炎玉くるくる
ベン親方から紹介してもらったガラス工房「アトリエ・リンダ」は、江戸切子のような細工が得意な工房だった。若手の職人さんがたくさん在籍している。
無色のガラスの上に色を乗せて切り出されたガラスカレットは、とても綺麗だ。
工房主のリンダさんに譲ってほしいと交渉すると「いいですよー」と、あっさりOKしてくれた。ガラスカレットは、30cmくらいの麻袋1袋で銅貨3枚。かなり重いし色々な色が入っていてお得感がある。
ガラスビーズを作りたいと伝えると、ステンレス棒に塗る離型剤も分けてくれた。
ナナがドサっと置いた麻袋の中を、モモとコウがのぞき込む。
「さわっちゃダメよ、ガラスの破片は刺さると危ないよ」
モモとコウは、一歩下がってまたのぞき込む。興味津々なのに、腰が引けててかわいい。
「キラキラしたの、いっぱい」モモがうっとりすると、コウがこくこくと頷きながら「きれい・・・」とつぶやいた。
「これでトンボ玉を作るんだよ」
「とんぼだま?」
「ガラスのビーズだよ」
「ナナが炎を使うから、モモとコウは危ない。椅子を窓の前に置いておいたから、家に入って窓から見るといい」
モモとコウに、ロックが特等席を作ってあげたみたい。
「ガラスが飛び散ると危ないからね。近くで見るならロックもゴーグルしてね」
ロックはもしもの時のために、甕に水を入れて待機してくれている。
これからナナは、ガラスを溶かして形成する練習をする。
火事を出したら大変なので、アトリエではなく庭での作業だ。
ナナは、炎魔法で10cmくらいの炎玉を作り、その中にガラスカレットを入れる。ガラスは燃えないから、温度の高い炎になるように意識して力を込める。それを微風でくるくると回す。
ガラスが溶けたら、そっとステンレスの棒にからめる。くるくる回しながら、ステンレスの棒を炎玉から引き抜くと、球体が保てずにドロッと滴り、溶けたチョコレートのようにボトッと落ちた。炎玉の温度を上げすぎたのかもしれない。
せっかくのガラスを地面に落とすのは忍びないので、ナナは風魔法で、大きめの石の上部をスライスして台を作る。
30回くらいトライアンドエラーを繰り返し、やっとステンレス棒にガラスを巻き取る事ができた。
ステンレス棒に巻き付いたガラスの表面に、細かく砕いたガラスカレットを付けて、炎玉に入れて少しくるくる回したらすぐに取り出す。
赤と透明のマーブル模様に濃いピンクが散るトンボ玉ができた。カットした石に風魔法で溝を作り、そこにステンレス棒を置いて冷ます。
炎玉の中でくるくる回される事で丸くなったガラスは、独特のツヤが出て美しい。
ガラスの適温が分かってきたので、次回はガラス棒を作ってからバーナーワークのように作る方法も試してみたい。
炎玉くるくるで10個ほどトンボ玉を作ったナナは、ロックとコウとモモに満面の笑みで披露する。
「ナナちゃん、すごい、すごいね。きれいだね」
コウが見ているのは、透明な中にタンポポみたいな黄色が咲くトンボ玉だ。コウが目をぱちくりと輝かせる。
「透明な部分と色がついた部分が混ざり合って不思議な美しさだな」
ロックが手の平に乗せた、何色もの色を混ぜたとんぼ玉は、透明なガラスの中で不思議なグラデーション作っている。
「ナナちゃん、これ、きっとクロが好きだと思う」
カラスは光物好きだからね。
モモが肉球でポフっとしたのは、どういうわけかチタン蒸着のような効果が付いて、オーロラ色に輝いているトンボ玉だ。
ナナは、もう増える事がないと思っていた『チェコガラスビーズが入った仕切りケース』に、10個のトンボ玉を大切に仕舞った。




