コウは、じゃんけんが強いらしい
ナナは拗ねていた。子供相手に大人げないけれど、拗ねていた。
コウが来て1週間ほどになるけれど、モモとロックの名前は呼ぶのに、ナナの名前は呼ばない。
ナナを呼ぶときコウは、クィックィッとナナの服の裾をつまむ。
ナナは、コウに何も強制したくなかった。
だから、なんとなく「私の事も名前で呼んで」と言えなかった。
今日は、コウが少し風邪気味なので孤児院に行けず、ロックだけで討伐に出ていた。
コウは、モモと同じように、どこの部屋で寝ても良いことにしていた。
でも、コウはベッドを嫌がったので、空き部屋にラグをお布団のように厚めに敷いて、モモと一緒に寝ている。
微熱が出ているコウを、時々ナナが様子見に行く。
「コウ、ちょっとこれ飲もう。蜂蜜の入ったミルクだよ」
「うん、のむ」
「ナナちゃん、モモのは?」
「モモのもあるよ。モモは蜂蜜なし」
コウとモモがミルクを飲む。ぱぁぁぁとコウの目が輝く。かわいい。
「おいしい」
「よかったね。おかわり欲しい?」
「モモはおかわり」
「コウも・・・」
「たくさん飲めて偉いね。これならすぐ良くなるね」
コウのほっぺが赤くなって、にぱっと笑う。やだもう、どうしようコウがかわいい。
「ナ、・・・えらい?良い子だから、すぐよくなる?」
ナ?今、今、ナナって言おうとしたよね?なんでやめちゃうの。
「ナナは!ナナは、コウが良い子だって知ってるから、すぐ良くなると思うな」
「ナナちゃん、モモもそう思うな」
モモの援護射撃。ありがとう。
「ナナちゃ・・コウも、そうおもう・・きっとそう、おもう」
コウが赤くなってうつむく。
「コウ、コウ、もっとはっきり!ナナちゃんって!」
「ナナちゃん・・・」
「はーい!やったー!コウ、ナナちゃんうれしい!はじめて名前呼んでくれたね!」
「ナナちゃん」
「はーい!うふふふ」
ナナは、ニッコニコでコウに頬ずりする。
「ナナちゃん!」
「はぁぁい!コウ!」
「ナナちゃん!」
「コウ!」
互いにギュウと抱きしめる。
「モモも!」
モモを間に入れてギュウっとしていたら、二人と一匹を、後ろからロックがギュウっとした。
「おかえり、ロック!」
コウが元気にロックを迎える。
「ロックおかえり」
「おかえりなさいロック、変わったことはなかった?」
「ただいま。コウ、元気になったか?変わったことはなかったよ。お土産のサンザシだ」
ジャムを作ってから、ロックは1人で森に行ってもサンザシを採ってくる。
「うん」
まだちょっと微熱あるよ、コウ。
「お土産ありがとう!貯まったらジャムにするよ」
翌日、コウの熱は下がって、また昼間は孤児院に行くことになった。
孤児院に行くようになって3週間ほど経っても、コウは度々熱を出した。
コウは、孤児院について「たのしかった」としか言わないけれど、何かあるのかもしれない。
ロックに相談したら「子供がいっぱい集まるところは、風邪をもらいやすくなるからな」と言った。
もしかしたら、コウはこっちの風邪の抗体が無いから、どんどんかかってしまうのかもしれない。
コウは、外に出たことがない。赤ちゃんの妹以外、子供と接触したことが無い。
コウは今、初めてだらけの中で、頑張ってるのかもしれない。
ナナは、心が心配でいっぱいになって、コウをギュッとした。
「コウは、いつも頑張ってて偉いね」
「えらい?」
コウの頬が赤くなる。
ナナは、思い切ってコウに尋ねてみた。
「コウは、みんなと仲良く過ごせてる?」
「みんなじゃないけど、よくジルといっしょにいるよ」
「お友達できたの?」
「おれたちしんゆうって、ジルは言うよ」
「ジル、親友なんだ」
「こじいんのパン、すごくおいしいよ。お豆が入ってるの。マーサさんが焼いてるの。みんなでじゃんけんして、じゅんばんに大きいのをとるんだよ」
コウは、一気に話し出した。
「はじめは、じゃんけんわからなかった。でも今はとくい」
コウは、じゃんけんが強いらしい。
「こじいんは、いろいろじゃんけんで決めるよ。じゃんけん、だいじだよ」
「ジルは、じゃんけん強いの?」
「ジルは、まあまあ。よく負ける。コウは強くていいなって言う」
コウは、ちょっと得意げ。ジルは弱いんだ。
「ロックは、何でもつよいのはいいことだって言ってた。おふろはいったとき」
「ロック知ってたんだ。いいな、お風呂コミュニケーション」
「モモも知ってたよ。寝るときいっぱい聞いた」
「いいなー、私とも一緒に寝ようよ、コウ」
「ベッドにがて」
「コウさんったら、そんなつれない事を!」
「ナナちゃんが、こっちくるならいいよ」
「じゃあ、今日はここで寝よう!」
コウの発熱は、ロックの『子供がいっぱい集まるところは風邪をもらいやすい説』が正しかったみたいだ。
いつの間にか、コウに友達ができていました。
ナナはどうしても、地球での自分の社会人体験から、集団の中でのコミュニケーションの難しさに目が行ってしまいます。




