バッソの呪縛とユーリの遠征(2)
早朝、『67』一行は、リアナトリの西側に近接するローベル森林の入り口に向かう。
森の入り口付近にあるギルドの受付には、数人のパーティリーダーが並んでいた。近くに数組のパーティが待機している。
パーティリーダーの列にバッソがいた。バッソは、ユーリに気付いてこっちを気にしている。
待機している間、ナナがユーリに麻袋を4枚渡して説明する。
「これに20個ずつ入れてね。数える暇なかったら、大体でいいよ。一応多めに袋を渡すからね」
「わかった。いっぱいになった袋は紐を引いて腰にぶら下げてもいい?」
「うん、いいよ」
「ユーリじゃねぇか。何でこんなとこにいるんだ。何にもできねぇくせに、ロックにお情けで雇ってもらったのか?」
バッソだ。ユーリを放り出したくせに、わざわざ絡んでくる意味がわからない。
ユーリは、恥ずかしそうに俯いた。それを見てバッソがニヤニヤしている。
バッソにこんな事を言われても俯くしかないユーリ。縁が切れているようで、ユーリはまだバッソから自由になれていない。
「ユーリ、これ水筒だよ。疲れると思うから飴も渡しておくね。食べる時は、魔物の血が付いた手で食べないでね。水筒の水で洗ってこの布で手を拭くんだよ。水筒の水が無くなったら言ってね」
「わかった。ありがとう」
「ユーリ、無視かよ。いーいご身分だな」
「バッソ、うちの妻とパーティメンバーに何か用か?」
「い、いや、別に。ユーリ、調子に乗んなよ」
捨て台詞の小物感!ナナは、塩を撒きたい気持ちになった。
「ユーリ、相手にするな。俺達も行くぞ、あいつらと逆に進もう。みんな俺とナナから離れるなよ」
森の中を小一時間進むと、マウンテンマンドリルの群れに遭遇した。気付かれないうちに、モモはコウとジルを連れて離れる。
ナナは、ロックの剣に炎を付与する。
「ユーリ、少し後ろで控えててね。ロックいい?」
「いいぞ、思いっきりやれ」
ナナは、マウンテンマンドリル7匹に雷ショックを放った。倒れたマウンテンマンドリルの体から煙が上がる。
急襲されたマウンテンマンドリルは警戒しながら、次々ナナに襲い掛かってくる。ロックがナナを守りながら、それを薙ぎ払う。
ナナは、7匹ずつ確実に雷ショックを与えていく。倒れたマウンテンマンドリルから焦げた匂いが漂う。
ユーリは、荒ぶるナナと冷静に薙ぎ払うロックを呆然と眺める。
ナナが8回ほど夢中で雷ショックを放って辺りを見回すと、全てのマウンテンマンドリルが倒れていた。
「ユーリ、ボーっとするな。トドメを刺すぞ」
ロックが、雷ショックで倒れているマウンテンマンドリルにトドメを刺して回る。
その後ろを、慌ててユーリが付いてまわり、証拠の右耳を集める。
ナナは、モモ達がいる場所で一緒に待機する。座って休むと魔法疲れが和らぐ。
ロックとユーリで30分くらいかかって72匹分の証拠の右耳を回収したので、これで受付に戻ろうという事になった。
来た道を警戒しながら戻る。
「ロック、あっちから声が聞こえる」とモモが立ち止まった。
「危険そうか?」
「人間が囲まれてるみたい。放っておくと死ぬかも」
ナナ達は、モモの案内で助けに向かう事にした。
4人組のパーティが、マウンテンマンドリル50匹ほどに囲まれている。バッソのパーティだった。
「助けはいるか?」とロックが声をかける。獲物の横取りで揉めないための冒険者のルールだ。
「見りゃ分かんだろ!助けてくれ!」
「なら、俺達がやるから、戦闘開始したら離れてくれ。近くにいられると剣が当たる」
「何だと!横取りする気か!」
「おい!バッソ!そんな事言ってる場合か!ロック、すぐ離れる!」
「助かった!死ぬかと思ったぜ」
「ロック、恩にきる!」
「お前達が倒したのはこの11匹だな。離れたら数えとけ。ナナ、行くぞ」
「はーい」
ナナがロックの剣に炎付与して雷ショックを放つ。マウンテンマンドリル8匹が煙を出して倒れた。
マウンテンマンドリルの視線が、バッソ達からナナに移る。
ナナに襲い掛かるマウンテンマンドリル4匹をロックが薙ぎ払う。
ナナが5回雷ショックを放った所で、全てのマウンテンマンドリルが片付いた。
「ユーリ、トドメを刺した順に耳の回収頼む。おい、この11匹はそっちで回収してくれ」
「お、おう」
「ロック、助かった。ありがとう。恩にきる」
「いいさ、困った時はお互い様だ」
「おい、それ全部回収する気か?おい!ユーリ、回収するな」
「バッソ、どういう意味だ?討伐したパーティが回収するのは当然だろ。ユーリ、気にするな回収するぞ」
「おい、バッソ!やめろよ!ごめんな、ロック、ユーリ」
「俺達は、半分くらい倒してくれれば良かったんだ。引かずに残ってれば俺達ももっと倒せてた」
「そういう考えなら、単独パーティで来るな。どっかのパーティと共闘しろ。『67』はこの戦い方だから単独で動いてるんだ。他所のパーティの安全なんて確保できないからな」
「悪かったな、ロック。バッソ、いい加減にしろ!子供みたいな事言うな!」
「お前ら悔しくないのか!俺らの獲物だぞ!」
「命あっての物種だろ!助けてもらったんだぞ!いい加減にしろ」
「・・・ロック、回収おわったよ。51匹」
ユーリは、俯いたままロックに報告する。
「ユーリ、よくやった。よし、帰るぞ。じゃあな、そっちも気を付けて帰れよ。あー、帰り道がわからん、モモ、受付まで先導してくれ」
『67』一行は、モモの先導で歩き出した。ナナは、バッソを一瞥してユーリの背中を優しくさする。
「ああ、ありがとうな、ロック。俺達も帰るぞ、バッソ」
「ユーリ!この裏切り者が!」
裏切ったのはバッソなのに、なぜユーリが俯かなきゃならないのか。
「やめろよバッソ!ほら、行くぞ」
「バッソ、さっさと帰って明日共闘するパーティ探すぞ」
バッソは、歩きながらずっとユーリを睨みつけていた。
ユーリは、ずっと俯いて歩いている。ロックがスッと下がり、ユーリに自分の前を歩かせて、バッソの視線を遮る。
ギルドの受付に戻って、ユーリが証拠の入った袋を並べる。
証拠の右耳の数は123個。ボーナス込みで金貨7枚。明らかに大きいボスの耳が2個入っていたので、端数の1個とともに明日以降に持ち越しする事にした。
ロック達は、ギルドに報告が済んだら、早々にコテージへ引き上げた。
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コテージに戻って各自手を洗ったら、リビングに集まって遅めのお昼ご飯を食べる。
今日のお昼ご飯は作り置きのホットドッグだ。柔らかめのバケットに、太くて大きい腸詰が挟んである。モモのご飯は小皿に盛ったお肉のミンチだ。
7才から19才まで全員育ち盛りなので、飲み物はホットミルク。もちろんモモも。
「ユーリ、遠征の討伐は数が多くて回収が大変だろう?手際が良かったから助かった」
「本当に、すっごい手際が良かったよね!手早く集めながら数も把握してたし。おかげで私、休めたから魔力回復早くて楽だった~」
「ずっとやってたから慣れてただけ」ユーリがほんのり赤くなりながら、人差し指でほっぺを掻く。
「ユーリ、夕飯前に稽古があるぜ!素振り用の剣、木剣でよかったら俺の貸すよ」
ジルが、ユーリに木剣を貸すと言ってる。コウとお揃いの木剣は、誰にも貸したくないって言ってたのに優しい。
「いや、木剣は買ってあるから大丈夫だ。稽古の時に渡す。コウ、ジル、しばらくユーリに合わせた稽古になる。基本をやり直すつもりで頑張れ」
「「はい!」」「ありがとうございます!」
「稽古、初めてなんだ。緊張する」
「ロックの稽古は厳しいけど楽しいぞ!」
「ロックは根気よく教えてくれるから大丈夫だよ!」
「ジル、コウ、ありがとう。頑張るよ!」
今回ギルドから割り当てられた家族用コテージは、庭が広くて稽古が捗る。ジルとコウは摸造剣で、ユーリは木剣で素振りをする。ロックはユーリに何かアドバイスしているようだ。
ナナとモモは、デッキ備え付けのベンチで、まったりと稽古を眺めてる。
ナナは、ユーリの事を考えていた。
ユーリは、自分を『厄介者』だと言った。
あの年の子供が、自分で自分の事を『厄介者』だなんて言うだろうか。普段から誰かに(バッソに)言われていたのではないだろうか。
ずっと荷運びと家事だけやらされて、お金もなく、バッソのパーティにいた時から、ユーリはきっと自分の将来が不安だったはずだ。
何の技術も身に付かないまま12才になって、役所からの補助金も無くなって、バッソにパーティから放り出されて。
ナナは、自分が『厄介者』だった過去を思い出し、胸が痛む。
あんな消えてしまいたいような思いを、たった12才の子供がしなきゃならないなんて。
バッソはユーリに「お情けで雇ってもらった」と言っていた。
ユーリは、その言葉に恥じ入っていた。生活の為と割り切って、恥入る気持ちを心の底に押し込んだって、消えるわけじゃない。きっと苦しい。
ナナは、自分がロックとモモに救われたように、ユーリに何かしたかった。
結局何も思いつかないまま、ロックと3人の稽古をただ眺める。
モモが、ナナの膝に乗ってきた。ナナは、モモの丸い背中を、ゆっくりゆっくり撫でるのだった。




