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きっと教訓と希望になる(2)

翌日の夕方、ユーリとナナは、マリーちゃんに会いにイレーヌ工房の近くに来ていた。


「ねえ、なんでみんな付いてくるのさ」


「俺だってマリーの友達だもん」


「俺はナナのそばにいるだけだ」


「僕は、みんなが行くみたいだから」


「モモは、マリーちゃん見たいから(小声)」


「こんな人数で行ったら、マリーが驚くだろ!」


「わかった、俺達は離れて見てるから、ナナちゃんよろしくな!」


「みんな心配性だねー。ユーリ、行こうか」


「わかった」

ユーリは、顔に緊張を滲ませている。


「そんなに固くならないで、友達なんでしょ?」


「うん」


「じゃあ、大丈夫だよ」



ナナは、イレーヌ工房のドアを開けて、近くの人に声をかける。

「私、『67』のナナです。この工房に、マリーさんはいらっしゃいますか?ユーリが会いに来たと伝えて下さい」


「マリー?ああ、マリーねぇ。何の用?」


「昔馴染みなんです。久しぶりに会いたくて」


「プッ、あの子、ゴミ捨て場にいると思うわ。工房の裏手。臭うから鼻つまんで行ったほうがいいわよ」


この人、昔の会社の先輩にそっくりだ。何かすごく嫌な感じがする。ナナは、自分の勘が外れている事を祈る。


「あなたは?」


「あたしはロゼットだけど、なに?」


「ロゼットさんに聞いて来たって言おうと思って。ありがとう行ってみます」



工房の裏手に回ると、薄暗い裏通りに出た。饐えた臭いが漂う。


「マリーさん、いますか?『67』のナナです」


ナナとユーリは、辺りを見回すが人気ひとけが無い。返事も返ってこない。

薄暗い中、ゴミ捨て場の近くに行くと、人らしきものが見えた。


「マリー、俺だ、ユーリ・・・マリー?」


マリーは、薄汚れた服を着て、ゴミ捨て場の横にうつろな目で座っていた。


「マリーさん?大丈夫?マリーさん?・・・ちょっとユーリ、ロック呼んできて!早く!」


ユーリが走ってロックを呼びに行く。


「マリーさん、ちょっとだけ待っててね」


ナナは、マリーの手を握る。マリーは、ナナの手を軽く握り返してきた。


「ナナ!」


「ロック、マリーさん、様子がおかしいの」


「わかった連れて帰ろう。ちょっと工房に確認するからそのまま待っててくれ。ユーリ、そばに居てやれ」


「ジル、コウ、そこの薬屋に行って、これから病人を連れてくるから見てやってくれと伝えてくれ。支払いはロックがすると言え」


「「わかった!」」


ロックとジルとコウが駆けていく。


「・・・ユーリ・・・」


「マリー!」「マリーさん!」


ロックが走って戻ってきた。


「ナナ、連れて行くぞ。ユーリ、抱き上げられるか?」


「マリー、抱き上げるよ」


ユーリがマリーを抱き上げた。小走りで薬屋に急ぐ。


「マリー、いったい何があったんだ・・・」


ユーリは、マリーを抱く手に力を込める。

マリーは、うつろな目で、ただ涙を流していた。




▽△▽△▽△▽△▽△




薬屋のおじさんに回復薬を処方してもらって水を飲むと、マリーは話せるようになった。


「栄養失調だね。いつから食べてないんだい?」


「・・・今月に入ってから、ほとんど・・・」


今月は、もう半分過ぎている。あの工房の主は、12才の食べ盛りの子に食事を与えていなかった。


「もう、連れて帰っても大丈夫ですか?」


「ああ、回復薬をもう少し処方しておくよ。ただ、栄養は食事で摂った方がいいな。スープを少しずつだ」


「わかった。ユーリ、連れて帰るぞ」


ユーリは、マリーを抱き上げて「マリー、帰ろう」とやさしく言った。




▽△▽△▽△▽△▽△




ナナがマリーをお風呂に入れて、ロックの部屋だった空き部屋のベッドに寝かせる。

マリーと2人きりにしてもらい、ナナが事情を聞く事になった。


「マリーちゃんって呼んでいい?」


「はい」


「何があったか教えてくれる?」


ナナは、マリーの頭を撫でながら、ゆっくりとした口調を心がけて話す。


「・・・先月で、役所からの補助金が切れたんです」


どこかで聞いた話だ。


「マリーちゃんは、イレーヌさんの弟子だったのでしょう?」


「あ、あたし役立たずで・・・12になった頃、工房の、優遇措置も終わって・・・」


マリーは、ぽろぽろと涙を流す。


「優遇措置って、孤児雇用の?」


「はい・・・あたしを弟子にしたら、なんか、優先的に孤児院にリネンや衣類を卸せるって・・・」


「そういう優遇があるんだね。私、知らなかった」


「あたし、だから、弟子として入ったはず、だったんだけど、ヒック、行ってみたら下働きでっ・・・」


マリーの目からどんどん涙が流れてくる。


「住み込みだったんだよね?」


「はいっ・・・」


「食事はちゃんと食べられてた?」


「・・・毎日、パンとスープを、もらってました」


「そんな食事じゃお腹すいたでしょう?衣類とかはどうしてたの?」


「月に、銀貨1枚、もらえるので、それで・・・」


バッソと同じやり口だ。


「いつから?10才で弟子入りしてからずっと?」


「はい」


「あたしが、役立たずだから・・・あたしを追い出して、次の孤児を、連れてくるって・・・」


「それは、イレーヌさんに言われたの?」


「はい。師匠は、あたしが、役立たずなのは、見ただけでわかるって・・・弟子に、しておく価値ないって・・・」


「弟子として何も教えてないのに、わかるわけないよ。騙されちゃダメだよ」


「でも、あたし、グズだし・・・」


「マリーちゃん、そんな風に自分で言ったらだめだよ。マリーちゃんはグズじゃないし、役立たずでもないよ」


「でも、あたし・・・」


「マリーちゃん、ダメな大人ってね、すぐに子供を利用しようとするんだよ。ダメな大人に騙されないで。マリーちゃんは、そんなツライ状況でも頑張れる良い子だよ」


ナナは、猛烈に腹が立つ。どいつもこいつも孤児を食い物にして!ノットさんは、この現状を知っているのだろうか。


「ナナさん・・・」

マリーちゃんが、ナナの怖い顔に動揺してる。ダメだ、平常心、平常心。


「ユーリが、マリーちゃんに会いたいって言ってくれて良かった。おかげで、マリーちゃんを助ける事ができた」


「・・・ユーリが、会いたいって・・・」

マリーちゃんの頬が染まる。ちょっとユーリ!脈ありだよ!


「ユーリを、呼んでもいい?多分ドアの外で、心配でオロオロしてると思うの」


「はい、ユーリに会いたい・・・」


「ユーリ、入って」


「マリー!」


ユーリは、呼んだ瞬間ドアを開けて入ってきた。




▽△▽△▽△▽△▽△




マリーちゃんをユーリに任せて、ナナはロックに事情を話す。ロックの顔が険しい。


「明日、ノットさんに相談に行こう。現状を話しておいた方がいい」


「役所は、この状態を把握してると思う?」


「おそらく、してない。弟子の修行が厳しくて、12になって本格的な修行が始まったら逃げ出すなんて、よくある話だ」


「冒険者の荷運びも?」


「俺だって12から冒険者だ。12でもう1人立ちできたと見なして送り出すなんて、これもよくある話だ」


「それじゃ、雇い入れた側はいくらでもいい訳できちゃうね・・・」


「孤児院から工房に入って、ずっと修行していっぱしの職人になってる奴も大勢いる。冒険者だってそうだ。逆に、修行が嫌で出て行っちまう孤児院出の子供もいる」


「一見違いが分からないから、引き取る側の悪意があったか無かったかは、役所側では判断が難しいってこと?」


「そういう事だ」


「でも、あの工房は、マリーちゃんを裏路地に放り出したんだよ。薬屋のおじさんも、栄養失調だって診断してる」


「そうだ、だからマリーの件は、ノットさんに悪意があると証明できる」


「イレーヌの奴、マリーちゃんを追い出して、次の孤児を連れてくるって言ってたみたい」


「ナナ、早くしないと別の孤児が毒牙にかかる。とにかく明日ノットさんに会いに行こう」


「ロック、私、ベン親方に、服飾工房でお針子の修行をさせてくれる所がないか聞きに行きたい」


「わかった、親方の所にも行こう。だから、ナナ、泣くな」


ナナの目から、いつの間にか涙がこぼれていた。


大人が子供の心を屈服させて利用する。自尊心を削ぎ、何も与えず窮地に追い込み、利用するだけ利用して捨てる。

利用した大人とやっと縁が切れても、まだ年端もいかない子供が、人の世話になる自分を厄介者だと恥じる。


「ロック、ロック、私悔しい。許せない」


「そうだな」


ロックがナナを抱きしめて、優しく背中を撫でる。


「あんな、ユーリやマリーちゃんに、あんな事。いい大人が、子供に、あんな事っ」


「そうだな。明日ノットさんに話に行こう。ベン親方にも相談しよう」


ロックは、ナナが眠るまで、ずっと背中を撫で続けたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 孤児院から補助金目当てで雇い入れ、その子供たちが死んでいったら当然目に付くと思うが、補助金制度と言う立派な制度があるにもかかわらず、ずさんだね。
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