ジルとコウと籠いっぱいのドーナツ
「僕、ジルとお庭で自主トレする約束してるから、今日は孤児院へのお迎えいらないよ」
遠征から帰って来た辺りから、コウの言葉使いが急速に進化している。
ここ2か月で口調が幼児から子供になった。ジルと口調が似てるから、きっとジルのおかげだ。
焦ると時折しどろもどろになるけれど、ある程度は自分で立て直して話せるようになった。
「わかった。鍵預けておくか?」
「ロック達が帰るまで、ジルと庭にいるから大丈夫」コウは、ニカッと笑う。
態度にも変化があった、顔色を伺うような、オドオドした所が無くなった。
「コウ、木剣で素振りしておけ。古いのが庭にあっただろう?」
「わかった!」
「コウ、無理せず休み休みだよ。トレーニングがんばって!」
「コウがんばって、モモもがんばる」
「ありがとう!行ってきます」
孤児院でも、ジルや男子数人と一緒に自主トレ(自主トレーニング)してるようで、コウが孤児院に行くとジルを筆頭に男子の集団が走り寄ってくる。
わいわいと肩なんて組んじゃって、じゃれあって、子犬の集団のようだ。あ、何人かでコチョコチョしながら転がってる。男子達め、かわいいぞ。
服の裾を握って俯くコウはもういない。
ナナは、コウが友達とクスクスと笑い合う様子を、ずっと眺めていたいと思う。
「ナナ、モモ、そろそろ行くぞ」そういうロックの顔も、ほっこり笑顔だ。
さあ、名残惜しいがお仕事お仕事。
ロックとナナとモモは、討伐依頼を求めてギルドへ向かうのだった。
▽△▽△▽△▽△▽△
ロック達が、討伐を終えて家に戻ると、お庭でコウとジルが、近所のおじいちゃんとおばあちゃんに囲まれて、サーターアンダギーのような素朴なドーナツを食べていた。
「おふぁえりなはい!(おかえりなさい)」「おふぁえり!(おかえり)」
リスみたいなほっぺでドーナツを持ったまま、コウとジルが駆け寄ってくる。
「わあ、ドーナツ頂いたの?いつもありがとうございます」
「ドーナツ、ありがとうございます。ジル、コウ、お礼言ったか?」
「「いっふぁ!(言った)」」
「2人とも美味しそうに食べるから、作りがいがあるわぁ。沢山食べてね!」
礼儀正しく挨拶して、稽古をがんばってるジルとコウは、ここいら辺のお年寄りに大人気だ。
地球では、勝手に孫にお菓子を与えるお年寄りは歓迎されない場合もあると聞いたけど、砂糖がお高いへーリオスでは大歓迎。いつでもウェルカムだ。
「ボウズ達、良く続いてて偉いなぁ。剣の稽古は厳しいのになぁ。根性があるなぁ。本当に偉いなぁ」
おじいさんが、コウとジルの頭をなでる。
「ずっと続けます!」「頑張ります!」
「2人とも剣筋がよくなってきたぞ!ロック、こりゃあ将来は大物だな」
「どうでしょうね。まあ、筋はいいと思いますよ」
ロック、さりげなくジルとコウを自慢する。
「コウ、俺達筋がいいって!」「ジル!将来大物だって!」
「おいおい、2人とも、浮かれてるとケガずるからな。大事なのは少しの才能と毎日の鍛錬だ」
「「はいっ!」」
「ロックは厳しいのぉ」
「じいちゃん、毎日の鍛錬がんばるよ!俺達筋がいいしっ。な、コウ」
「うん!毎日がんばるよ!」
コウとジルに、あちこちから愛情が降り注ぐ。
ロックとナナは、それがうれしくて仕方がない。
「ナナちゃん、ほらこれ、明日のおやつにしなさい」
向かいのおばあちゃんから、籠いっぱいのドーナツを渡される。
おばあちゃんが作った甘さ控えめなサーターアンダギーのようなドーナツは、お砂糖をまぶしても、蜂蜜をかけても美味しい。
「サマンサさんいつもありがとうございます!美味しくて、つい食べすぎちゃう。えへへ」
「ナナちゃんは、細っこいんだから、もっと食べな!」
2人のおかげで、ご近所との距離がどんどん近くなる。人の輪が広がっていく。
もうすぐ、夏が来る。ナナの誕生日が来る。
ロックとナナとコウとジルとモモが、本当の家族になるまであと少し。




