へーリオスに来る前のこと
地球での奈々は、両親と一緒に2階建ての戸建てに住んでいた。
妹は結婚して家を出ていたので、両親との3人暮らしだった。
ある日両親に、妹夫婦と同居する事と、家を建て替える事を聞いた。
両親からも妹夫婦からも「お姉ちゃんの部屋もあるから心配しなくて大丈夫だよ」と言われたけれど、奈々は迷っていた。
奈々は、自宅のアトリエ(6畳の自室)で仕事をしているから、ほぼ1日中家にいる。
アクセサリーの販路は、自分のサイトとネットのハンドメイドサイトがメインだ。
だから外出と言えば、歩いて5分の郵便局ポストと、委託販売してくれている雑貨屋さんや美容室さんへ月に2度納品に行くくらいだ。
パーツの仕入れはネットで手配できる。輸入品のビーズや金属は偽物が多いから、信頼できる業者さんとしか取引しない。
天然石の買い付けも、決まった業者さんのサイトから。
結婚する予定もなく、友達も少なく、ずっと自宅にいる姉。
今は良くても、きっと妹を困らせる時が来る。
奈々は、吹けば飛ぶような個人事業主だ。
今までは実家に住んでいたからうまく回っていたけれど、家賃を払って住むとなると色々心配になる。
いつまでも元気じゃない。年を取ればどんどん動けなくなる。そうなる前に、何とかしないと。
漠然とした不安と危機感がつのる。
奈々は、田舎への移住を考え始めた。
ここよりもっと家賃が安い田舎だったら何とかなるかもしれない。
奈々の仕事はどこだってできる。環境を変えるなら早いほうがいい。
郵便局か郵便ポストが近い場所を選んで、委託販売への納品頻度を月1にしてもらって。色々調整すればいけるかも。
きっと大丈夫。
でも不安。
頭の中で大丈夫と不安がせめぎ合う。
奈々だって、本当はわかっている。何が不安なのか。
実家を出るという事は、ひとり立ちするという事だ。
奈々にはまだ、1人で生きていくことを選ぶ覚悟がない。
会社員でうまく立ち回れず、1人でできる仕事を選んだ。
あの時それができたのは、家族がいたからだ。
田舎暮らしになって物理的な距離ができたって、家族は家族。
仲がいいし絆だってある。それはわかってる。
いい年して甘えてる。10代で独立する人だってたくさんいる。誰かに相談すれば、きっとそう言われるだろう。だから誰にも相談できない。
家族には『この機会に前から夢だったほっこり田舎暮らしを始めたいお姉ちゃん』を装ってるけれど、心は不安でいっぱいだ。
奈々は煮詰まっていた。
そんな時だった。へーリオスに飛ばされたのは。
本当に何の準備もできずに飛ばされたし、自分で選んで来たわけではないので、へーリオスに来て良かったとまでは思えない。
家族は大好きだし、もう会えないのは本当につらい。
でも、少しだけ肩の荷が下りた気がした。
今になって思う。奈々は、周囲に気を使われている、この先扱いに困るであろう自分が、悲しかったのだ。
ロックとモモとの生活は、そういう悲しさを感じることは無かった。居候なのに。
家族には時々すごく会いたくなるけど、あちらの世界で、家族が無事に生きていてくれるだけで、いいかなと思うようになった。
ナナは、地球でたった1人で田舎で暮す事を考えると、へーリオスで2人と1匹で暮らす今は幸せだと思う。
そうロックに話した。
ただ、45才だった事は、なんとなく言えない乙女なナナだった。
地球での奈々は、両親と仲良く暮らすやさしい女性でした。
会社をやめた時も、自分ができることを考えて、そこから信頼を積み上げて、強かに自分がやりやすい環境を作り上げる事ができる女性です。
誰も悪くなくても、こういう気持ちのすれ違いは起きるものだと思います。お互いを思い合っているからこそ。




