弟子見習い
コウのお誕生日は冬という事になっている。コウを草原で見つけたのが冬だからだ。
ナナのスマホを使えば、コウのステータスはおそらく調べられるけれど、コウが「今のままがいい」と言ったので、そのままにしている。
孤児院の子供達は、自分の誕生日を知らない。鑑定で年齢はわかるけど、生まれに関しては季節もわからない子がほとんどだ。
だから孤児院の子供達は、拾われた季節に誕生のお祝いをする。
そして、孤児院出身者は、ギルドでステータスを表示できるようになってはじめて、本当の自分の誕生日を知るのだ。
でもその頃には、本当の誕生日よりも、お祝いしていた季節に祝う事の方が馴染んでいて、そのままその季節で通す場合が多いようだ。
孤児院の子供達は、10才になると孤児院から出る準備として、商人の下働きをしたり、冒険者の荷運びをしたり、職人に弟子入りしたりするようになる。
孤児院の子供の雇用に関しては、町から補助金が出ているので、積極的に受け入れているところも多く、独り立ちが困難になるような事はあまりないらしい。
だから、10才になると否応なしに働き始める孤児院の子供達は、幼い頃から将来希望する職業につくためのビジョンを、かなりしっかり持っている。
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「俺を弟子にしてください!」
「ジル、お前は7才だろう。せめて10才になってから来い」
「俺が10才になるまで待ってたら、ロックは他の奴を弟子にしちゃうかもしんないだろっ!」
「コウがいるから、弟子なんて取らない。だいたい冒険者なんだから、弟子じゃなくて荷運びだろ」
「俺まだ7才だし、まだ荷運びできないから、ロックの剣の弟子になりたいんだよっ!」
「弟子にならなくたって剣くらい教えてやる」
「俺、コウと一緒に冒険者やりたいんだよ!コウは『67』で荷運びやるだろうし、それなら俺も『67』で働きたい!」
「ジルは、コウと冒険者をやりたいんだね。コウもそうなの?」
「ナナちゃん、ジルと、ぼうけんしゃやりたい・・・」
「だって、ロック。弟子が無理なら弟子見習いって事にして、安心させてあげたら?」
ロック、コウがウルウルした目で見てるよ。
「ジル、『67』は、マリンナで活動するパーティだ。遠征も余程じゃないと受けるつもりはない。名を上げるのはムリだぞ」
「ロック、俺は孤児だからさ、この町に育てられたんだ。恩返ししてからじゃないと、他所へなんか行けないよ」
「・・・・わかった、とりあえず、弟子見習という名目で剣の稽古をつけるだけだ」ロックが折れた。
「コウも、コウもやる、剣のでし、やりたい」
「わかった。それなら今から練習用の剣を選びに行くぞ。まずは木剣からだ」
「「やったー!!」」
「ナナ、少しこいつらと出掛けてくる」
「わかった、モモとお留守番してるね」
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ナナが庭でカブの皮むきをしながらモモとまったりしていたら、腰に木剣を刺した3人が帰って来た。
「師匠、木剣の金、出世払いでいいですか?」
「誕生日プレゼントだ。それから、師匠はやめろ。師匠と呼んでいいのは稽古中だけだ」
「俺、春生まれなんだけど・・・本当かどうかわかんねぇけど」ジルが口を尖らす。
「コウは、ふゆ、ほんとは、わかんないけど」コウも口を尖らす。
「いいんだよ。前の春と冬に渡すはずだった分だ。さあ、稽古するぞ」ロックが、パンパンと手を叩く。
ナナは、口を尖らす2人の様子を見て、コウはジルと一緒がよかったんだなと思った。
ジルの誕生日はあと5年くらい分からない。だから、コウも誕生日は拾われた季節のままが良かったんだ。
カンカンと木剣がぶつかる音が鳴る。
「ヤァー!」
あ、ジル吹っ飛ばされた。ドシャって落ちた。大丈夫かな?
「いってーっ!血が出てる!師匠飛ばしすぎだろ!」
「擦りむいたくらいで何だ。洗ってこい」
「やぁー!・・・ぁ」
あ、コウがカコーンってロックに剣を飛ばされて泣きべそかいてる。
「剣はすぐに拾いに行け。相手に取られたらどうする」
「はいっ」
コウが慌てて拾いに行く、あ、こけた。あらら、モモが先に拾っちゃったよ。
「おい、お前ら真面目にやれ」
「やってるよ!」「やってるっ!」
がむしゃらに突っ込む2人の相手をしているロックは、さっきから一歩も動いてない。ちょっと剣を動かすくらいだ。
「ヤァーッ!」「やぁー!」
庭に、元気な声と木剣のぶつかり合う音が響き渡る。
「せいが出るな!がんばれよ!」通りすがりのおじさんが、子供2人にエールを送る。
近所のおじいさん達が、ニコニコしながら見学してる。
「お芋ふかしたのよ。食べさせてやって」お向かいのおばあさんが差し入れをくれた。
「わー!ありがとうございます、美味しそう!おーい、お芋もらったよー。サマンサさんにお礼言ってー」
「ありがとう、ごちそうになります」
「うまそう!ありがとう!」「ありがとございますっ」
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お茶を淹れて、おやつ休憩。座るところがないから、座れるように板を敷いた。
みんなで並んで、ホカホカのお芋を頬張る。あんまり動いてないナナは、モモと半分こだ。
「ロック、俺が10才になったら、荷運びでつれてってくれ!」
「ウチのパーティ、あんまり荷運びの仕事ないからな。採集しながらついて来い」
「コウも、コウもいく!」
「コウはジルの2年遅れだから、モモと危なくない所で待ってろよ。採集も1人でしたらダメだ」
いつの間にか、ジルが10才になったら、『67』の荷運びや手伝いで雇うことがほぼ確定だ。ジル、やるなぁ。
コウとジルの冒険者修行は、まだ始まったばかり。




