ベン彫金工房と専属契約
ひまわり祭りの翌日は冒険者をお休みして、皆でベン親方にお礼に行った。
「こんにちはー!親方、トムさん」「親方、トムさん、こんにちは」「こにちはっ」
コウとモモはベン親方と初対面だ。コウ、だいぶ緊張してる。
「はじめましてっ、コウ、ですっ、こっち、は、モモですっ」「にゃー」
「おいおい、今日はまたすいぶん可愛いのが来たな!コウ、モモ、よろしくな!」
「よろしく、おねだい、しますっ」「にゃー」
コウとモモを見るみんなの顔が、ほっこりと緩んでいる。
「親方、たくさんお客さんを紹介してくださって、ありがとうございました」
「特殊効果2種類付加のオーダーがずいぶん入った。親方、ありがとうございました」
「ロック、その事で提案があるんだけどな、アトリエ・ロクナナを、ベン彫金工房の専属にしねえか?」
「それは俺じゃなくて、ナナの意見を」
「いや、アトリエ・ロクナナは、ロックが仕切って、嬢ちゃんが職人をやるスタイルだろ?」
親方の言葉に、ナナは確かにそうだと思った。ナナは作る以外はロックにまかせっきりだ。
「その通りだよ。オーダーのスケジュール管理や、約束の取り付け、それこそ付加の内容まで、本っ当にロックに頼り切り」
ロックには、深夜まで作業しがちなナナのストッパー役までさせている。
「だろ?だからワシはロックに話してんだよ」
「ベン彫金工房の専属の話は、正直ありがたいな」
ロックの言葉に、ナナが??という顔をする。
「嬢ちゃん、こういっちゃ何だが、アトリエ・ロクナナは始めたばかりの小さな工房だ。その小さな工房が今まで無かった技術を持っている。今のままじゃ強引に王都あたりに引っ張られる事になるぞ」
「ナナ、えげつない手を使う大手の工房が動き出してからじゃ遅い。守ってもらえる工房の専属になるのが一番いい」
「自慢じゃないがベン彫金工房は国からも一目置かれる工房だ。既に嬢ちゃんから技術提供も受けてる。ウチの専属になっちまうのが一番早い」
「なります!専属に!」ナナは即答だ。えげつない手を使う大手工房の相手とかムリムリムリ。
「でも、いいんですか?親方」
「ワシにもメリットがあるから、この話を持ち掛けてる。専属になったらな、ワシが作った物に、嬢ちゃんが持ち主専用の付加を付けてほしいんだよ」
「持ち主専用の付加ですか?それはかまいませんけど・・」
「悔しいがな、ワシもトムも何度も練習したが、特殊効果複数付加は出来ても、持ち主専用は出来ない」
「なるほど、武器は特に持ち主専用の付加が欲しいだろうな」
「そうなんだよ。武器の飾りに付加して欲しいんだ。アトリエ・ロクナナはウチと縁があると聞きつけて、既に問い合わせが凄くてな」
「ナナ、武器は相手側の手に渡った時に、凄い効果があればあるほどこちらの脅威になる。でも、持ち主専用なら効果が発動するのは自分だけだ。相手の手に渡っても普通の武器だ」
「なるほど、そういう事か!」
「親方、ぜひ専属契約をお願いします」
「じゃあ、これに目を通せ。相談しながら訂正して問題なければ出しに行く」
ロックは、親方と相談しながら色々と書類に書き込んでいく。
「ナナ!ナナのサインは、こことここだ」ナナは、ロックに渡された書類にざっと目を通してサインする。
「よし!すぐ役所行って書類出すぞ。早いほうがいい。トム!ちょと出てくる!嬢ちゃん達はトムと留守番しててくれ。ロック行くぞ!」「わかった」
紙の束を持った親方とロックが、役所に走って行った。
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「たっかーい!」「にゃー!」
「トムさん、重くないですか?」
「いや、ぜんぜん?」
トムさんは、小一時間ずっとコウを肩車して、モモを頭に乗せたまま仕事をしている。
トムさんが椅子から立ちあがるたびに、コウとモモの歓声が上がる。
歓声が上がると、トムさんも嬉しそうに笑う。トムさん、本当にいい人だ。
「トムさんっ、コウも、大きくなりたい!どうすれば、大きくなる?」
「いっぱい食って、いっぱい遊んで、いっぱい寝れば大きくなるよ~」
「コウ、いーっぱいたべる!それから、それから、いっぱい・・・あそんでるから、いっぱいねる!」
「お~、がんばれ~」
「もどったぞ」「ただいま」
親方とロックが役所から戻ってきた。
「今日から、アトリエ・ロクナナはベン彫金工房の専属だ」
「嬢ちゃん、よろしくな!」
「親方、よろしくお願いします!トムさんもよろしくね!」
「ナナちゃん、ロック、よろしく~」
こうして、怒涛の勢いでアトリエ・ロクナナはベン彫金工房と専属契約を結んだのだった。




