コウ(2)
しばらく辛いお話が続きます。小さな子供が辛い目に合う話が出てきます。ご心配な場合は、「コウ」数話を読み飛ばして下さい。でも、コウは必ず幸せにします。
翌朝、みんなでご飯を食べる。
冒険者は、今日はお休みする事にした。
ナナは、ふわふわのスクランブルエッグを作った。ロックは、とっておきのワイルドホワイトターキーのベーコンを焼いた。炙ったバケットを添えてある。
飲み物はみんなホットミルクだ。
「コウ、ふわふわの卵おいしいよ」
「うまいぞ。食べてみろ」
コウは、みんなの顔を代わる代わる見ながら、スクランブルエッグを木匙ですくって、口に運ぶ。
「おいしい」と小さな声で言った。
みんながホッとして、ご飯を食べ始めた。
コウが、ベーコンをひとくち齧って、目をキラリンと輝かせて、かすかに微笑んだ。
昨日コウに会ってから、はじめて見た笑顔だった。
「おいしい?私たちが獲ってきたお肉のベーコンだよ」
「すごい、おいしい」
「もっと食べろ。これもやる」
ロックは自分のベーコンを半分にして、コウのお皿に乗せた。
コウは、目をぱちくりとして「たべてもいいの?」と聞いた。
ロックは、コウに笑って見せて、うんうんと頷いた。
コウは、半分のベーコンとロックを交互に見て、そーっと半分のベーコンに齧りついた。
ロックは、またうんうんと頷いた。
ロックとナナは、朝食の片付けをはじめた。
コウは慌てて椅子から降りて、自分も手伝おうとした。
ガシャン
コウは、コップを床に落としてしまった。
「ごめ、ごめんなさ、ごめんなさい、ごめんなさい」
頭を抱えて、丸くなってうずくまるコウ。
「落としちゃったの?大丈夫だよ。金物だから落としても壊れてないよ。安心だよ。大丈夫大丈夫」
ナナが背中を撫でると、ビクッとコウの背中がゆれた。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
モモが、コウの体にスリスリと体を寄せる。
「コウ、誰も怒ってない。大丈夫だ」
ロックがコウを抱き上げて、ラグの上に座らせる。
するりとモモが動いて、コウに寄り添う。
「ナナ、俺は役所に行ってくる。後片付けを頼めるか?」
「わかった、いってらっしゃい」
ナナがキッチンで洗い物を済ませてもどると、モモとコウがラグの上で寄り添って寝ていた。
ナナは、そっとコウの頭を撫でた。
昨日の夜、ナナはコウを鑑定してみた。
『光と共に渡りし者。甲。5才。男』
前の世界の情報は無かった。名前は甲だから、日本人かもしれない。
コウは、背中と脇腹と腕に痣とひっかき傷があったそうだ。
ロックが、お湯がしみるかもしれないと思い「痛いか」と聞いたら、「へいき」と答えたそうだ。傷がしみているはずなのに。
コウは、痛みになれているのかもしれない。
コウは、自分の事を知らない。自分の年齢も、自分が住んでいた場所も、自分の苗字も知らないと言った。
行ったことがある場所を聞いたら「おうちとベランダ」と答えた。
あれから、メッセージの人からのメッセージはない。
2時間くらいでロックが帰宅した。
「役所がひとまず親を探すそうだ。親が見つかるまでは、ウチで一時預かりはできる。けど、17才で未婚の俺は、コウを引き取れないかもしれない。そう役所で言われた」
「親は、探しても見つからないよね。その場合、コウはウチじゃないどこかに引き取られるの?」
「そうなるかもしれない」
「そんな・・・」
「明日、役所から役人が来る。コウの希望を聞いて、孤児院かウチか預かり場所を決めるらしい」
コウとモモがお昼寝から起きたから、コウに草原に来た経緯を聞いてみた。
コウには、まだ赤ちゃんの妹がいたらしい。その子は「オツ」と呼ばれていたそうだ。「乙」なのかもしれない。
オツは、『バーバ』がどこかに連れて行ったらしい。
オツが連れていかれてコウが泣いてうるさくしたから、親がベランダに出したそうだ。
コウは、ベランダで何日か寝て、起きたらへーリオスにいた。
コウは外に出たことがなくて、草原でどうしたらいいのかわからなかったそうだ。
コウは、ベランダで数日寝たことを、普通の事のように話した。そういう事が、よくあったのかもしれない。
コウの話を聞いて、ナナは不安になった。本当の事を、役人に言ってしまっていいのだろうか。信じてもらえるだろうか。
「この話って、コウが役所の人に言っても信じてもらえるかな」
「子供のコウが話す事を、役所の人間が信じるか信じないかは関係ない。役所からすれば、コウが草原に捨てられていた、それが全てだ。親に捨てられたコウが、心に深く傷を負っている事が伝わればいい。俺たちが感じた事をちゃんと伝えれば大丈夫だ。」
「コウは、ここにいたいって言うかな」
「そう言うといいな」




