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ベッドの安心はみんなで守る

ロックとナナは、春先のノトスナポス領への遠征のおかげで貯えができたので、月に数日、冒険者をお休みして家族で過ごすようにしていた。


休みの日は、ジルも修行という名目で朝から夕方まで一緒に過ごす。『名目』とは言っても、ジルとコウの修行は意外とハードだ。


2人は、早朝から一緒に摸造剣で素振りをして、ロックに剣の稽古をつけてもらう。

朝ご飯を食べたら少しだけ食休みをして、ピクニックと称して皆で草原まで行き、走り込みをしたり、剣を腰にさしたままロックと素手の手合わせをしたりして過ごす。


その間、ナナとモモは、風が心地よい木の下でお昼寝だ。


草原でお昼ご飯を食べて家まで戻り、ジルとコウは遊んだり昼寝をしたりして夕方の稽古まで過ごす。夕方の稽古が終われば修行は終わりだ。


少しの家事と昼寝ばかりしているナナにとっては紛うことなき休日だが、よく考えたらお休みなのにロックは全然休んでない。

下手すると冒険者として討伐に出ている日よりハードかもしれない。



▽△▽△▽△▽△▽△



その日は、とても天気が良くて暖かかった。ナナは、シーツやラグを洗濯して庭いっぱいに干した。

いつもの休日を過ごした午後、夕方の稽古までの、コウとジルの自由時間のことだ。


ナナは、干したシーツやラグを取り込んで、各部屋に戻して回っていた。


コウの部屋にラグを持って行くと、ジルとコウが床に直接ころがって昼寝をしていた。


ナナが床にラグを敷く間、ロックに2人をベッドに寝かせてもらって、ロックに手伝ってもらいながらラグを重ねて布団のように敷いていく。


コウとジルを、敷き終わったラグに移そうとしたその時、コウが目を覚ました。


コウは声も出さずに飛び起きて、素早くベッドから降りると、部屋の隅で震え出した。

目には光が無く、どこを見ているのかもわからない。


「コウ、大丈夫?どうしたの」

「コウ、大丈夫か」

「コウ、コウ、俺だよ、コウ」

目は開いているのに、コウはこちらを見ない。


「コウ、大丈夫だよ。大丈夫」

モモがコウのほっぺたをペロリと舐めた。


「モモ、モモ・・・ナナちゃん、ロック、ジル」

コウの目に光が戻ってきて、皆の顔を確認するようにじっと見る。


「良かった、僕、帰ってなかった。良かった」

コウの目から涙が溢れる。


「コウ、ごめんね、勝手にベッドに乗せて」

「コウ、ごめんな、大丈夫か?」


「大丈夫、ビックリしただけ。昔、僕が住んでた家、ベラ、ベランダの窓に、くっ、くっつけて、ベッドが置いて、あって」


「ベッドに乗らないとサッシを開けられない感じ?」ナナだけが間取りを想像できる。


「そ、う。サッ、シを、開けると、すぐ、ベランダ」


「大きな窓にぴったりくっつける感じで、ベッドが置いてあったんだって」

ナナが、ロックとジルを見ながら説明する。


「ぼ、ぼく、僕が寝てたら、お父さんが怒って、さっ、サッシを、開けて、僕を、けり、蹴り出、した」


「ベランダに?」


コウは、コクリと頷く。頷いた拍子に、涙がぽろりと落ちる。ナナが、コウを抱きしめる。


「それ、で、か、鍵を、サッシを閉めて、鍵を、何日も、」


「コウ、もういい、言わなくていい。・・・ウチのコウに何してくれてんだ。クズ親め」ロックの顔が怖い。

ロックがナナごとコウを抱きしめる。ジルがコウの手をギュッと握る。


「コウ、コウ、聞いて。ここには、コウをベランダに放り出す人はいない。コウの事が大好きで大好きで、たまらない人しかいない」


ジルはコウを見て、コクコクと頷く。コウも、コクリと頷く。


「コウ、ここは安全だよ。ラグの上でも、ベッドの上でも、安全。コウが寝てるときに、コウを抱きしめる人はいても、放り出す人は1人もいない」


モモが、ジルの握ってるコウの手に、頭をこすりつける。


「コウ、俺は強い、知ってるだろ?コウの親が来ても、俺がそいつらを追い返す。絶対にベランダには戻さない」


「コウ、家族になったら、俺が一緒に寝るから。俺がいるからな。そんな奴、二人でやっつけようぜ」


「大丈夫、僕は、大丈夫。ロックも、ナナちゃんも、ジルも、モモもいるから。大丈夫、僕は、大丈夫。大丈夫」


コウが、自分に言い聞かせるように、大丈夫を繰り返す。


「コウ、コウ、俺達は幸運だ。すごい家族ができる。俺を捨てた親じゃなく、コウを蹴った親でもなく、ロックとナナちゃんの家族になるんだ」


「モモも」モモが、ジルを肉球で叩く。


「モモもだ。俺達に家族ができるんだ。すごい事だよ」


コウがコクリと頷く。


「俺は幸運だった。コウと親友になれた。コウと一緒にロックの弟子になれた」


「僕も、僕も幸運だった。ジルと親友になれた。ジルと一緒にロックの弟子になれた」


「そうだろ?俺達は幸運なんだ。だから大丈夫だ。良かったな俺達、小さいとき苦労した甲斐があったな」


「僕達、苦労した甲斐があった」


コウとジルが何度も頷き合う。


「コウ、ジル、小さかったのに、がんばったな。お前達は強いな。俺は、逆境に負けなかったお前たちを誇りに思うぞ」

ロックが、コウとジルの頭をゆっくりと撫でる。


「ひっくひっく、うわぁああああん」「ぅぅぅ、うぇえええええん」


子供2人の鳴き声が響く。

コウが、初めて大声を出して泣いた。感情を爆発させるコウを初めて見た。ジルも不安だったんだ。しっかりしていても、ジルは8才の子供だ。


感情が溢れて大声で泣く2人を見て、ナナはもう我慢できなかった。


「うう、ふえぇぇぇぇん」


「え?ナナちゃんっ、ナナちゃん、泣かないでー」

「ちょっ、ナナちゃん、大人が大声で泣くなよ」


「ごうー、じどぅー、よがっだー」


ナナの号泣に中てられて、コウとジルの涙が一瞬引っ込んで笑顔になる。


「はは、ふふっ、もー、ナナちゃん、俺らの為にそんなに泣くなよー」

「ふふふっ、ナナちゃん、僕ら、もう大丈夫だから泣かないでー」


「ナナちゃん、鼻水でてるよ」モモちゃん、そこは見て見ぬふりを。


それから、しばらく3人で笑いながら泣いた。ロックとモモは、そんな3人に黙ってそっと寄り添っていた。


「ナナちゃん、まだ泣いてんのかよ」

「ナナちゃん、そろそろ泣きやもう?」


ナナは、泣きすぎて、ヒックヒックとなってしまって、なかなか泣き止めなかった。


そんなちょっと間抜けなナナを見て、ジルとコウは、なんだかとても幸せな気持ちになったのだった。



▽△▽△▽△▽△▽△



「ナナちゃん、目がパンパンだね」


「モモちゃん、コウとジルだってパンパンだよ、おそろいだよ」


「俺はそうでもないよな?」「僕はそうでもないよね?」


「いや、みんなパンパンだ。いいからサンドイッチ食え。それ食ったらジル送ってくぞ」


「俺、パンパンで帰りたくねえ」


「ジル、絶対アリスに泣いたの?って聞かれるね」


「言うなよ!絶対余計な事言うなよ!」


「僕だってパンパンなんだから、言わないよ」



3人で号泣してすっきりした夕方、ナナは、皆の距離が前よりもっと近くなった気がした。


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