ナナとベン親方は持ちつ持たれつ
ロックの紹介で『ベン彫金工房』に見学に行ける事になった。
ベン親方の工房は、ギルドの東側アナトリ川の近くに建っている。
ベン親方はお弟子さんと2人で、有名冒険者向けの一級品から、若手冒険者が手に取れるお手頃な商品まで手掛けるすごい職人さんだ。
アクセサリー制作だけでなく、魔法使いの杖の金属部分や、剣の装飾部分なども作っている。
「こんにちは、親方」
「おう、久しぶりだなロック。嬢ちゃんも良く来たな」
ベン親方は、スキンヘッドに髭モジャで、小柄だけど存在感のある人だった。
「はじめまして、ナナと申します。見学を許可して下さりありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
「よろしくな。早速だが、嬢ちゃんは特殊効果の付加ができるらしいな」
ロックと相談して、色々アドバイスがもらえるかも知れないので、親方には金属魔法が使える事を話してある。
「はい。金属魔法は始めたばかりの未熟者なのですが」
「金属魔法が使えるって事は、それなりにアクセサリーを作ってきたって事だ。未熟者じゃ扱えんよ。何か作品持ってきたか?」
ロックは、イヤーカフを外して親方に見せる。親方はイヤーカフをじっと見ている。鑑定中かな。
「これは・・・嬢ちゃんが?」
「はい、私が作りました」
「おい!トム!ちょっとこっち来い。これ見てみろ」
「はいはーい!」
「トム、ハイは1回でいい」
トムさんがイヤーカフを受け取って鑑定中。トムさん大きいな。2mくらいありそう。彫金職人さん、髭モジャ率高いな。2人しか知らないけど。
「あれ?・・・これ2個・・?専用っ?!」
「嬢ちゃん、どっかで修行したことは?」ベン親方の真顔、迫力ある。
「(へーリオスでは)ないです」地球の奈々だった頃、彫金教室に通った事がある。修業とはちょっと違うけど。
「じゃあ、どうやって付加を?」トムさん、手が震えてるけど大丈夫?
「イメージを膨らませて、魔法を使いました」
「イメージ?」
「はい、イメージを膨らませて」
「イメージで、専用に?」
「これに付加した時は、ロックの事を考えながら」
「それで専用に・・?」
「はい、それで専用に」
「嬢ちゃん、なんで2個も特殊効果がついてんだ?」
「使ってる金属ごとに金属魔法を使いました」
「パーツ毎って事か?組み立て前に?」
「いえ、繋げた後に」
「こんな、くっついてるパーツに別々にか?」
「くっ付いていようと離れていようと、別々のパーツですし」
「例えばな、ロックの付けてるピアスは、丸玉部分とポスト部分を接着してる。丸玉とポスト別々に付加できるって事か?」
「えっと、完全に同じ金属で一体になっていると、多分ムリです」
「付加してから接着したら?」
「付加した後の加工は、試してないので何とも・・・」
「嬢ちゃん、ウチの工房でワシが試してもいいか?」
「あ、はい、どうぞ」
「親方、こんな小っちゃいパーツを更に小っちゃくして付加したら、効果が低すぎないっすか?」
「バカもん、試しだって言ってんだろうが。2個付加できるか見るだけだ。お前職人だろ!こんなの試さずにおれるか!」
「付加できる効果は、金属の大小に影響されるんですか?」ナナは聞きたかった事を抜かりなく聞く。
「普通はそうだな。譲ちゃんのは違うみたいだが」
「小さな金属に大きい効果をつけられるのは、効果を個人に限定してる事は関係ないのか?」
ロックの言葉にベン親方がハッとする。
「嬢ちゃん。彫金に関する事で、なんか望みはないか?それをワシが全部叶えるから、嬢ちゃんの方法でワシに色々試させてくれ」
「試すのはかまいません。望みはあります。ワイヤーとかアクセサリーの基礎金具が欲しいです」
「ワイヤーを銀と銅でサイズ別に作ってやるから、そっから自分で好きなサイズのピンやカンに加工したらどうだ?それなら、材料費だけでいい。手間賃はいらない」
「あと、天然石ビーズが欲しいです。できたらガラスカレットも」
「天然石のビーズはウチはあんまり扱わないから難しいな。ルースなら紹介できるから、そこで聞いてみるといい。ガラス工房は紹介するから交渉してくれ」
「ありがとうございます!!私の方法は、どんどんお好きに試してください!いくらでも!何ならここで金属魔法使ってみせます!」
ナナ、目がヤバい。モモに見られたら「黒目が大きくなってるけど大丈夫?」と言われる目つきになってる。
「本当か?!使ってみてくれ!」
結局、ナナが5回ほど付加して見せた後、工房を隅々まで見学させてもらい、大満足で工房を後にしたナナだった。
帰り際にベン親方が「嬢ちゃん、何かあったら遠慮せず何でもワシに相談してくれ。その代わりワシの相談にも乗ってくれ」と言ってくれた。うれしい。もちろん食い気味にOKしてきた。
へーリオスのパーツが手に入りそうで、ホッとしたナナだった。
工房見学に来る前、ロックが、金属魔法の事を明かせば、親方が協力してくれるはずだと助言をくれた。
特殊効果を付加したアクセサリーを売ればいずれ周囲に知れる事なのだから、隠す必要はない。ナナの金属魔法の事を最初に話すなら、ベン親方が良いというのがロックの見解だった。
ナナは、今までにない特殊効果の付加は、それだけで職人さんへの交渉材料になると思っていたけれど、ここまで良い条件になるとは思っていなかった。
金属魔法の基本を知らないナナが、自己流で色んな事が曖昧なまま使って付加した効果だから、他者が再現するための条件を明確に説明できなかったからだ。
根っからの職人で探究心の塊な親方だから、こんな条件を出してくれた。
親方の工房でワイヤーを格安で作ってもらえるのは本当にありがたい。天然石の卸やガラス工房の紹介もすごく助かる。
アクセサリー作家にとって、材料の仕入れルートは財産だ。質の良い素材を扱う仕入れ先かどうか、通常は取り引きしてみないと分からない。親方の紹介なら間違いないだろう。
へーリオスの材料でアクセサリーが作れる。わくわくが止まらないナナだった。
ナナとベン親方との持ちつ持たれつな良い付き合いは、これから末永く続く事になる。




