ナナは、スタンガンをイメージして提案する
ナナの金属魔法は、特殊効果を付加するときに持ち主を思いながら付加すると、その人専用の付加になり効果が格段に上がる。
だから、知らない人の専用付加はできない。会って話して、その人を知るほど効果が上がる。
その日ナナとロックは、ベン親方の作る剣飾りへの特殊効果付加の依頼で工房に来ていた。
「僕は、大鷲のリロイ。よろしく」
「ロクナナのロックだ。よろしく」
「ロクナナのナナです。よろしくお願いします」
「ベン親方に作ってもらう僕の剣飾りに、魔法をまとわせる特殊効果を付けられないかな?」
「炎付与や氷付与みたいな感じですか?」
「いや、魔法の種類に関係なくつけたいんだ」
「うーん、それならご自身の使える魔法でないと難しいかもしれません」
「それは、どうして?」
「例えば、炎付与の効果と、氷付与の効果を剣につけたとします。
リロイさんが剣のグリップを持った時点で、どちらの効果も発動します。
金属魔法の付加効果は、発動するかしないかは選べません。
炎と氷が同時に発動してしまうんです。そうすると、おそらく効果を相殺してしまう。
だから、もし違う属性の付加をタイミングによって使い分けたいのなら、ご自身で魔法を流して反応させる形でないと無理なんです」
「僕は、攻撃できる魔法はないんだ。剣士だからね」
「リロイさん、どういう戦いを想定していますか?」
ロックが、リロイさんの希望の理由を確認する。
「セントヴォーリア領の氷の森での討伐を想定してる。あそこは稼げるから数年は留まる予定なんだ」
「なるほど、白狼か」
「ロック、白狼ってどんな魔物なの?」
「白狼は、毛皮が分厚い。鋼の剣で傷はつけられても1撃で倒すのは難しい。あと、一番の特徴は目の色で魔法耐性が違う所だ。例えば、目が青かったら水耐性があるし、赤かったら火耐性がある。耐性のない魔法攻撃は効くけど魔法使いの位置からでは目の色の判別はつきにくい。おまけに群れで襲ってくる」
「そっか、やっかいな魔物だね。白狼の耐性って、基本の火・風・水・土だけ?」
「おそらく、そうじゃないかと思う」ロックがリロイさんを見る。
「少なくとも僕は、上位魔法の耐性を持つ白狼は聞いたことがない」
「それなら、上位魔法の付加じゃダメですか?」
「一般的に剣に魔力付与するのは炎付与か氷付与だけど、火耐性に炎はだいぶ効きが悪いかもしれない。あと、氷の森の魔物だから、氷はどうだろうな」
「炎の効果を付加してもらって、火耐性だけ魔法使いに倒してもらうとか。そういう作戦を立てて挑むしかないのかな」リロイさんが考え込む。
「あ、それなら風の上位の雷はどうですか?雷で電撃ショック。上手く付加をつければ、ビリッで麻痺とかいけると思うんですよね。集団で襲ってくるなら、リロイさんが麻痺させたやつを他の人に任せてもいいですし」
ナナは、スタンガンをイメージして提案する。
ロックとリロイさんが固まる。黙って見守ってたベン親方とトムさんも固まる。
「・・・剣士が、魔物を麻痺させるのか?」
「ふふっ。それは、・・・どっちが魔物かわからないな。でも、かなり有効かもしれない」
リロイさんは少し笑った後、真面目な顔になった。
「ふふふ、確かに!相手を麻痺させるなんて魔物っぽいですね!どうせなら、白狼だけじゃなく今後も有効に使える汎用性の高い付加を他にもつけたいですよね。攻撃力アップとかどうですか?」
「攻撃力アップはすごく魅力的だけど、付加を2種類つけるには予算がね。雷ショックの麻痺は他の魔物にも有効だし今はそれで十分だ。とりあえず白狼対策をして確実に稼いで次に繋げたい」
ナナは、考えを巡らせる。この剣、しっかりした作りだし、攻撃力アップをつけたらかなり長く使えるんじゃないかな。
「親方、リロイさんの剣飾りの金属パーツって1つですか?」
「いや、2個だな。ガード(鍔)にガーネットを入れるから、両面で2個だ。それぞれ真鍮で縁取る」
「それなら、後から付加を増やせますね。攻撃力アップをつけたら、かなり長く使えるいい武器になると思うんです」
「リロイさん、この剣はリロイさん専用の剣になりますので、特殊効果付加をもう1つ増やす場合、ナナにしか増やせません。その時はセントヴォーリア領からここまで来なければならなくなります」
「わかってます。白狼狩りでお金を貯めて、特殊効果を増やしてもらいに、絶対またここまで来ますよ」
「わかりました。それなら、お引き受けいたします」
ロックとリロイさんは固く握手を交わす。
リロイさんは、ベン親方と打ち合わせして細かいデザインを決め、出来上がったらまた来ると言って帰って行った。
「はー。嬢ちゃん、スゲーな。電の電撃ショックで麻痺の特殊効果か。薬品以外で相手を麻痺させるなんざ魔物の所業だろ。魔法使いが考える事とは思えんな」ベン親方がニヤリと笑う。
「ナナの魔法の考え方は、他の魔法使いとはちょっと違うからな。氷魔法を足止めに使うし。低燃費で最大の効果を狙った魔法の使い方だ」
「普通の魔法使いの発想は、剣を振るったらどっかーんって落雷ですよね~」
「生物の体って大半が水分だから、だいたい雷が効くと思うんですよね。感電って怖いんですよ!ビリビリバタンキューで動けなくなりますからね。下手したら一瞬で心臓麻痺ですよ」
「何それ殺傷能力高すぎでしょ!ナナちゃんこわいよ!」
「うん、だから、気を付けて付加しないと。あんまり激しい電気ショックだと、切り口だけじゃなくお肉全体に熱が入ったり毛皮が燃えたりしちゃう。それじゃ使い勝手が悪いから、相手の動きを封じる程度の麻痺を考えてますよ」
「氷魔法の足止めもそうだが、一瞬でも動きを封じると、かなり戦いが楽になる。白狼は耐性の無い魔法なら効くから、雷で数分は麻痺してくれるかもしれないな」
「ロックの剣にもつける?」
「いや、ナナの氷魔法の足止めがあるからいらない。ナナの風魔法は家事で使用頻度が高いし、そのうち雷も使えるようになるだろ」
「え?ナナちゃん、家事に魔法使ってるの?」トムさんが不思議そうに尋ねる。
「ガンガン使いますよ。特に風魔法は洗濯、草刈り、みじん切り、火起こしまでフル稼働ですよ」
「洗濯に風魔法?水じゃなくて?」
「盥に水魔法と火魔法でぬるま湯を出して、洗濯物入れたら風魔法でぐるぐる回すんですよ。曇りで乾きが悪いときは、乾かすのにも使います」
「それを、毎日か?」ベン親方が目を丸くする。
「そうですね、ほぼ毎日」
「そんな魔法の使い方する人、初めて聞いた・・・」
他の魔法使いはどうやら魔法をあまり普段使いしないものらしい。ロックは、他の人はこうだとか言わないから、ナナはそういう事をあまり知らない。
「トムさん、ナナは、日常の些細な事にも躊躇なく魔法を使うんだ」
「私、魔法にプライドとか無いんで!便利に使いますよ!」
「やっぱり、ナナちゃんは色々すごいな」
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ロックとナナが家に帰る途中、リロイさんがパーティメンバーと一緒にいる所を見かけた。
一緒にいた魔法使いさんは、魔法使い!という感じのローブを着て立派な杖を持っていた。
ナナは杖がちょっと羨ましくて「ロック、ああいう杖、魔法使いらしくてカッコいいね!私も持とうかな!」と言ってみる。
ロックは笑いながら「持ちたければ持てばいいけど、あの杖重そうだぞ。ナナは杖が無くても魔法が使えるし、ナナはたぶん森を歩いてるうちに邪魔になって、サコッシュにしまって二度と出さないと思うぞ」と言った。
ナナは少し考えて「そうだね、森歩きは手ぶらがいい」と、あっさり納得した。必要ない重い杖をずっと持ち歩くなんて、面倒くさがりのナナには無理だ。どこかに忘れてきそう。
ナナは、最初に作ったのがモモの守り石(特殊効果2種類付加)だったから、1つの物に複数特殊効果をつけるのは一般的ではないという事を忘れがちだ。
武器の特殊効果付加は高価だ。これから他領に行く冒険者には、かなりの負担だろうと思う。
一度ナナが持ち主専用の付加をつけたら、その武器の付加はナナが担う。責任重大だ。
リロイさんが、数年後にあの武器に新しい特殊効果をつける時のために、うんと腕を上げておこうと決心するナナだった。




