猫は異世界でも喋らない
ロックと話しはじめて、違う世界から来た事は、割とすぐに理解してもらえた。
なぜなら、マイステータスをスマホで見せる事ができたから。
『光と共に渡りし者』をタップしたら『地球から光と共にヘーリオスに渡りし者』と、ほんの少し情報が足された説明が書いてあった。
この世界は『ヘーリオス』というらしい。
メッセージ:『それまでに知ってほしい事があるので、スマホに向って「マイステータスを表示」と言ってみて下さい』
メッセージの人、ごめんなさい。マイステータスに知りたい事がほとんど書いてあった。
「ナナって、チキュウ人?」
ロックの宇宙人みたいな問いに、ナナは少し迷って「日本人」と答えた。
「ロックはヘーリオス人?」
「いや、俺はタマス人」
ですよね。みたいな空気が流れる中、ロックが話を続ける。
「そういえばナナ、大きな荷物を持ってるけど、中身確認したのか?」
「してない、暗かったから・・・」
嘘です。メッセージの人の指示をこなすのに必死で忘れてました。ナナは心の中で反省する。
「・・・なるほど」
そういえば、昼間にこの世界に来て以来、大きな荷物どころか、身に着けてるサコッシュの中身すら確認してなかった。
「荷物はさておき」
「さておいちゃうのか」
「今日は、地球からの移動と風車までの移動でヘトヘトで、」
「ねえ、ナナ。お腹すいた。モグラ持ってない?」
モモの声に、ナナは膝へと視線を向ける。
モモが、ナナの膝の上から起き上がり、首をくるんと回して振り向いた。
「モグラは、持ってないかな」
「ネズミでもいいよ」
「ネズミも無いかな」
「ないの?」
「うん」
「上にネズミがいるの。獲ってきてもいい?」
「いいよ」
「やったー」
モモは、意気揚々と階段を上がっていった。
ナナが振り返ってロックを見ると、目を見開いて口を「お」の形に開いたまま固まっていた。
「モモ、しゃべってたぞ」
「え、この世界の猫はしゃべるんじゃないの?」
「しゃべらない。ナナの世界の猫はしゃべるのか?」
「しゃべらないよ」
「ナナのファミリアだからか?」
「モモちゃん、会った時からしゃべってたよ」
トトトトと階段を下りてきて、満足そうに毛づくろいをするモモと、色々とキャパオーバーで疲労感あふれる人間二人。
ナナはあんなに歩いてお腹が空いているはずなのに、ロックは狩りの後でお腹が空いてるはずなのに、どちらからも食事をしようという提案は無かった。
どちらからともなく、こういう時は、寝よう。体を休めよう。という雰囲気になってくる。
ロックからは寝ずの番の毛布を勧められたけど、ナナは誰が使ったかわからない毛布に包まる気になれず、椅子に座ったまま背もたれにもたれて眠る事にした。
ロックは床に座って、壁にもたれて眠るようだった。
モモはネズミとモグラが好き。