年またぎと新しい冒険(2)
今年の『年またぎ』は6日間。タマス国の習慣に則り、家に籠って家族で過ごす。
年またぎの間、コウとジルは昨年同様ロックの稽古。そこにナナの魔法レッスンが追加された。魔法レッスンはロックも生徒で参加する。
ナナのサコッシュに料理を作り貯めておいたから、お籠りの間、本当に稽古とレッスンと家族のまったり時間に費やせる。
革の胸当ての加工を頼んでいた革工房から、ロックとジルとコウの胸当てが仕上がってきた。新品の革の匂いがする。イソイソと装着して、腕を上げたり回したりしながら、3人で具合を確かめている。
ナナとモモも、お揃いのピアスとチャームで着飾る。ナナもモモも「似合う!」とか「すごくかわいい!」と褒められてご満悦だ。
今日はみんなでラグで寝ちゃおうかな!とか、庭でピクニックみたいにご飯食べようかな!とか、ナナは、どんな風に過ごそうかとワクワクしながら考える。楽しみでしかたがない。
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ナナは現在、庭にいた。ピクニック風ランチではなく、修行で。
ロックとコウとジルに頼まれて、魔法のレッスンをする事になったからだ。
窓際でグーグー寝てるモモがうらやましい。
「コウ、まずは土魔法で矢じりの形の礫を作ってみて」
「こう?」
「お、良い感じ。すごいね一発でできたね!」
「毎日生ゴミの穴掘って埋めてるからね」コウは得意顔だ。
コウは毎日、小さな穴を掘って生ゴミを埋める訓練をしている。
最初は手の平ひと掬いの土も掘れなかったのに、今は一瞬で掘って一瞬で埋められるようになった。
「じゃあ、今作った礫を、あの的に当てて見よう」
ナナは、木に括り付けた大き目の的を指さす。
「はい!」
コウの作った礫が、へろへろと飛んでいき、コンと当たって落ちる。
「うーん。コウ、風魔法あったよね?風魔法で飛ばせない?」
「やってみる」
礫がシュッと飛んでいき、カッと音を立てて的にぶつかり落ちる。
「コウ、礫を作った瞬間にそれを風で飛ばすイメージでやってみて」
コウの手に礫ができて、その瞬間飛んでいく。でも、さっきよりも威力が無い。
「だいたい出来てるね。じゃあ、このままその練習を続けて。あの的を貫くまで頑張ろう」
「はい!」
「ジル、ジルはどうやって身体強化をかけてる?」
「身体能力が上がるように手足に魔力を巡らせる」
「ロックは?」
「俺は、自分の筋肉を増強するように魔力を巡らせてるな」
「身体強化の魔法って、肉体の機能を引き上げる魔法だよね?引き上げるのって、運動能力だけ?知覚や神経も?」
「俺は、運動能力だけだと思ってる」
「体の機能って、筋肉だけじゃないよね?体に情報を伝達する神経が筋肉を動かしてる。聴力や視覚だって体の機能だよ。目や耳で情報を得て、脳が命令を出し神経を伝って筋肉を動かす。強化するなら全部強化しないと」
「確かに」
「筋肉だけを増強しても、その筋肉を動かすための機能が普通なら、せっかく増強した筋肉のポテンシャルを出し切れないと思うの。だから、身体強化をかける時に、筋肉だけじゃなく、神経や目や耳も意識してかけてみたらどうだろう」
「ちょっとやってみる」
ロックが、身体強化アップのイヤーカフを外して、身体強化をかける。
「少し動いてみる」
パンチや蹴りなど、体を動かして確認している。ものすごく素早い動きだ。ロックかっこいい。
「体が研ぎ澄まされるような感覚だ。実戦でつかってみたいな」
ロックが、イヤーカフを着けながら満足そうに頷く。
ジルが、期待の籠ったキッラキラな目でロックを見てる。
「ジル、曖昧なイメージで手足の強化をするのではなく、体中の筋肉を意識して身体強化をかけてみろ」
「はい」
ジルは、身体強化をかける。
「体を動かしてみろ」
「体が軽い!」
ジルは、バックテンをしたりパンチや蹴りをして確認してる。確認の仕方がロックと一緒で微笑ましい。
「背筋や首も意識しろ。自分の目に見えない筋肉に行きわたるまで、その訓練だ」
「はい!」
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ロックが夕飯後のお茶の時に、ペラッと1枚紙を出してきた。
「年またぎが終わったら、新年早々カタッラクテース領のリアナトリへの遠征を打診されてるんだ」
ナナは、ロックから紙を受け取って眺める。マントヒヒみたいな猿の絵が描いてある。さらっと上から下に見ただけでロックに質問する。
「遠いの?」
「いや、隣の領だ。北東に50ケメス(km)くらいかな。早朝こちらを出てれば、夜には着く。馬車の進み具合によっては野営を1回入れてもいい」
「討伐対象は?」
「マウンテンマンドリル。大きな猿だな。増えすぎた群れで町を襲うらしい」
「大きいってどのくらい?」
「通常で160セメル(cm)くらい。ボスは180セメル(cm)を超える」
「通常でも私より大きいよ!」
「横はナナの倍以上あるな。それを1回の受領につき5匹で達成、銀貨2枚。目標10匹で銀貨5枚。20匹以上討伐かボス討伐で上乗せボーナスが出る」
「ボーナスはおいくら?」
「金貨1枚」
「えっ?!20匹以上倒せば金貨2枚は確定ってこと?!」
「そうだな」
「すごい!」「スゲー!」
「すごい!行こうよ!貯金増やそう!」
「まあ、まて、続きがある。ただ、デカいのに数が多いから、滞在がおそらく10日程になる。結構長いだろ?そこがネックだよな」
「それって、毎日20匹倒せば金貨20枚になるって事?」
「最高だな!」「すごいね!」
「ナナの仕事に障らないか?」
「ロック、私の仕事は冒険者でもあるんだよ!今ある仕事を行くまでに終わらせて、親方に言っておけば大丈夫!なはず!」
「ナナちゃん、落ち着いて、目が¥マークになってる」モモちゃん、そこは見て見ぬふりで!
「わかった。それなら、親方に確認して大丈夫そうなら行くか!」
「「「「やったー!」」」」
年またぎの間のラグでのお話は、遠征の話キマリだ。討伐についてあれこれ話すのは、勉強になるし楽しい。
ジルとコウは、モモに前回の遠征の活躍を聞いて盛り上がってる。
ロックとナナは「今回は行き帰り2食分のお昼ご飯でいいから、準備も楽でいいな」なんて話しながら、食料の在庫をチェックする。
新年早々、大きな冒険が待っている。
ナナは、家族になって初めての遠征(金貨20枚)に胸が躍るのだった。




