そして家族になる(2)
7月15日ナナの誕生日の翌日、ナナは自分自身を鑑定して16才になっている事を確認した。
今年のナナの誕生日とロックの誕生日は、結婚のお祝いを優先して先延ばしだ。夏の終わりにまとめてお祝いする事になった。
ロックとナナは、ベン親方の工房に指輪を取りに向かう。
ナナは、石を付ける位置や細かい調整のために何度か工房で結婚指輪を見ているけれど、ロックは地金を加工する前にサイズを合わせに行っただけなので、どんなデザインなのか一度も見ていない。今日が結婚指輪との初対面だ。
ベン親方から受け取った結婚指輪は、赤いベルベット張りの小さな箱に2つ並んで入っていた。
「ロック、嬢ちゃん、結婚おめでとう!」
「ロック、ナナちゃん、おめでとう!」
「親方、トムさんありがとう!すごく素敵です!さすが親方!」
「ありがとうございます!」
「いい出来だろう?剣の邪魔にならない。でも地金をケチってないから歪んだりしない。絶妙な太さと厚みだ」
「素晴らしいな」ロックがまじまじと指輪を見る。
「ロック、この石はね、ブルートパーズとラブラドライトとオニキス」
「幸せの青と、俺の髪色と、ナナの髪色。話に聞いてた通り、剣の邪魔にならないように並べてあって、ナナの気遣いを感じるよ。これだけの物を揃いでつけてたら、一目で夫婦だと分かるな。気に入ったよ。すごくいい」
「気に入ってくれて、うれしい。さあ、特殊効果を付加するよ!」
ナナは金属魔法で2つの指輪に特殊効果を付ける。
付加の内容は、どちらも『幸運』。モモの特技に『幸運』があるのなら、特殊効果としてつけられるのではないかと思ったのだ。
『ロックの結婚指輪。ナナからの贈り物。ブルートパーズ、ラブラドライト、オニキス、金製。幸せを引き寄せる幸運の効果が付加されている。ロック用』
『ナナの結婚指輪。ロックからの贈り物。ブルートパーズ、ラブラドライト、オニキス、金製。幸せを引き寄せる幸運の効果が付加されている。ナナ用』
「おいおい、結婚指輪、売れるんじゃねぇか?」
「売れますかね?」
「宝石無しが2点セットで金貨4枚、幸運の付加付き、はめ込む宝石で価格が変わる。どうだ、いけそうだろ?売ってもいいか?」
「いいですよ。でも、この石の組み合わせとデザインはダメです」
「おお、わかった。約束するよ!トム!忙しくなるぞ!」
「はい!親方!」
ロックとナナは、ベン親方とトムさんにお礼を言って役所へ向かう。
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マリンナ町役場の受付に並び、順番を待つ。ロックもナナも、緊張でカチカチだ。
「結婚の届を出したいのですが」
「はい、こちらにご記入お願いします。ご記入の間、年齢と性別にお間違えが無いか鑑定させていただきます」
記入するところは、2人の名前と性別、年齢、住所、ギルドの登録者番号。それだけ。すごくシンプルな書類だから、すぐ書き終わる。
「はい、確かに。ご結婚おめでとうございます。お幸せに!この後ギルドに、こちらの書類を届けてください」
「ありがとう」「ありがとうございます」
すごく事務的にあっさりと届を出し、ロックとナナは夫婦になった。
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ロックは、役場で預かった書類を持ってナナと一緒にギルドの受付に並ぶ。
「ロックさん、今日はシルクヘアミンクの討伐がありますよ!毛皮は高額買い取り致します!」
「いや、今日は討伐じゃない。結婚したので書類持ってきました」
「えー!おめでとうございます!ナナさーん、おめでとう~!」
「リリアさんありがと~!」「ありがとう」
「ナナさんって16?!早くない?あ、でもいいのか、ロックさんとラブラブだもんね~」
「えへへ、リリアさん、はずかしいよー」
モジモジするナナに、ロックが柔らかく微笑む。
「幸せになってね!そして私に幸せをお裾分けして!いい人いたら紹介して!」
「いい人いたら、リリアさんをお勧めしておくね!それじゃあ、ありがとう!」
「おめでとう!がんばってね!」
「おいおい、ロック結婚したのか?お前いくつだ?」
「18だ。今日結婚した」
「ロック!やったな!おめでとう!」
「番犬みたいにナナちゃん守ってたもんな!おめでとう!」
「ありがとう」「ありがとうございます」
ギルドで沢山の人達から「おめでとう」をもらい、孤児院に向かう。
今日は、コウはモモを同伴して孤児院で待っている。
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「ジル!コウ!モモ!」
ロックとナナは、ジルとコウとモモに指輪を見せる。
「「ロック!ナナちゃん!おめでとう!」」「おめでとう(小声)」
「「ありがとう!」」
「ジル、荷物まとめた?」
「うん」
ジルの私物はほとんどない。服2着と下着と歯ブラシとコップくらいだ。
「さあ、皆でノットさんの所に行くぞ!」
育て親は、引き取るまで1か月お試し同居がある。1か月後に引き取る予定なので、ジルも今日から一緒に住む。
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役所の会議室のような場所で、ノットさんと向かい合って座る。
「ノットさん、ジルとコウの育て親を希望します」
「待ってましたよ。すぐ手続きしましょう。まずは確認です」
「ジル君、君は、育て親希望のロックさんとナナさんの元で暮らすかい?」
「暮らします!」
「わかりました、今日から1か月お試し同居という事になります。1か月後、またお話を聞かせて下さい」
「では、コウ君、君は、育て親希望のロックさんとナナさんの元で暮らすかい?」
「暮らします!」
「わかりました、コウ君は今日手続きできますが、どうしますか?」
「ジルと同じ日に手続きして下さい」
「わかりました。では、1か月後にまた来て下さい」
「はい!」
「ロックさん、ナナさん、育て親は引き取った孤児に責任が生じます。特別な事情が無ければ、12才まではお2人が育てる事になります。10才までは育成補助金がでますが、1人銀貨1枚です。決して多くはありません。お気持ちは変わりませんか?」
「「変わりません」」
「わかりました。お手続きを進めさせていただきます。これからも、お仕事中はジル君とコウ君は孤児院でお預かりできます。来月、育て親の手続きが完了したら、補助金がロックさんの口座に入金されます」
「その補助金は、コウとジルの口座に入金してもらう事はできますか?」
「育て親に対する支給なので、ロックさんの口座への入金になります」
「わかりました」
「では、また来月の15日にいらして下さい。ジル君、コウ君、良かったですね」
ジルとコウを見るノットさんの目が、とてもやさしい。
「「はい!」」
「お時間を取って下さり、ありがとうございました。8月15日にまた伺います」
「お待ちしてます」
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ジルとコウは肩を組みじゃれながら歩く、その後ろをモモを抱いたナナとロックが歩く。
小さく「泣くなよ(小声)」「泣いてねえよ(小声)」という声が聞こえる。
「ナナちゃん、ジル、泣いてるのかな(小声)」
「モモちゃん、そこは見て見ぬふりよ!(小声)」
「泣いてねえから!」ジルが振り向いて答える。目が真っ赤だ。
「夕飯は奮発してランズの店に寄るぞ。涙拭いとけ」
「泣いてねえ!」
タマス王国民らしく、家族でちょっと豪華な食事をして、結婚のお祝いをする。
大きな鳥の丸焼きは、食べずらかったけどガーリックが効いてて美味しかった。
多いかなと思ったけど、男子3人にかかればペロリだ。モモには、生のままの魚を出してもらった。
へーリオスには月が無い。夜は真っ暗になってしまうから、町中には街灯が沢山ある。
街灯と街灯の間に、各家の灯りがぼんやりと光る。
やさしい光に見送られながら、ロックとナナとジルとコウとモモは、家へと急ぐ。
明日も休みにしているけど、今日はきっと夜更かしだから、色々用意をしなくては。
ナナがへーリオスに来た時のように、モモが尻尾を立てて先導する。
小さなお尻を目で追いながら、ナナはロックと手を繋ぎ、大切な家族と一緒に家路を歩くのだった。




