ユーリ
年が開けてギルドに条件を聞き、前回と同じ条件で遠征依頼を引き受けた。
今回は、遠征まで準備期間として3日間ある。町で買い物をしたり荷物をまとめたりしても少し余裕がある。
ナナは、ロックが書類の手続きをしている間、カウンターから離れたところで待っていた。
「オメエはもういらねえよ」
「そんなっ、突然そんな事言われてもっ」
「もう補助金もねぇし、12になってんだから独り立ちしろよ。規則通り12までは面倒みたんだ。文句言われる筋合いはねぇよ」
「あ、待ってっ」
「掴むんじゃねぇよ、離せ!おまえの荷物はそれだけだろ。パーティハウスに帰ってくんなよ」
「俺、もうすぐ13だから孤児院には帰れないんですっ!待ってっ!」
剣士らしきその男は、縋り付こうとするその子を、振り返りもせず置き去りにした。
その子は、呆然と座り込む。淡い色の金髪をくしゃりと掴み俯いた。
「おい、邪魔だ。あっちで座れ」
別の冒険者が、その子を隅に追いやる。
ギルドの職員も憐みの視線を送るけど、誰も動かない。もしかしたら、よくある事なのかもしれない。
ナナは、その子に歩み寄って隣に座った。
「君、どうしたの?」
「・・・パーティの荷運びから外されて・・・」
深い紫色の瞳が揺れる。呆然としているからか、ナナを見ているようで焦点が合っていない。
「君、孤児院にいた子?ジルを知ってる?」
「・・・知ってる。お姉さんはナナさん?」
その子は、やっとナナを見た。
「そうだよ。ナナ。君は?」
「ユーリ」
「ユーリ、孤児院には戻れないの?」
「孤児院は、12で出ないとダメだから・・・」
「ナナ、帰るぞ。お前も一緒に来い。家で話を聞く」
周囲を見たら、ギルドにいる人達がこちらの様子を伺っていた。心なしかホッとしているようだ。みんな、きっと心配だったんだ。
「ユーリ、おいで」
家までの道、ユーリはずっと俯いて歩いていた。
「・・・すみません、迷惑かけて」
「迷惑なら声かけないよ」
「・・・俺、金もなくて」
「子供はみんなお金なんて持ってないよ」
「・・・補助金も先月で終わりだったんです」
「ついたぞ、ユーリ、顔を上げろ。ジルが家にいるんだ。そんな顔するな」
▽△▽△▽△▽△▽△
家のドアを開けたら、モモが出てきた。
ナナの足にスルリと体を寄せたあと、ラグで丸まった。
「ただいまー」「ただいま、変わりなかったか?」
「おかえり!」「おかえり!・・・あれ、ユーリ?」
ユーリは、顔を真っ赤にして俯く。
自分自身を恥じているようなユーリの姿に、ナナは胸が詰まる。
「ジル、久しぶり」
ユーリは平気そうな顔で、ジルに挨拶した。
「ユーリ、久しぶりっ!元気だった?俺、ここんちの子になったんだ!」
「知ってる。ジルがロックに引き取られたのは、冒険者の中じゃ有名な話だよ」
「ユーリは、バッソのパーティで荷運びやってんだよな!王都に行くんだろ?スッゲーな!」
「バッソのパーティは、抜けたんだ」
「えっ、どういう事?」
「とりあえず座ろう。コウ、コウの部屋に置いてある椅子を持ってきてくれ」
「うん、僕が持ってきた椅子に座るから、みんな座ってて!ナナちゃん、お茶淹れるなら、僕はホットミルク!」
「はーい。みんな何がいい?」
「俺もホットミルク!」
「俺はお茶を。ああ、自分で淹れるからいい」
「ロック、私の分もお願い」
「わかった。ユーリは何がいい?」
「俺は、何でも・・・」
「何でもいいは一番困るの。はい、何がいい?」
「じゃあ、俺もホットミルクを」
「はーい」
みんなで椅子に座って、みんな黙ってお茶を飲む。
ユーリは下を向いて、ホットミルクを眺めている。
「ユーリ、少し甘くしてるから美味しいよ。飲んでみて」
一口飲んだユーリが「おいしい」とポツリと言った。
「今日ギルドに行ったらね、そのバッソ?って奴が、ユーリにパーティを抜けろって迫ってたの」
「えっ?孤児院にバッソが迎えに来て、任しとけってユーリの事を連れて行ったのに、なんで」
「先月で役所からの補助金が切れたんだ。王都に行くには金がかかる。俺が邪魔になったんだ」
「何だよそれっ!」
「バッソは名を上げて有名冒険者になるのが夢だって言ってたし、荷運びならあっちで雇える。俺を連れて行く理由がない」
「ユーリ、パーティハウスに住み込みだったよな?追い出されたって事?」
「そう。もう孤児院にも帰れない。俺は住む所さえない厄介者だ」
「ユーリ、バッソから荷運びの給料はもらってたのか」
「月に銀貨1枚」
「銀貨1枚?!1か月働いて?衣類とかは?」
「自分で買ってた。昼飯も」
「じゃあ、手元にほとんど残らないでしょう?」
「補助金をそのまま渡して、ユーリを荷運びに使ってたって訳だ。悪質だな。ただ、違法ではない」
「え?そうなの?」ナナはギョッとする。
「飯を食わせて住まわせてた。育て親のつもりで養ってたと言われればそれまでだ。普通は給料を払って荷運びとして雇うが、そういう奴もいる。よくある話なんだ」
「ユーリ、一時的に孤児院にはもどれないの?」
「俺、もうすぐ13になるんだ。バッソに雇われて出て行ったから、孤児院には戻れない」
「ロック、僕の部屋、誰も使ってないベッドがあるよ。行くところが決まるまで、うちに泊まってもらおうよ」
「ロック、俺からもお願いします!ユーリを泊めてやって」
「ユーリは、これからどうしたい?」
「どこかのパーティの荷運びをして、独立したいです」
「バッソのパーティでは、何を教わった?剣か?魔法か?」
「何も教わってないです。荷運びと家事だけ」
「なんだとー!!ただ同然で使ってたくせに稽古も怠ってたの?!ていうか、家事までやらしてたんかい!腹立つ!」
ナナがブチ切れる。
「「ナナちゃん、落ち着いて」」
ジルとコウが同時にナナを抑える。腰が引けてますよ2人とも。
「ユーリ、『67』で荷運びするか?」
「そんなっ・・・ご迷惑かけるわけには」
「どの道、どっかのパーティで荷運びして、いずれ独立するんだろ?なら『67』でいいだろ」
「ロックさん、マジックバッグ持ってますよね?荷運びいらないんじゃ・・・」
「ロックさんじゃなく、ロックでいい。独立するまで稽古もつけてやる。ギルドでステータス確認したか?」
「しました。魔法は身体強化だけです。特技は採取と採掘です」
「わかった。剣を使った事は?」
「無いです」
「素手で組み手をした事は?」
「無いです」
「よし、どっちも稽古をつけてみるか」
「やった!ユーリ、がんばろうぜ!」
「ユーリ!コウです、よろしく!」
「さしあたっての問題は遠征だな。ユーリ、今から『67』の荷運びとして登録しに行くぞ」
「はいっ、ありがとうございますっ」
「空き部屋があるから、そこに荷物を・・あ、まだ俺の荷物置いたままだな」
「とりあえず、僕達と一緒でいいよね。案内するよ」
「悪いな、早めに片付ける」
ユーリはコウと荷物を置きに行った。コウ優しいな、手を繋いで連れてってる。
「ロック、ナナちゃん、ありがとうっ」
ジルが涙目だ。ロックは、やさしい目でジルの頭を撫でる。
「ジル、きっとユーリは気にするから、いつも通りに接してあげて。あと、遠征の準備手伝ってあげて」
「わかった!」
「ユーリ、行くぞ。遠征用に揃えるものもあるから、ジルも来てくれ」
「はいっ!」
「僕も行くっ!」
「わかった、コウも行くぞ」
「行ってらっしゃーい」「いってらっしゃい」モモがシレッと挨拶する。
「・・・猫が、しゃべった・・・!」
ユーリが目をまん丸にして口を「お」の形にひらいて固まる。みんなモモがしゃべるとこの顔になる。
「他言無用だ。ほら、行くぞ」
『67』に、荷運びのユーリが加わった。




