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そして家族になる(1)

ナナはその日、ベン親方の工房に、ベン親方特製の各種ワイヤーを取りに来ていた。

今日、ナナはベン親方に重要なお願いがある。


「親方、お願いがあるんです」


「嬢ちゃん、何だい?かしこまって」


「結婚の記念に、ロックとお揃いの指輪を作りたいんです」


「指輪か、ワシへの依頼って事でいいか?嬢ちゃんが自分でやりたいんなら教えてやるぞ?」


「自分で作りたいけれど、一生物にしたいから親方に頼みたいです」


「素材はなんだ?」


「金、ゴールドでお願いします。石はブルートパーズとラブラドライトとオニキス。リングの幅は表が4mmくらいで手のひら側はもう少し細めに、邪魔にならないように3mmくらいの石を埋め込みで並べてセッティングしたいんです」


「ラブラドライトとオニキスはわかるが、ブルートパーズは?」


「私の故郷の言い伝えで。結婚する時に青い物を身に着けていると幸せになれるというのがあって。それに、挿し色が欲しかったから」


「幸せの言い伝えに、挿し色か!なるほどなるほど・・・・・デザインはこんな感じか?」

ベン親方が、さらさらとデザイン画をおこす。


「もう少しシンプルに・・・ここらへんを、こう、丸みのある感じで」


「・・・・こんな感じか?」


「あ、いい感じです」


「嬢ちゃん、金属パーツは1個だけどいいのか?」親方がニヤリと笑う。


「いいんです。今回は、付加はおまけみたいなものなので」


「ハハハ、やっぱり付けんのか。結婚記念の指輪に特殊効果つけるなんざ聞いたことねぇ、嬢ちゃんらしくていいな」


「石は持ち込みで、だいたいお幾らくらいでしょう」

地金が金だから、お値段を聞くのもドキドキだ。ナナは、金貨2枚以内に収まりますようにと心の中で祈る。


「指輪2個で、銀貨7枚。地金代だけでいい。加工代は結婚祝いだ」


「そんな、安すぎます!地金代にもならないんじゃ」


「ウチは金のナゲットを沢山仕入れるから他より安いんだよ」


「せめて金貨1枚に」


「ワシがいいってんだから、いいんだよ!石持ってきてるか?」


「はい、ここに。・・・親方、ありがとうございます」


「いいって事よ。嬢ちゃん、一生もんの大事な指輪を、ワシに作らせてくれてありがとうな」


「ベン親方、引き受けて下さってありがとうございます。すごくうれしいです。よろしくお願いします」


ベン親方に銀貨7枚を支払って、ナナはベン彫金工房を後にする。指輪は3週間後に出来上がる予定だ。



▽△▽△▽△▽△▽△



タマス国の結婚は、日本の結婚とはだいぶ違う。

まず、タマス国では、あまり結婚式をしない。結婚式どころか、結婚せず、役所に届けないまま家庭を持つ人も少なくない。


裕福な商家や由緒ある名家などは、結婚披露のパーティーをするらしいけれど、ほとんどのカップルは役所で届けを出して終わり。せいぜい両家族で少し良い店で食事をするくらいだ。


教会はあるけれど、信者以外がそこで式を挙げたりはしない。

教会はあくまで宗教の教えを説く場所で、信者でなければあまり行かない。庶民が教会に行くのは、バザーや無料の臨時治療院の時くらいだ。


そんな話の流れで、ナナが「地球(日本)では結婚する時に、お揃いの指輪を贈りあうんだよ」とロックに話したのが、結婚指輪を作るきっかけだった。


「結婚記念の指輪か、一目で夫婦だと分かっていいな。剣を握るのに邪魔にならない大きさにしよう、ずっと身に着けておける」


世間話のはずが、ロックが結婚指輪にすごく乗り気で、あっという間にペアリングを作ることが決定した。


ベン親方にお願いしてしっかりした物を作ってもらい、ロックからナナに、ナナからロックに贈りあおうと決めた。



ナナは最近、結婚してからの生活についてロックと話し合う時間が増えた。

結婚してから2人で使う部屋の事とか、ジルとコウの引き取りの事とか。

大抵は就寝前の1時間くらい、どちらかの部屋で眠くなるまで話す。


結婚したら一緒の部屋を使う予定だけど、どちらの部屋かはまだ決まっていない。でも、ナナの部屋の方が広いから、多分ロックがナナの部屋に移ってくる事になると思う。


部屋を移る以外、生活は今と大きくは変わらないとナナは思っていたけれど、ロックは大違いだと言う。ナナへの勧誘を「俺の妻に何か?」の一言で解決できるから、遠征にも行きやすくなると。


この間の遠征で、コウとジルがすごく成長したので、遠征に行きやすくなるのはうれしい。


コウとジルは、養子ではなく育て親として引き取る事になりそうだ。

役所によると、庶民はあまり養子の手続きはしないらしい。


養子にすれば、ロックとナナの子供になる。ただ、今のように孤児院に通う事はできなくなる。

育て親として登録すれば、扱いは家族と同じだけれど、孤児院の代わりに子供を育てる親という立場なので、町から僅かだけれど補助金が出て、10才までは孤児院に通う事ができる。


コウとジルに希望を確認したけれど、一緒に暮らせる家族なら、立場は何でもいいと言う。

違いを説明すると、コウとジルは育て親がいいと言った。仲間がいるから10才までは孤児院に通いたいそうだ。


でも、ロックとナナは、いつか彼らが養子になりたいと思った時のために、役所に話は通しておく事にする。



ベン親方に頼んでいる指輪が完成する頃、ロックとナナは結婚の届を出す。


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