年またぎの事(1)
へーリオスの暦は12か月で1月30日だ。1年の最後を締めくくる数日は、どの月にも属さない『年またぎ』という特別な期間だ。
今年は5日間。『年またぎ』の間は、皆家に籠って過ごす。仕事もお休みだ。
文献によると、元は遥か遠い古の雪深い北国から伝わった習慣だったらしい。古の北国はもう亡いけれど、数百年前に伝わったこの習慣だけは、温暖なタマス国の生活にも息づいている。
「おたんじょうびプレゼントは、ロックの剣のけいこ、おねがいしますっ!ジルと、いっしょがいい、ですっ!」
コウ、成長したなぁ。ナナは、しんみり思う。コウは6才になった。日本なら小学生になる年だ。
「こじいん、年またぎ、おとまりできるんだって!ジルよびたい!ロック、けいこおねがいしますっ」
そんなこんなで、コウの今年のお誕生日は、年またぎ中にお祝いする事になった。
コウの希望で、孤児院の子供が外泊できるこの期間に、親友のジルを呼んで剣の稽古三昧だ。ロック大人気。ナナとモモはちょっと悔しい。
ロックとナナとモモで相談して、コウの誕生日プレゼントはジルとお揃いの剣帯にした。
ベン親方に紹介してもらった革工房にお願いして、コウとジルの名前を入れて作ってもらった。
そこに、ナナが作ったお守りを飾りとしてつける。パロサントという香木で作ったビーズと氷柱のような水晶を革紐で結んだストラップだ。
ボロボロになってしまったお揃いの木剣も、ロックが新しいものを用意した。
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コンコンとドアがノックされる。コウがドアにすっ飛んでいく。
「ジルきた!ジルきたよ!」
「こんにちは、5日間、お世話になります!」
「おう、よく来たな。ジル」
「ようこそ、ジル!寛いで過ごしてね」
「よろしく、ジル」モモがシレッと挨拶する。
モモは、年またぎ中におしゃべりできないのが嫌で、ジルにはカミングアウトする事にしたらしい。
目を見開き口を『お』の形にして固まるジル。ロックが初めてモモに会った時の表情と同じだ。
「モモが、モモが、しゃべってるっ!!スゲーなモモ!お前しゃべれたのか!!」
さすが子供、順応が早い。
「ジル、モモがしゃべるの、ないしょ、ぜったい、ないしょ」
「分かった、誰にも言わない。男と男の約束だ!」
コウとジルは、2人で顔を見合わせてクスクス笑ってる。もう、かわいいな、2人とも!
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「2人で玉ねぎの皮むきお願いねー、5個くらい」
ナナは、コウとジルをラグに座らせて、ドンッと玉ねぎの入った籠を置く。
今日は、ハンバーグと人参のグラッセとスープ。スープは味変して明日も明後日も食べるから沢山作る。
風魔法を駆使して玉ねぎとビッグラズの肉を一緒にみじん切りするナナの手元を、ジルが「スゲー」と言いながらのぞき込む。コウは「ナナちゃん、すごいの!」と胸を張る。ちょっとうれしい。
ロックとコウとジルにハンバーグを丸めてもらいながら、ナナはスープを作る。ベーコンと玉ねぎのシンプルなやつだ。明日はトマトを足してトマトスープ、明後日はミルクを足してミルクトマト味になる。
人参のグラッセはロックが作った方が断然美味しいのでお任せする。
ナナは、ハンバーグに乗せるトマトを刻む。もちろん風魔法だ。
ロックが大きめのフライパンでハンバーグを焼いていく。お肉のいい匂いがキッチンに広がる。
いつもはラグでモモと座って見ているコウが、ジルとキッチンでそわそわしているのがかわいい。モモはラグで寛いでる。いつも通りの通常運転だ。
「スゲー!うまそう!」「いただきますっ!」
「これ、すっげーうまい!孤児院のチビたちに作ってやりたい!」
「ジルは、料理ができるのか?」
「料理は10才から任されるんだ!まだ野菜洗いと皮むきしかやらせてもらえない」
「じゃあ、うちで練習するといいよ。大人が見てれば大丈夫だよね?」
「ナナちゃん、コウもやりたい!」
「うん、いいよ、コウもやろうね」
「コウ、明日からの稽古楽しみだなっ!料理も教わるし、スゲー修行だな!」
「うん、ジル、スゲーしゅぎょう!」
「張り切ってるな、いい事だ」
「ジル、コウの部屋にベッドがあるから、そこで寝てね」
「ナナちゃん、コウはラグで寝てるんだろ?俺もそこで寝る」
「モモも一緒だよ」
「ああ、モモも一緒に寝ようぜ!」
子供達が、仲良くラグで並んで寝ている。モモは、ジルとコウの間に挟まって丸まってる。
ナナとロックは、プレゼントの剣帯と木剣を、そっと二人の着替えの上に乗せる。
朝起きた子供を驚かせて喜ばせる、サンタさん方式だ。
明日の様子を想像して、ナナとロックは顔を寄せ合いクスクスと微笑むのだった。
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「すごい!すっごい!あたらしい剣も!ロック!ナナちゃん!すごい!モモ、見て!これ、おそろい、ジルと、おそろい!」
「うっわー!!すっげー!!かっこいい!!コウ、お揃いだぞ!すげえ!名前書いてある!木剣も新品だ!」
コウとジルは、朝から大騒ぎだ。そんな騒ぎの中、モモは「よかったねー、にあってるー」とだけ言うと、ころんと丸くなった。モモ強い。
剣帯を腰につけて木剣をさした2人が、誇らしげに見せにくる。
「誕生日のプレゼントだ。似合ってるぞ」
「すごく似合ってる!強そうに見えるよ2人とも」
ナナは、2人の剣帯にパロサントと水晶のお守りを付ける。
「これは、お守り。お揃いだよ」
コウとジルは、顔を見合わせてニカッと笑う。
「「ありがとう!」」
お礼を言うと、2人は庭に飛び出して行く。朝ご飯の前に朝練があるらしい。
庭に元気な声が響き渡る。家籠りに飽きたご近所の子供も出てきて楽しそうだ。
ロックが庭に出ていくと、おしゃべりがピタッと止んで、今度は剣の素振りの掛け声が響く。
ナナとモモは、窓からその様子を楽し気に眺めていた。




