌な予感がするな。ナナ、しばらく単独行動はダメだ」


「わかった。ロックがそういうなら1人で行動しない」


「ベン親方の工房にも一緒に行くから、予定を教えてくれ。討伐よりそっちを優先する」


「あんまり討伐減らしちゃうとユーリが困るでしょ?」


「ユーリには、稽古を多めにつけて、討伐に行くはずだった分の日給を渡す」


「そこまで?」ナナは、ギョッとする。


「とにかく、あれはダメだ」

ロックがこんな事言うのは珍しい。よくわからないけど、ロックがそう言うならナナは寄り添うだけだ。


「わかった。近付かないように気を付けるね」


「そうしてくれ。近くにいるから、何かあったら俺に言え」


「うん、そうする」


ロックは、ナナのこめかみにキスをすると、肩をギュッと抱いた。

ナナは、ロックの背中に手をまわした。




▽△▽△▽△▽△▽△




翌日の朝、皆で朝食を食べていたら、コンコンと玄関ドアがノックされた。


「ナナ、俺が出る」


ロックがドアを開けると、昨日のリッカルドが立っていた。

ロックは黙ってドアを閉めて鍵をかける。


「すまない、今日の討伐は休みだ。ユーリ、こっちの都合だから給料は出す」


「わかった、給料はいいよ。稽古つけてくれるんでしょ?」


「いや、今後もこういう事があるだろうから給料は出す。稽古もつける」


「うん、わかった。ありがとう」


ドンドンドンと大きな音で玄関ドアがノックされる。


ロックは無視して朝食を食べる。


ドンドンドンドンと部屋にノックの音が響きわたる。


ロックの剣吞な雰囲気と大きなノックの音に、コウとジルは不安そうだ。


「ロック、誰か来てるよ」モモちゃん、空気読んで!


「分かってる。分かってて出ないんだ。ナナを狙う嫌な奴だ」


「わかった」モモちゃん、瞬時に納得した。


ドンドンドンドンドンドンと部屋にノックの音が響きわたる。


「帰れ。これ以上居座ったらギルドに付きまといで警告出してもらうぞ」


「お前、何様のつもりだ!ギルドはお前の為になんて動かんぞ!」


「お前が付きまとうなら、今後、遠征や一斉討伐は全て断るとギルドに伝えろ。それからドアに不具合が出たらギルドを通してお前に修理代を請求する」


「ふざけるな!俺を誰だと思ってるんだ!そんなのが脅しになると思ってるのか!」


「脅してるのはどっちだ。妻はお前の異常な行動に身の危険を感じている。話があるならギルドを通して連絡して来い」


「くそっ!ギルドに話を付けてくる。帰るぞ!」

仲間を連れて来ていたようだ。


「何あれ、気持ち悪っ。ギルドを通して来たら、話すの?」


「いや、断る。ギルド経由で連絡してくる事は許可したが、応じるとは言ってない」


「よかった。面倒臭そうな人だもんね。関わりたくないよ」


「ユーリ、ジル、コウ、モモ、皆でナナを守るぞ!」


「「「おー!」」」「まかせて!」


「ジル、コウ、ご近所の爺さん婆さんに、ナナを狙って赤髪の魔法使いが付きまとってると伝えてこい。おしゃべりなモース爺さんとキャロルさんがいい」


「「わかった!」」


「ユーリ、ベン彫金工房のベン親方に手紙を書くから届けてくれ。ギルドにも書くか。ギルド宛は、ギルド長に開封するように伝えて受付に預けてくれ。リリアさんがいたら、リリアさんに預けろ」


「わかった」


ロックは、手紙を2通書いて封をする。


「これを頼む」


「行ってくる!」


「モモは、ナナのそばを離れるな」


「はーい、まかせて」


「ふぅ、ナナに言われて、信頼を損なわないように一斉討伐を受けておいてよかった」


「そっか、よかったね。ロック、お茶淹れようか?」


「ナナ、蜂蜜入れてくれ」


「はーい」




▽△▽△▽△▽△▽△




手紙を届けたユーリが、ベン親方から手紙を預かってきた。



『了解した。不知火の依頼は受けない。契約工房の職人が不知火のリッカルドに付きまとわれて困っていると伝え、ギルドに警告するよう要請した ベン彫金工房主』



「王都で活動している不知火がマリンナに戻って来たのは、おそらくベン親方に武器への持ち主専用の特殊効果付加を依頼するためだ。あれだけは、マリンナでしか出来ない」


「そっか、理由がないとマリンナに来ないもんね」


「ベン親方に断られる事態になれば、パーティメンバーもさすがにリッカルドを止めるだろ」


「私が持ち主専用の付加を付けてるって知ったら、どんな顔するかね」ナナは、ニヤリと笑う。


「ギルドも、いくら有名でも今はマリンナに貢献していない『不知火』を、マリンナに残って貢献している『67』より大事にするメリットが無い。ベン親方の苦情を理由に釘を刺すだろうな」


「そもそも、リッカルドは、何で家に来るほど『67』に物申したいんだろうね?」


「さあな。頭がイカレてる奴の考える事なんてわからん」

ロック、物凄い毒舌になってる。これは、相当ストレス溜まってるな。


「ロック、私のために、ありがとう」

ナナは、ロックの頬を撫でる。


ロックは、やさしく笑うと、ナナを抱きしめて頭に頬ずりした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「そもそも、リッカルドは、何で家に来るほど『67』に物申したいんだろうね?」「さあな。頭がイカレてる奴の考える事なんてわからん」 そのとおり、きちがいの考えていることなど理解不能。
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