ロックの家へ
目が覚めると、ナナは床に寝ていた。
どうやら椅子から落ちたらしい。
ロックが見かねて、キャリーバッグの上に置いてあった春物コートを布団代わりにかけてくれていた。
持っていたペットボトルの水で口をゆすいだ後、そのまま喉を潤していると、ロックが干し肉と手のひら大の乾パンをくれた。
どちらも歯が折れそうに固い。干し肉は嚙み切れないし、乾パンは歯形すらつかない。
ナナが必死の形相で格闘していると、ロックがコップに入れたお茶のようなものをくれた。
乾パンをお茶に浸してリベンジする。
ナナは、湿ったところを歯で削り取って、なんとか乾パンを食べ進めた。
「ナナ、それを食ったら、とりあえずウチに移動しよう」
「ウチって、ロックの家?」
「うん」
「私達、昨日初めて会ったんだけど、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。放っておけない。乗りかかった舟だ」
「いいの?ご迷惑にならない?ご家族とか」
「家族はいないんだ」
ナナは、埃っぽい風車の部屋を見渡す。
しばらくはここにいなければならないかもと思っていたので、ロックのお家に招いてもらって、少しだけホッとする。
「ロックの家にネズミはいる?」
モモが目をキラキラさせながらロックを見上げていた。
「ネズミはいない。・・・はずだ」
「はず」?「はず」って何?そこは言い切って。
ナナの不安度がぐんと上がる。
「モモ、もしネズミがいたら獲ってもいい」
「ナナちゃん、ロックの家に行こう」
モモちゃん食い気味。
少し考えた後、ナナはペコリと頭を下げた。
「ロック、ありがとう。よろしくお願いします」
ナナとモモは、ネズミがいないはず?のロックの家でお世話になる事になった。
「ロックって、いくつ?」
「16。12から冒険者をやってる」
「職業は冒険者?」
「今の職業は剣士だ。ギルドの仕事を請け負う者が冒険者だ」
「今のって事は、前は違ったの?」
「14までは魔物を狩るほど力が無かったから、採掘や採集をしていた」
「そうなんだ」
「ナナは?」
「私は14才。地球ではアクセサリーを作ってたよ」
「工房で働いてたのか?」
「ううん自宅のアトリエ(6畳の自室)で」
「そうか。すごいな」
ナナは、ちょこっと見栄をはった。
でも、アクセサリーはそこそこ売れてたからセーフ。だと思う。
「ロック、魔物とネズミ、どっちが美味しい?」
「モモ、俺、ネズミは食ったことない。だから俺には比べられない」
「じゃあ、モグラと魔物は?」
「モグラも食ったことないな」
「そっかー。ロックかわいそう」
「モモちゃん、私だってモグラもネズミも食べた事ないよ」
「そっかー。ナナちゃんもかわいそう」
「モモ、魔物の肉だってうまいぞ」
「そっかー。魔物の肉たのしみー」
モモがうれしそうにロックを見上げていた。
魔物おいしいんだ。どんな味なんだろう?野性味あふれる味なのかな?
ナナは、モモ以上に魔物の肉に思いを馳せる。とても楽しみだ。
そんな風にロックの家に向かう道中、ナナとモモはロックとたくさんの話をしたので、あっという間にロックの住む町マリンナに到着したのだった。
二人と一匹の暮らしがはじまります。
ナナ:黒髪・黒い瞳
モモ:黒猫・金の瞳
ロック:髪色シルバーアッシュ・チャコールグレーの瞳