モモちゃんはファミリア
ナナとモモをよろしくお願いします。
風車の扉を開くと、外観通りの六角形の小部屋があった。
中は真っ暗なので、相変わらず心許ないLEDライトの光が頼りだ。
小部屋の中は、明り取りの窓と上へ続く階段があり、小さな椅子が2つ並べて置いてあった。
ほんのりと小麦の香りが漂っている。
「メッセージの人ー、つきましたよー」
「誰かいませんかー」
奈々は、周囲を見渡しながら、自分をここに呼んだ誰かに恐々と声をかける。
スマホで時間を確認すると18時18分だった。
「黒猫さん、この椅子って座っていいのかな」
「いいと思う」
「じゃあ座ろう。もう疲れた」
奈々が椅子に座り、奈々の膝に黒猫が乗った瞬間、スマホにピコンとメッセージが入ってきた。
「メッセ来た!」
慌ててスマホを確認する。
メッセージ:『そこで待っていれば人が来ます』
もう一度スマホがピコンと鳴る。
メッセージ:『それまでに知ってほしい事があるので、スマホに向って「マイステータスを表示」と言ってみて下さい』
言ってみて下さいって。声に出さなきゃダメなの?と思いながら、奈々は周囲を見回す。
黒猫と自分しかいないけど、なんだか恥ずかしい。
奈々は、少しだけ厨二病の気配を帯びるセリフに戸惑いを覚えるも、『ステータスオープン』じゃなくて良かったなと少しホッとする。
「マイステータスを表示」
奈々の声に反応して、スマホに『マイステータス』が表示された。
名前:ナナ(14才)
職業:未定
レベル:1
体力:20
魔力:502
攻撃力:8
防御力:22
素早さ:19
特技:金属加工・石加工・アクセサリー作成・魔力付与・鑑定・言語翻訳・充電
得意魔法:水(氷)・火(炎)・風・金属
ファミリア:??
称号:光と共に渡りし者
現在位置
「光と共に、渡りし者・・・?」
称号:光と共に渡りし者
マイステータスを見た途端、今まで見ないようにしていた現実が、次々と奈々に押し寄せる。
渡っちゃったか。光と共に渡っちゃったのか私。
どっからどこへ? 地球から?日本から? ここはどこ?
「やっぱり日本じゃなかったか。そんな気がしてた」
名前:ナナ(14才)
ナナだけ?苗字はどこいっちゃったの?
え?私14才なの?
慌ててスマホのカメラで自分の姿を確認する。
どう見ても中学生。推定14才(中二)だった。どういう事なの?何で14才?
ここって子供が安全に1人で暮らしていけるの?危なくないの?孤児院とかあったら行かないとダメ?
「14才だって。着てた服に違和感がないから全く気付かなかった」
体を確認してみたら、服はサイズぴったりだけど、体は少し小さくなっている気がした。
「14才の時の私って、どんな感じだったっけ」
言葉だけが、ぽつりぽつりと冷静に紡がれる。
見ないようにしていた現実が、次々と奈々に押し寄せる。
体の末端が冷えて、心臓が激しく脈打つ。体が震えて涙がにじむ。
ファミリア:??
「ファミリアって、私、ここに家族がいるの?」
「ファミリアは従魔だよ。私の事だよ」
黒猫が膝の上から答えた。
「黒猫さんの事?」
「うん。名前をつけてくれたらファミリアだよ」
「名前、私が黒猫さんの名前をつけるの?」
「うん」
「モモ。モモちゃん」
「モモ?」
「うん。モモ」
「わかった」
モモが頷いた瞬間、ふわっとモモと奈々の体が光った。
ステータスは、『ファミリア:モモ(黒猫・メス)』に変わっていた。
奈々は、松谷美代子さんの「小さいモモちゃん」シリーズに出てきた黒猫を思い出したから、モモと名付けた。
黒猫だから「モモちゃんとプー」からモモ。ん?モモ?
ごめんモモちゃん、黒猫の名前はプーだった。間違ってた。まあ、かわいいからいいか。
「私はナナ」
「ナナ」
「うん、よろしくね。モモちゃん」
「ナナちゃんよろしく」
町田奈々45歳(現在は14歳)。独身。アクセサリー作家(未定)。
現状把握が全くできていない中、モモちゃんとファミリアになった。