バッソの呪縛とユーリの遠征(3)
カタッラクテース領リアナトリ遠征2日目。
小雨が降っていたので、コウとジルはコテージでお留守番だ。2人には、ロックからトレーニングメニューを渡される。
ロックとナナとモモとユーリで、森の入り口にあるギルドの受付に向かう。
ロックが受付で手続きをする間、ナナはモモを抱いて、ユーリに話しかける。
「ユーリ、寒くない?今日は天気も悪いし、そこそこがんばってさっさと帰ろうね。他のパーティも少ないし」
「大丈夫、寒くないよ。俺、早く帰れるように、回収がんばるよ」
「じゃあ、私も早く帰れるように、バリバリ雷ショックがんばるね!」
ナナは、話しながら周囲を眺める。バッソのパーティは今日は2組の別のパーティと一緒にいた。バッソはユーリに気付いて睨みつけている。
昨日もだけど、何でバッソはユーリを睨むんだろう。昨日、バッソの言う”横取り”をしたロックやナナを睨むならわかるけれど、ユーリを睨む理由がわからない。
「ナナ、ユーリ、モモ、行くぞ。天気が悪いから片付けて早く帰ろう」
「はーい」「はい!」
ロックは、昨日入った辺りから森に入る。昨日ロック達の討伐でマウンテンマンドリルの群れが全滅したあたりは、新たな群れのテリトリーになっているはずだ。
「あっちの方から、大きな群れの気配がする」
モモが立ち止まる。小雨なのに、モモちゃんセンサーは今日も絶好調だ。
「いた、あそこ」モモが前足で前方を指す。
「いたな。ユーリ、下がって待ってろ。ナナ、行くぞ」
「はい!」「はーい」
ナナは、ロックの剣に炎を付与すると、雷ショックを放った。目標の7匹と近くにいた数匹から煙が上がる。まるで花火のように八方に稲妻が散って感電する様に、一瞬ナナの手が止まる。小雨で威力倍増だ。ちょっと怖い。
次々とナナに襲い掛かる群れのマウンテンマンドリルを、ロックが薙ぎ払う。
ナナは、ハッとして、次々に雷ショックを放つ。綺麗な稲妻を広げながら一瞬で10匹以上のマウンテンマンドリルが転がっていく。
マウンテンマンドリルは、得体のしれない攻撃に阿鼻叫喚だ。群れから逃げ出そうとした数匹も、ナナは漏らさず雷ショックで倒す。
小雨の中の激しい討伐は短時間で終わり、あっという間に静寂が戻ってきた。
ロックは「凄かったな」と呟いて、淡々とトドメを刺して回る。ユーリが「うん、凄かった」とロックの呟きを拾い、黙々と討伐証明の右耳を回収する。
ナナは、モモの横でしゃがみ「いやー、ビックリした。水の電気伝導率舐めてたわ」とモモに語っていた。
魔物を殺せないと悩んでいたナナは、もう影も形もない。
「回収おわった。85匹」
「少ないと思ったけど結構いたね!さあ、帰ろう!」
「効率よく倒せるのに、帰っちゃうの?」
ユーリが不思議そうに問う。
「結構濡れてきたし、風邪ひいちゃうよ。帰ろう」
「今日の稼ぎはこれで充分だ。コウとジルも待ってるから帰ろう」
「わかった」
ユーリがふんわり笑った。笑うとかわいいな。
ユーリはナナより背が高くて、日本の同年代の子供よりずっと大人びている。でも、柔らかく笑うと幼さが戻ってくるようだった。
色々と刺激の強かった小雨の中での討伐を終えて、森の入り口にあるギルドの受付に討伐証拠を提出する。
ユーリの腰から外した麻袋に入った証拠の右耳は85個。今回もボスの耳が入っていたので、端数とともに昨日の袋にしまって80個だけ提出した。報酬は金貨5枚だった。
いちいち取り分けるのが面倒なので、ギルドの受付職員に端数も買い取りして欲しいと要望する。「持ち帰って検討します」との事だったので、お礼を言って受付を離れた。
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コテージに帰ると、コウとジルが腕立て伏せをしていた。
ユーリがナチュラルにそれに混ざろうとしたので、ナナが「ユーリ、風邪ひくから!体を流して着替えてからだよ!」と慌てて止める。
ナナが盥にお湯を3人分作る。最初にナナが、次にロックとユーリが風呂場で体を流して、自分の部屋で服を着替えた。
ナナが着替え終わって、お茶かホットミルクでも淹れようとリビングに戻ってきたら、男子達は全員で腕立て伏せをしていた。
さっきお湯で体を流したのに、ロックとユーリはもう汗がにじんでいる。
ユーリが、一番最初に床にぺしょっと潰れた。
潰れたのに楽しそうに声を上げて笑うユーリを見て、ユーリは大丈夫かもしれないとナナは思った。
ナナの”自分を恥入る気持ち”が消えたように、いつかユーリの心からも消えるかもしれないと、ナナは男子の友情パワーに期待するのだった。
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マウンテンマンドリルの12個の群れが2つまで減ったので、4日目で討伐終了になった。『67』は全部で5つの群れを潰して392匹のマウンテンマンドリルを討伐した。
そのうち5個がボスの耳だったので、その分はボーナスとして上乗せになった。
結局、ギルドに端数も買い取ってもらえる事になり、この遠征での『67』の報酬は、金貨24枚、銀貨2枚、銅貨8枚だった。前回よりは少ないけれど、かなりの額だ。
討伐期間10日の予定が、半分以下になってしまったのは、実は『67』(ナナ)のせいだった。
『67』(ナナ)が森で大暴れしたせいで、追い払うので精いっぱいだった門前広場に群れが毎日のようにやってきた。
そのため、森の討伐に参加する予定だったパーティが数組、門前広場での討伐に切り替えて、数パーティ共闘で対処したらしい。
おかげで、3日目からは1日で、門前広場で数パーティが1群れ、森の中で『67』が1群れ、バッソ含むパーティ3組混合討伐チームが1群れ討伐したので、4日目で予定より1群れ多い10群れを討伐して、目出度く一斉討伐終了となった。
早期討伐終了と1群れを複数パーティで対処した事で、思ったよりも稼げなかった一部のパーティの不満は残ったものの、今回の討伐は人的被害がかなり少なかった事で、ギルドとしては大成功だった。
マウンテンマンドリル討伐は、群れ1つ潰せば報酬が高額なので、以前は数パーティで組んで確実に討伐する道を選ばず、単独パーティで挑む者が多かった。
だが、人と同様かそれ以上の体格を持つマウンテンマンドリル60~80匹に、4~5人の単独パーティで挑む討伐は危険が多く、命を落とす者も少なくなかった。
今回、『67』が半数を討伐した事と、門前広場の討伐で他パーティと共闘せざるを得なかった事で、残りのパーティは自然と複数パーティで挑む流れになった。
『67』に狩られて群れの数がどんどん減るのを見て、『67』に狩られる前に共闘して狩る道を選んだからだ。
おかげで、この討伐で命を落とす者はひとりもいなかったのだ。
そんなお手柄があったとは夢にも思わないナナは、10日間で稼ぐはずだった金額を4日で稼ぎご満悦だった。
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「ロック、せっかくだから滞在を延ばして、リアナトリの町をゆっくり見てから帰ろうよ!」
コウが、ロックにめずらしくおねだりだ。絶対に叶えたいとナナは強く拳を握る。
「俺も行きたい!明日は町をあげて討伐終了を祝うんだって!露店がたくさん出るらしいよ!」
ジルも目がキラッキラしてる。露店見るの楽しいよね。
「ロック、私も行きたいなー。リアナトリの露店、どんな感じかなー」
ナナは、モジモジしているユーリに、ニヤリと笑う。
「お、俺も、行きたいな!」
そうそう、ユーリ、希望はどんどん口にしていこう。
「わーかった、わかったよ。コテージは10泊できる予定だったから、明後日まで滞在を延ばそう。明日は町で羽を伸ばすぞ!」
「「「「やったー!」」」」皆でハイタッチだ。
「モモの好きなワイルドホワイトターキーの串焼きあるかな」
「あるといいな。ほら、明日町で遊ぶなら、今日はさっさと風呂入って寝るぞ」
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ロックとナナは、ユーリとジルとコウに、銅貨を3枚ずつ渡す。露店は口座カードが使えないので、お小遣いがないと何も買えない。
「「やったー!ありがとう!」」
「こんなにもらえないよ!」
「ユーリ、初めての遠征だろ?ここでしか食べられない食べ物や、記念に買いたいものがあるかもしれないぞ」
「俺、荷運びの給料ももらうのに・・・」
「給料は報酬だ。これは小遣いだ。給料は、独立のためにできるだけ貯めろ。独立までの生活費や小遣いは俺が持つから気にするな」
「でも・・・」
「ユーリ、自分の働きに自信を持て。お前は立派に役に立ってる。お前のおかげで連続で魔法を使ってるナナを休ませる事ができた。ありがとう」
「お、俺こそっ、ありがとうございます!」
「子供はお小遣いをもらったら、やったー、ありがとう。これでいいんだよ!『67』のルール」
「や、やったー、ありがとう!」
「よし!買い食いに行こうぜ!」
「ジル、ユーリ、お揃いでなんか買おうよ!」
「コウ、お揃い好きだよな」
「ジルだって好きでしょう?」
「ユーリ、ワイルドホワイトターキーの串焼きはおいしいよ。大きいドーナツもおすすめ」
「モモ、そんなに食えんのかよ」
「みんなで分けたらいいでしょ?色々たべなきゃね」
ユーリの顔がほころぶ。笑顔が少しだけユーリを幼くする。
ユーリは、10才から無くしてしまった子供の気持ちを取り戻すように、ジルとコウと手を繋いで町へと歩き始めた。




